やる気、星界の小島に降り立つ
私は今、創造者本体の心内から抜け出して、どことも知れぬ砂浜の海岸に居た。
いや、観賞モードの追加設定で干渉モードに変更したのだから我々が手掛けた箱庭である星界の地表に居るのは間違いない。
ステータス画面で位置確認ができるから開いてみる。目の前に画面が現れ、そこに簡易の人型ステータスと地図が表示された。使用されている言語は、創造者たちが使う言語ではなく、地球型星界の日本語が主表示になっていた。
創造者本体が嵌っ……目標にしていた文明文化なので判らなくもない。我々が作成したこの星界は目標と大分違う様相になってしまったけど、日本語になっているのはその名残だろう。
確かにその文化は独特の情緒を醸し出し、そこで生み出される創作物は、創造者の世界に影響を与えるぐらいに面白かった。
実際、その影響を受けた他の創造者たちは地球文明文化愛好家となり、類似した星界を生み出しては、仲間内で集まってそれぞれの違いを比較検討しながら交流を重ねていた。
そんなことを思いながらステータス画面に視線を走らせる。
人型のステータスは数値化はされていないものの、素体各部位の状態が表示されている。創造者本体が手掛けて創ったこの素体の状態は上々で亜神扱いになっていた。
そして、数値化されているのは、MPと呼ばれ、様々な創造物を作成する際に消費するポイントだけだった。
素体を使って現地に降りる観賞モードだけあって、ステータスのすべてがこの星界で生活する分には余裕のある、それこそ多少のことでは問題が生じない水準に設定がされていた。
強いて言えば、既に用意されていたこの素体の構成が、創造者本体の趣味嗜好と理想が反映されているのか、少年期後半から青年期前半ぐらいの人型の女性体となっていることか。
私の中には創造者本体に付随した意思が共有されているのだし、初期設定のゼロから造った素体だからなのか下着なしの貫頭依だけというのを抜きにして、その性癖はある程度は理解できる。
……できるのだが、こういったものは自分で動かすのではなく偶像として観賞して楽しむものだといった考え―――異論反論は認める―――があるからこそ、この女性体を使って活動するのに多少の抵抗感がある。
「……慣れるしかないか」
私はやる気なのだ、その気になれば何でもできる。そう思い込みながら、ステータス画面に付属された地図を確認した。
世界地図に表示された現在位置の光点を拡大していく。
どうやら、この星界の文明圏が発生した大陸から少し離れた場所に在る、幾つかの群島で成り立っていた島々の一つに辿り着く。直径が約十キロぐらいの小島で形が歪になっていた。
現状においてアクセスできる権限レベルで星界データに記録された島の形成情報を確認する。
元々一つの大きな火山島だったらしく、何度か噴火に因って幾つかに別たれた島の一つで長い年月へ経て、風雨や海水による侵食で現在の地形が形成されていた。
そのことを示唆するように、この島の近場に連なるようにして幾つか同じような島影が、ステータス画面に表示された地図でも確認できた。
現在は噴火もなく安定している、と出ている。つまり、この島とここを含む幾つかの島で構成された群島は、噴火の心配なく安全に過ごせる場所らしい。
ちなみに、この群島に住人の生体反応はない。代わりに、結構な数の動物らしき生体反応が在るだけだ。
ただ、自分も星界創造に携わった当事者になるから、現在のこの星界の住人の文明水準と技術力を知っている。
この星界は魔法技術の発展で、地球型で言う古代から中世が入り混じったような世界。まだ自らの力で空を飛ぶ技術はないけど、それなりに航海技術も持っていることを。
なので、この群島が星界の住人にとって未知なのか既知なのか判断が分かれる微妙な距離に在ると思われる。
漁に出るには遠いけど、航海するには丁度いい目印になりえる大きさ。最悪、この群島の存在が住人たちに知られていると考えて、周囲に視覚障害の結界を張ることにした。
ステータス内から使用できそうな鍵言を探す。
……ふむ、結界は有るんだが聖域結界しかない。まぁ、視覚障害も聖域もあまり変わらないだろうから、この群島の外側十キロに設定する。
「【聖域結界】」
ステータス画面から鍵言を選んで唱えるだけの簡単操作で、この群島の外周十キロ、高度三百メートルの円柱状に通常では目に見えない聖域結界が張られた。
私がここに来た理由は、己の気力を補充する為の休暇なのだから、この星界でそれが回復するまで悠々自適に暮らす予定だ。
誰にも邪魔されたくないし、星界の住人との交流はそれほど望んでいない。
現状で聖域結界を張っているとしても、万が一住人との接触する可能性も有りえるから、やってきた者たちの人となりを見て受け入れるか追い出すかをしなければならないだろう。
いちいち確認するのも面倒臭いから、聖域結界を設定した私に対し悪意や敵意を持っていると結界の外へ弾くように変更する。
そして、私が受け入れた場合だけ、聖域での活動許可証として何か身に付ける物を渡せばいい。私の分は必要無さそうだけど、一応創ることにする。
で、いつも肌身離さず身に付けている物……って考えたら即座に眼鏡が浮かんできた。首飾りとか、腕輪とか、指輪とか、アクセサリーになる物は色々有るだろうに。
あきらかに創造者の趣味嗜好が業となって思考に反映された結果だ。困ったものだ、ははは。
ついでだから、諸々の便利機能を搭載した自分専用眼鏡にする。
ステータス画面にある鍵言を選択実行すると、光と共に眼鏡が瞬間作成された。
「……ふ、ふふふ」
鑑定はもちろん望遠、遮光を兼ね備え、視線と動作、発声と思考の読み取りで鍵言の簡易入力と指向設定ができる諸々の機能を盛り込んだ。これで、ステータス画面を開かなくても鍵言実行ができるようになった。
自分専用にカスタマイズした眼鏡を掛けて百パーセントの私から百二十パーセントの私へ変身。
ステータス画面を閉じる前に、そこに投影された己の専用眼鏡を掛けた姿を色々な角度から眺めて、しばし悦に浸ってしまった。
我が妄想




