やる気、ホラを吹いて山を登る
専用眼鏡には、高性能ドローンであるスキュアが見下ろしている景色が映し出されている。
その映像には、大きな岩の上で両膝を抱えて座って黄昏ているヴァンの姿があった。
一応、専用眼鏡で彼の位置確認したのだけど、聖域結界に弾かれ最初に飛ばされた位置から全く動いていなかった。
理由は判らないけど、どうやらその場に留まって大人しくしているらしい。
そんな彼を国に返すため、これから迎えに行かなければならない。
私たちを乗せた巡洋船を最初の島に戻して、灯台の下に造ったコンクリート製の桟橋に接舷させた。
陽が傾き始めたので、今晩はここに停泊予定だ。
その前に、ヴァンを迎えに行く理由で、再びエリックを連れ出して今度は船外へと出た。
コンクリート製の桟橋、その根元部分にある岩壁に設置しておいた鉄製の扉から灯台地下にある地下通路に入る。
すぐ近くにイステールがここへ来るのに使った電気自動車があったので、それに乗り込んで瑞穂の館方面へ走らせた。
エリックは、いままで疑問に思っていたことを遠慮がちに聞いてきた。具体的には、巡洋船やゴムボートに今回の電気自動車、地下通路に関してだ。
どうやら国家機密に触れるものとして、それでも教えってもらえるなら、といった感じらしい。
そもそもエリックは私のことを幻の大陸の住人と勘違いしている様子だ。その勘違いを利用して、この星界に照らし合わせて言葉を選び、遠い昔の偉大なる魔導師たちの造り上げた魔道具としてでっち上げた。
実際、星界システムのデータを専用眼鏡を使って、彼らの言う幻の大陸をざっと調べてみたけど、そういった文明はもちろん発展した魔導や科学は見当たらなかった。
どうせ確認や裏取りをする術も無いだろうと、でっち上げのホラ話を吹いた。
私たちはその超古代文明を生きていた偉大なる魔導師たちの生き残りの子孫で、幻の大陸に住んでいた。古くから家に伝わる文献をもとにここにやってきた。
内容は、遙か遠い昔、この群島は一つの島で形成されていて、そこに偉大な魔導師たちが住む超古代文明が存在していた。ところがあるとき、島にあった火山が噴火して、ひと晩でその超古代文明をすべて飲み込んで沈んでしまった。
いまここが群島の形作って居るのはその名残であり、私たちがこの島にやって来た際、文献にあったこの秘密の通路を発見して奥を探索したところ、稼動していたこれら魔道具を偶然発見して使っている。
私たちが使っている魔法も偉大なる魔導師たちの秘術である。と、聞く者が聞けば眉唾モノの大嘘を吐いた。
そんなホラ話にエリックが疑った様子が見られなかった。むしろ、信じているフシがある。彼を救助してから色々と見せているから疑いづらいのかもしれない。
「この島にそんな曰くが……聞いたこともなかった」
「大昔の話だからな」
「ただの……航海の目印に使えるだけの島かと思っていたが、俺たちがもっと早くこの島を探索して発見していれば帝国の所有物になっていた可能性もあったのか……」
今し方、でっち上げた大嘘だからそれは無い。と、口にせず心の中でツッコんでおく。
ただ、エリックの口ぶりからすると、所有権に関しては、第一発見者かその者が所属する国家の所有物として認められているように感じる。まぁ、それが認められていないと言われたとしても、渡すつもりは無いけど。
そんな話の流れで、この星界の、現在の主な移動手段を聞いてみた。エリックの所属する帝国では主に人や牛馬を使った引き車を使っていて、国や地域によっては他の生物を代替にした引き車があるそうだ。船に関しては、帆船と人力で櫂で漕ぐ船が存在するらしい。
話の中には自走出来る車の話は出てきていない。当然、船もだ。航空機関係に関しては皆無だ。私も、自分が望む将来の文明文化の発展を見越していまの時代に降り立ったのだから当然の話ではある。なので、自走する車や船、航空機が登場するとしたら、動力機関の発明を待たなければいけないので、まだまだ先の話になると予想される。
もしかしたら、魔導や魔法の力をもってして、その時期が早くなるかもしれないけど、物事の発見や閃き、様々な分野の基礎を育成発展しないと難しい話だろう。
電気自動車に乗って、地下通路の中間地点にやってくると、そこで停車させた。
