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やる気、現地の住人と接触する

 すずのに、瑞穂の館の業務内容はアットホームな仕事環境だと説明した。


「確かに私は基本的にデザイア船長の命令には従いますが、そう言ったことは事前に話して欲しいです」

「マスターが勝手に話を進めるからですよ。上司、部下の間でも、報連相ホウレンソウは大事です」


 すずのを瑞穂の館の女将兼施設の保守係に任命したのだけど、抗議を受けてしまった。イステールからも報連相は大事だと注意された。


「すずの様、我がマスターの身勝手な言動、マスターに代わってお詫びします」

「い、いえ、私も突然の展開にびっくりしただけで、業務内容によっては、その作業に従事することも可能です」

「ちなみにマスターはアットホームと言ってますが、寝ている時間以外はほぼ休暇なしのブラックな職場環境です」

「え、ええー……」


 イステールさんや、そんなはっきり言うとやる気が失せるんじゃんないですかねぇ。事実、すずのはドン引きしてるし。


「ああ、すずの様。申し遅れましたが、私はイステール。マスターの従者をしております」


 会話の流れのままに、イステールが自己紹介してしまったので、私が追加補足する。


「イステールは現在休暇中なんだけど、ここでの世話係兼食事担当になっている。で、さっき紹介したいと言っていた者だな」

「……マスター、それは普段と変わらないと言ってるようなモノです」

「イステール、様ですね、いまは本登録できないので仮登録とさせていただきます。ちなみに私は外部端末なので食事を必要としてません」

「すずの様、これから私たちはマスターに対して志を共にする被が……犠せ……生に……同志です。よろしくお願いします」

「あ、はい。イステール同志、とお呼びすればいいのですね。こちらこそよろしくお願いします」


 ……同志ってなんだよ。しかも、被害者とか、犠牲者とか、最後には生贄って、途中で言葉を切って言い換えても判るっての。


 確かに、創造者本体は星界システムを弄ってるだけの、ただの引き篭もりだけど、せめて保護者とか介護者と言ってやろうよ。


 などと、己の言動を創造者本体になすり付ける技を発動さようとしたけど、イステールがジト目でこちらを睨んでいるので、嫌味としてワザと言ったようだ。


「……よ、よし、二人の紹介も済んだし、さっさと漂流者がいる所に行こうか、放置したままだと拙いだろう」

「では、また私が先導するのでデザイア船長とイステール同志は後ろから付いて来てください」

「イステール同志……ですか」

「……ほら、変なことを言うから真に受けた。自業自得だ。あ、そうだ、すずの、ちょっと待て」

「なんですか、デザイア船長?」


 すずのは歩みを停めてこちらに振り返る。その間、私は専用眼鏡を使って鍵言コマンドを唱える。


「【備品作製】」


 すぐに手元で光が収束して、長細い円筒形の物体が二本出現した。すずのの星界にある外部記録端末用デバイスだ。


「……い、今の不自然な発光現象はなんですか? いったいなにをしたんですか、デザイア船長っ!?」

「魔法、みたいなモノだが、今は時間が無いから説明は後だ」

「……魔法って、そんな非科学的なモノが存在するなんて……。あ、い、いえ、デザイア船長。あとで説明を求めますからね」

「ああ、必ず説明する。で、規格は合うはずだ。この星界の主だった言語が入っているから、今のうちインストールするように」

「ア、アイサー……」


 そう言って、私は言語翻訳ソフトが入った外部記録端末用デバイス、口語用と筆記用の二本を渡した。これで会話も書き取りも大丈夫なはずだ。


 私の鍵言使用に多少の動揺を見せていたすずのは、それを受け取ってから訝しげに観察したあと、おもむろに両耳に差しこんだ。


「ん、ふう……、…………。言語翻訳ソフトのインストール完了しました」


