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やる気、現地の住人を飛ばす

◇◇◇◇◇◇




 私たち三人は、イステールが治療した漂流者たちのいる場所に辿り着いた。二人が目を覚ましているようだ。


「すずの、ここから先は私が行く」

「アイサー、お気を付けて」


 すずのと入れ替わる形で、漂着した者たちの前に立った。


 上半身を起こしている者を専用眼鏡で鑑定してみると、イステールの治療は完璧に済んでいて、むしろ漂着前より健康体になっていた。


 ついでに、鑑定機能と連動している星界システムの記録ログも読み込んでいく。


 目の前に居る、顎鬚あごひげを生やしてガッシリとした体格の男性。個体ユニット名はエリック・スファイ。ブリスヤード帝国所属。同帝国船籍ヴィクシオン号の船長をしていた。ダンディ・スファイ子爵の三男。前職は帝国海軍で海賊狩りに従事していた。


 エリック・スファイの後ろに居る、丸顔で筋肉質な男性。個体名はフリッツ・ロー。ブリスヤード帝国所属。同帝国船籍ヴィクシオン号の甲板船員をしていた。ロー村の出身で、ギルド経由の職業斡旋で現在の職に就いた。とある。


 なお、ヴィクシオン号は、イステールが昨日使った気象改変鍵言コマンドの影響で、群島沖で座礁大破している模様。彼らがここに漂着した原因はやはり、私たちのアレだった。


 エリック・スファイ。ここに漂着した中で一番上位の存在のようなので、彼に話し掛けてみる。


「やあ、初めまして、私はデザイア。休暇でこの島に来ている。身体の調子はどうかな、エリック・スファイ君?」

「…………」


 ……あれ、友好的に話し掛けたつもりなのに返事がない。それに、健康体なはずなのに脂汗を流して青い顔をしている。


「ウチのイステールが施した治療は完璧なはずだが、まだどこか具合でも悪いのか?」

「……で、……デザイアと言ったな。お前は、何者だ、なぜ俺の家名を知っている? ……俺たちを、どうする気だ?」


 低く警戒するような、それでいてなんとか勇気を振り絞って出した声。緊張、しているのか?


「私は昨日から休暇でこの島に来ている者だけど、君らがここに漂着していたのを発見したので救助した」

「…………」


 ただ、エリック・スファイの反応が薄いので、一旦言葉を区切り彼らの様子を窺う。さすがに初対面の者をおいそれと信用できないか……。


 あれ、後ろに居るフリッツ・ローに至っては小刻みに震えている。もしかして緊張じゃなくて萎縮? ……えっ、怖がられてる!?


 気を取り直して、怖がられないように、これ以上はない優しげなほほ笑みを浮かべながら、話し続ける。


「治療のため、君たちのことは鑑定させてもらった。もし、国に帰りたければ送ってやってもいい。悪いようには扱わないと約束しよう」

「…………」


 偶然とは言え、私たちが招いた事態に巻き込んでしまった責任がある。済んでしまったことはどうにもできないが、いま生きている彼らには誠意ある対応をしよう。


 そう思って話し掛けたのだけど、彼らの様子が芳しくない。最初に接触したイステールに任せようか……、なんて思案していると。


「嘘だっ!! こいつらは俺たちを奴隷にするつもりだ!!」


「ヴァ、ヴァンお前っ、いつから気が付いていた!?」

「……っ!?」


 突然、エリック・スファイとフリッツ・ローの向こうで横になっていた男性が立ち上がって叫んだ。


 エリック・スファイが慌てて後ろに振り向いて、立ち上がった男性に声を掛ける。フリッツ・ローは身体を男性の叫び声に驚いたのか身体をビクつかせていた。


 私はすぐに専用眼鏡を使って、線は細けど衣類の裾から筋肉質を思わせる身体が見える、その男性を鑑定して記録を読み込んだ。


 個体名はヴァン・ドベルク。ブリスヤード帝国所属。同帝国船籍ヴィクシオン号の甲板船員。ドベルクという名の孤児院出身で、ギルド経由の職業斡旋で現在の職に就いた。とある。


「俺たちを、俺たちを奴隷にして、幻の大陸に連れて行くつもりなんだ!!」

「ヴァンっ、少し落ち着け、落ち着くんだっ!」

「エリック船長も判ってんだろっ!! こいつらは帝国の偵察に来たんだっ!!」

「お前なにを言って……」


 ヴァン・ドベルクは意識を取り戻して、自分の状況、見知らぬ場所に錯乱しているのか、上司であるエリック・スファイに、意味不明なことを怒鳴り散らしている。


「逆に、俺たちがこいつら捕まえて奴隷にして、船を奪って帝国に帰ろうっ!!」


 ええー、なんかコイツ、ヤバくね……?