専用眼鏡の表示だと、ここのコンクリート壁に階段を設置すると最短でヴァンのいる所に辿り着く場所だ。また余計な設備を追加することになる。そう辟易しながら、いまは時間を最優先と考え直して、壁に向き合った。
フリー素材の情報から、地下の階段造りは拠点作成の拡張・縮小に含まれるようなので、専用眼鏡で地形確認と設置場所を決めて鍵言を唱える。
「【拠点作成・拡張】」
「……これも偉大なる魔導師たちの秘術ですかい」
「そうなるな」
一瞬の輝きとともに鉄製の扉が現れる。横にいたエリックの反応は希薄だ。驚きや感動もなく、何度目かの諦めの表情を見せながら、私がでっち上げた大嘘で語った言葉を呟いていた。
そんなエリックを連れて、扉の中に設置された階段を、蛍光灯の明かりを頼りに、何度も折り返しながら昇っていく。
途中から遅れ始めたエリックを気にしながら、一番上の出入り口が設置された小部屋に辿り着いた。そのことをエリックに伝えて階段を昇る気力を促す。
やがて遅れてやってきたエリックが息を切らせ最後の段に足を掛けたのを確認して、小部屋にあった鉄製の扉を開いて外へと足を踏み出した。
そこは大小様々な灰色の岩と所々に生える緑の植物に覆われた山肌だった。すでに辺りを薄暗い影が覆い始めている。赤く染まった空では同じ場所で旋回すしているスキュアの姿。その下にある岩の上で座り込んでいる小さな人影があった。
専用眼鏡を使って実測してみると、ヴァンのいる岩の上部が聖域結界の天蓋部分の三百メートルラインギリギリだった。その所為で、下に降りらず途方に暮れているといった状況のようだ。なんとも運が悪い。
「エリック、あそこにヴァンがいる。説得して連れてきて欲しい」
「……ハァ。あそこに。……判った。確か、デザイアさんに悪意や敵意を向けないよう言い聞かせればいいんだな?」
「当然、実力行使もだ。車内でも話したけれど、それが結界内に入れる条件だ。すぐの心変わりは厳しいかもしれないけど出来るだけ早くな」
「ああ、善処しよう」
扉の外に出て膝に手を当て呼吸の乱れを整えていたエリックに声を掛けて、ヴァンのもとに向かわせた。その間、私は呼び寄せたスキュアを腕に乗せて戯れながら、エリックとヴァンの様子を窺っていた。
やがて、エリックの説得が功を奏したのか、ヴァンが聖域結界の天蓋部の境界を越えられたようで、黄昏ていた大岩の上からゆっくりと降りていた。
最悪、腹が減っていると思われるから、差し入れだと偽って睡眠薬を仕込んだ食料を使って、眠らせから運ぶことも考えていたけれど、労力的に厳しかったからやらなくて済んでよかった。
私は腕に止まっていたスキュアを先に帰して、足早に戻って来る二人を待った。
「姉さんっ、すんませんっしたー」
おそらくエリックが説得の際、色々と言ったのだろう、ヴァンは私の目の前に来るなり、直角に頭を下げて謝ってきた。だけど、姉さんってなんだよ……。って、まだ名乗っていなかったか。
土下座が見られないのは残念だけど、既にエリックからヴァンの行いについて謝罪を受けているからヨシとする。
「今後は気をつけてくれ。次は本当になにもない海に投げ出されるかもしれないからな」
「……へっ?」
ヴァンは私の顔とエリックの顔を交互に見る。そこでエリックが頷くと顔を真っ青に変えていた。
今回のことで、聖域結界に弾かれた者は、最短にある結界の切れ目に飛ばされると判ったけど、このことは二人に話さないでおく。
「では、エリック、用件も済ませたし船に戻ろうか」
「まぁたあの階段を使うんですかい……」
「昇るよりは降りる方が楽だろう」
エリックが階段を使うことにゲンナリしていたけど、帰りは楽だろうと返しておいた。実際は足を下ろすときに膝に結構負担が掛かるから別の意味で大変なんだけど、まぁなんとかなるだろう。
やがて、私たちは階段を降りきって、通路脇に停めていた電気自動車に乗り込だ。
案の定、エリックは足や膝を酷使した様子で、助手席に座ったあと、やたらとふくらはぎや膝をさすっていた。戻ったら医務室で診てもらおうな。
ちなみにヴァンの方は、若いからなのか膝にそれほどダメージを負っている様子はなかった。代わりに、初めて乗る電気自動車内の後部座席で顔を強張らせながら大人しく固まっていた。
ともあれ、こうして私たちはヴァンを回収して巡洋船へと戻った。
我が妄想