 実体を持たない人工知能だからなのか、幼女の外見らしからぬ艶っぽい声を出した。と思ったら、ものの数秒でインストール作業は終了したことを告げた。


 ……さて、多少の時間を取ってしまったが、改めて漂流者たちの所に向かおうか。




◇◇◇◇◇◇




 鈍色の巨大な船から降りてきた二人と、介抱してくれた女性が話している。やはりあれのどちらかが、彼女の主人のようだ。


「……ん、ううん。……あ、あれ、ここ、は?」

「フリッツか、目を覚ましたか……」

「エ、リック船、ちょう……俺は」


 隣で寝ていた甲板員のフリッツが目を覚ましたようだ。まだ身体がいうことを利かないのか仰向けで俺に問い掛けてくる。


「俺たちは大嵐に遭って無人島に漂着した。運よく生きていたらしい。だが、まだ身体がきついだろう、少し横になってろ」

「……ふ、船乗りの身体は、頑丈にできてるから、大丈夫ですよ」


 フリッツのやせ我慢だと判る言葉に内心苦笑する。そして、視線を横に移動させて、まだ起きていない者たちを見る。あと、目を覚ましていないのはフリッツと同じ甲板員のヴァンと……奴隷の女か。


 船倉から上手く逃げ出せたのか。よほど悪運が強いらしい。ただ、生き残ったのはいいが、帝国に奴隷として連れて行くことを考えたら、死んだ方がマシだったと思うかもしれんな。


「……エリック船長、生き残ったのは、俺たちのほかに、何人いるんですかね?」

「まだ他にいるとは思うんだが、今のところ四人らしい」

「俺、あの大嵐で、海に投げ出されたとき、もう死んだかと、思いましたよ」

「ああ、俺もだ。だがこうして生きている。向こうにいる彼女が治療をして、助けてくれたらしい」

「……彼女? 治療?」

「あそこだ。いまこっちに向かって歩いてきている」

「…………、……あれが? 女神、なのか?」


 フリッツは俺の言葉を聞いて、同じように上半身を起こすと、こちらに歩いてくる三人の女性の方を見て、そう呟いた。


「本当に女神だったらよかったんだがな……」


 俺たちを治療してくれた女性と、娼婦のような少女。その二人を連れて先頭を歩いてくる幼い娘。この場にふさわしくない格好の三人だ。本当に何者なのだろうか……。


「……いまのところ、どこの誰かは判ら、ん……っ!?」


 主人らしき幼い娘をよくよく見てみると耳が長い。……まさか、噂にあった長耳族か? 本当に幻の大陸から来た者たちなのか!?


「え、エリック船長、あれって……」

「フリッツは、幻の大陸の話は聞いたことがあるか? 巨人族や小人族、長耳族の話だ」

「酒場で噂話ぐらいは……って、あれが!? ホラ話じゃあなかったんですか?」

「……判らん。判らんが、それが本当だとしたら、大海を渡ってここまで来ているんだ。帝国と同等か、それより格上の相手って可能性がある」

「そんな……」


 いまの話でフリッツは言葉をなくしてしまった。


 実際、彼女たちの後ろにある鈍色の巨大な船を見てしまうと、俺の乗っていた帝国製のキャラベル船なんて玩具に見えてしまう。それこそ、最新式のガレオン船ですら見劣りするだろう。


 そんなことを考えていると、三人の女性たちがすぐ近くまでやってきていた。


 俺たちのいる場所まであと数歩のところで、先頭を歩いていた幼い少女が立ち止まる。代わりに、後ろにいた娼婦のような格好をした少女が前に出てきた。そして、俺たちの前に立って、ニッコリと微笑みながら見下ろしてくる。


「やあ、初めまして、私はデザイア。身体の調子はどうかな、エリック・スファイ君?」


 デザイア。そう名乗った少女は、すべてを見透かしているような赤い目で話し掛けてきた。しかも、介抱してくれた女性にすら名乗っていない家名を呼んで。


 ……最悪だ、ここにきてようやく気付くことできた。俺の中で長年培われたカンが、この少女は途轍もなくヤバイ存在だと告げていた。





我が妄想

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