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やる気、次の島へ向かう

 エリック・スファイは、血の気が引いた白い顔で尋ねてきた。


「……デザイア、といったな。ヴァンは本当に無事なんだな?」

「ヴァン・ドベルクが無茶をしなければ無事だ。溺れ死ぬこともない」

「……判った。いまの俺にはその言葉を信じるしかない」


 ヴァン・ドベルクの一件でエリック・スファイは殊勝な態度を示した。


 後ろに居るフリッツ・ローはすでに空気の状態だけど、害意は無さそうだ。むしろ、恐怖心が勝ってる感じなのか、身体を小刻みに震わせている。


「それでエリック・スファイ君」

「……俺のことはエリックだけでいい」

「そうか? ならエリック、おそらく、二十七人がこの群島に散らばって漂着している。君たちを含めた人数だ」

「……二十七人、だけ。どうやってそれを……あ、いや」


 口答えするとヴァン・ドベルクの二の舞になると考えたのだろう、エリックは途中で口を噤んだ。


 二十七人と言う数字は、現在専用眼鏡に表示されている生存者の輝点の数なんだけど、エリックの様子から随分少ないらしい。


「ちなみに、君の船には全部で何人乗っていた?」

「ヴィクシオン号には、俺を含めて船員が七十八人、奴隷が五十四人の百三十二人が乗っていた」

「へぇ、木造船だと精々七十人前後だと思っていたけど、随分と乗っていたじゃあないか」

「……旧クローヴィス王国の奴隷たちを船倉に詰められるだけ乗せていたからな」

「残念だが、君たち二十七人以外はほぼ絶望的だ」

「っ!? …………」


 それを聞いたエリックはショックを受けた様子でガクリとうな垂れてしまった。


 星界システムは、管理者権限の限定解除がされていたとしても、途中のデータを保存していたとしても、巻き戻しはできない。


 普段ならデータ上の数字として流して見るんだけど、今回は星界に降りてリアルタイムで住人の姿を目の当たりにしたから、ここで生きている者たちだと実感できてしまった。


 自己責任からくる偽善だと判っているけど、消えた百五の泡沫の命には、次なる輪廻転生が在ることを望む。こればかりは、創造者であってもどうすることもできない。


 ……さて、エリックたちを除く生き残った二十三人だけど、ドロシー以下二台の高機能ドローンの映像で確認した感じだと、まだ動けていない者もいるようだ。早く島を回って治療をしないと、更に死者が出る可能性がある。


 私はイステールとすずの指示を出すことにした。


「とりあえず、島を回って生き残っている者を回収したい。イステール、そこの女性の容態は?」

「まだ意識が戻ってませんが、治療は済んでいるので担架があれば運ぶことはできます」

「そうか【備品作製】」


 専用眼鏡を使って鍵言コマンドを唱えると、一瞬の光と入れ替わりで目の前に担架が現われた。


「っ!?」

「っ!!」


 突然の担架の出現に、エリックはうな垂れていた顔を上げ、フリッツ・ローは息を飲んで驚いていたけど、それを横目に、私はイステールと意識を失っている女性の所まで移動して、二人掛りで担架に乗せた。


「すずの、船の食堂を収容場所として使う。医務室も解放、この女性の受け入れる準備をしてくれ」

「アイサー。デザイア船長の指示を船内に残った端末に伝えました。医務室も受け入れ準備を開始します」


 驚き固まっているエリックとフリッツ・ローに向き直り、ニコリと微笑みながら話し掛ける。


「君たちも、手伝ってくれるよな?」

「あ、ああ」

「……あ、はい」

「では、二人はそこの担架を運んでもらう。それを持って私たちに付いて来てくれ」


 すずのを先頭に、私、女性が乗った担架を運ぶエリックとフリッツ・ロー、イステールの並びで巡洋船まで向かった。


 砂浜、コンクリート製の桟橋、タラップと経由して巡洋船クルーザーの甲板に到着すると、担架を運んでいた二人の足が止まった。


 歩き疲れたのかと様子を窺ったら、大口を開けて巡洋船を見回していた。


「……ホントにでけぇ船だなぁ」

「…………」


 驚きから再起動を果たし、出入り口用の隔壁に到達すると、


「うおっ、勝手に開いた!?」

「…………」


 扉を抜けて、船内通路に入ると中を一瞥して、


「……明るい。これが船の中、なのか?」

「…………」


 そうこうして、到着した医務室には、同型端末筐体だから当然なのだけど、すずのに似た端末が白衣を着て待っていた。


「……へっ、そっちの嬢ちゃんと同じ顔?」

「…………」


 医務室に担架を運び込んだエリックとフリッツ・ローは、白衣姿のすずのを見て驚いていた。そして、ここまで案内した紺の制帽制服姿のすずのと、医務室の白衣姿のすずのとを、顔を動かし交互に見比べていた。