「ヴァン、ま、待てっ!!」


 自分の訴えに煮え切らないエリック・スファイに痺れを切らせたのか、ヴァン・ドベルクが突然行動に移した。


 まだ立ち上がっていないエリック・スファイは、突然のその行動を押さえ切れない。フリッツ・ローも同じだ。むしろヴァン・ドベルクの叫び声に身体をすくまさせていた。


 ヴァン・ドベルクが歩み寄ってくるのを見て、すずの前に出ようとしたので左手で制して止める。


 彼は赤く充血した目をしながら私の前に立ち、拳を大きく振り上げる。


「多少痛めつければ、女子供なんてのはなんでも言うことを聞……」


 その拳を振り下ろした瞬間、彼は私の目の前から消えた。


「はあっ!?」

「っ!?」

「っ!?」

「…………」


 突如として起きた一瞬の出来事にエリック・スファイが素っ頓狂な声を上げて、フリッツ・ローはまた身体を大きく震わせ、すずのも驚いたのか固まり、三者三様でヴァン・ドベルクの消えた場所を見ている。イステールだけが効果を知っているので冷静だ。


 おそらく、私に対する悪意や敵意に反応したのだろう。ヴァン・ドベルクは聖域結界の効果で聖域外に飛ばされた。結界機能の発動までに多少の時間が有ったことから、結界内に居ると発動までの間に考えを改められる執行猶予がありそうだ。


 直接的な行動は即駄目の判定なのだろうけど、非破壊物体のこの素体が殴られた時の効果も見てみたかった。


 呆然と、仲間の消えた場所を見ているエリック・スファイとフリッツ・ローに声を掛ける。


「残念ながら、ヴァン・ドベルクは私に対して悪意か敵意を抱いたようだ。聖域結界がそれを感知して彼を結界の外に飛ばしてしまった」

「聖域、結界……だと? そ、そんな馬鹿な話が……」

「あ、あ……」

「聖域結界の発動までに執行猶予が有るから、悪意や敵意などの感情が湧いたらすぐ改めるように」

「……」

「……」


 言葉を失くしたエリック・スファイとフリッツ・ローに注意喚起しておく。前者はゆっくり顔を向け言葉無く頷いた。後者は手で顔を覆い頷いた。


「補足しておくと、結界の範囲は群島の外周十キロだ。その外側に弾き出される」

「……群島の外周十キロ、って周りは全部海じゃないか!! ヴァンが溺れ……あ」


 私の言葉に強く反応したエリック・スファイは、言い返している途中でヴァン・ドベルクと同じ運命を辿ると察したのか、青かった顔を白くさせた。


「結界の発動までに多少の猶予はある。私に敵意や悪意を持っているなら、少し落ち着いて心持ちを切り替えろ」

「……あ、ああ。し、しかし、ヴァンを早く助けないと海で、海で溺れてしまう。あなたの不興を買ったのは承知だが、そこを曲げて助けてくれないか?」

「…………」

「さっきのヴァンの非礼は俺が代わって詫びる。申し訳ない、この通りだっ!!」


 エリック・スファイはすぐに気持ちの切り替えを済ませたのか、上半身を起こした体勢から膝を折って頭を地面に付けた。


 ……おお、土下座だ。ここで生の土下座を見ることになるとは思わなかった。


 そんな感慨に耽っていると、エリック・スファイはそのままの体勢で、ヴァン・ドベルクの非礼を詫び、助命嘆願をしてきた。


「……君の部下は無事だ、まだ生きている。ただし、他にやることがあるから助けるのはあとだ」

「そ、そんな……」


 私の言葉に、エリック・スファイは顔を上げて絶望に染まった表情を晒した。彼には話していないが、聖域結界は範囲と高さが決まっている。


 専用眼鏡に表示されたヴァン・ドベルクの反応は、結界の外周群島十キロの海上ではなく、この島の火山の中腹辺り、標高三百メートルに在る。


 改心すれば降りてこられるかもしれないが、しばらくそこで少し頭を冷やしてもらう。

我が妄想

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