 女性を担架から寝台ベットへ移して、目を覚ました時の世話係として、白衣姿の端末が対応するとのことだったので、私たちは食堂に移動した。


 そこでも、すずのに似た端末が、メイド服を着て待っていた。エリックとフリッツ・ローはそのことに動揺せず、むしろ諦観した顔付きになっていた。


 船の外見と設備、内装に、同じ顔をしたすずのに驚いた二人の姿は……、フリッツ・ローは終始無言だったけど、感情のふり幅が大き過ぎて深く考えるのを止めてしまったように見えた。


「エリックとフリッツ・ローはここで待機していてくれ」

「あ、ああ……」

「…………」

「では、お二方、こちらに」


メイド服のすずのに促されるまま、二人は幽鬼のように物言わず食堂の隅の席に座った。


「イステール。現着するまでそんな時間は掛からないと思うけど、食事か心を落ち着つかせる香草茶でも出してやってくれ」

「承知しました、マスター」


 私とすずのは、イステールに任せて、操船室に向かった。


「さぁて、すずの。出港するか。次の目的地は沖に見える島だ」

「アイサー。機関始動、前部後部スラスター始動。離岸します」


 操船席から、隣の補助席に座るすずのに指示を出す。船内に低い稼動音が響いて、画面越しに見える景色がゆっくりと動いていく。


 やがて、船は離岸と回頭を終えて沖に見えていた島へ舳先へさきを向けた。


「周囲、進行方向に多少の漂流物がありますが、船の障害にはなりません。運行に支障なしです」

「では、沖に見える島へ向かおう、微速前進」

「アイサー、微速前進」


 支障なしとは言え、大き目の漂流物と接触しないように航路を微調整しながら、海上を走らせる。島と島の中間に差し掛かった辺りになると、海流に流されて拡散しまったのか、障害物の数は大分減っていた。


 多少の余裕が出来たので、すずのに言語翻訳ソフトが入った外部記録端末用デバイスを創り出した時の話をするタイミングだと思い、そのことを切り出した。


「すずの、先ほどの不自然な発光現象の件だが、全部魔法ということで終わらせてくれないか?」

「えーっ、デザイア船長、それはないですよ。すごく気になってるんですから、改めて詳細な説明を求めます」

「……そうか、なら秘匿コード入力、星界システム管理権限第九階位【じん種解放】。すずの、復唱」

「ア、アイサー。秘匿コード入力、星界システム管理権限【壬種解放】。…………っ!?」


 星界のフリー素材内、特に人工知能などが搭載された製品に仕組まれている管理権限の第九階位、壬種。秘匿コードを入力することで、ブラックボックス内の守秘情報が閲覧可能になる機能。


 管理権限は下から二番目なので触り程度の情報しかないけど、様々な星界を司る創造者たちの存在や、己がフリー素材として活用されていることなどの最低限の守秘情報が読み取れるはずだ。


「……はぁー、にわかに信じられませんが、事実、なのですね」

「概ね事実だ。本当はこの船で海のクルージングを企画していたんだけど、初っ端から別用途に使う羽目になってしまった」

「ベルノ型恒星間宇宙巡洋船をそのような用途に使用するとか、性能の無駄遣いもいいところですね」

「そう言うな。私一人しか居ない事情と、この星界のエネルギー事情を考えてこの船にしたんだから」

「創造者であるデザイア船長に選んでいただけたこと、ベルノ型恒星間宇宙巡洋船として光栄であります」

「私は意識を憑依させた素体、すずのの人工知能と船体と端末筐体。お互い、仮初めの様な意識と創り物の身体だけど、以後宜しく頼む」

「アイサー、デザイア船長。守秘義務のせいでスクラップ置き場まで持って行く案件ですよ、まったく」

「ははは」


 感情の篭った愚痴を吐く、ベルノ型恒星間宇宙巡洋船の人工知能に、私は思わず笑ってしまった。

我が妄想


十三話、やる気、巡洋船を起動させる。

ベルノ型恒星間宇宙船方巡洋船からベルノ型恒星間宇宙巡洋船に変更。

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