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やる気、人工知能を紹介する

◇◇◇◇◇◇




 俺は優しげな女性の声に導かれて意識を取り戻した。記憶が酷く曖昧で、自分がどこにいるか、なにをしていたのか、すぐに思い出せなかった。


 状況を確認しようと薄っすらと目を開けると女神かと思える程の美しい女性がこちらを窺っていた。どうやら、この女性に呼ばれて意識を取り戻したらしい。


 女性は俺の問いに対し、少々たどたどしく大陸の共通語言で簡潔に答えてくれた。この島に漂着した俺に治療を施してくれたと言った。


 最後に船から飛び降りたあと、大波の揉まれながら意識が遠退いてったおぼろげな記憶が蘇る。俺の言葉に女性は生きていると返事をしてくれた。


 ここでようやく、この女性が漂流して溺れ死に掛けていた俺を治療したのだと認識した。


 女性は使用人の格好をしているが、視界に治療用の薬品箱はもちろん、回復用魔法薬を使った瓶も見当たらないことから、外見とは別に優秀な魔法治療師だと思われる。


 座礁した船の上で死を覚悟したが、運よく生きていられたようだ。……ふと、他の者のことが気になって尋ねてみたが、自分の他に三人生き残っていた。残念ながら、三人死んでしまったようだ。


 思わず、手で顔を覆ってしまう。


 ……ここには俺を含めて七人流れ着いたのか。他に流された者たちのことを考えると、これからもっと増えるかもしれない。


 自分が生きていることを感謝すればいいのか、一緒に船に乗っていた船員たちや奴隷たちの、死んでしまった者たちを悼めばいいのか……。


 そんな感傷とは別に、冷静なもう一人の自分が今の置かれた状況も整理していく。


 突如として現れた大嵐に遭遇して、船は座礁難破して既にない。無人島だと思われた島には美しい女性がいて、俺を治療してくれた。他の仲間たちも生存している可能性があるし、死んでいるかもしれない。


 取り合えず、生きている者たちと合流して、帝国に帰る方法を模索する、か。生きて島から帰還する方法。……助けを待つ。いや、いつ来るか判らない。なら、船を造る? ……そもそも、目の前にいる女性はなぜこの無人島に?


 もしかしたら、帰る方法を、船を持っているんじゃないか? その船に合流した仲間たちと一緒に便乗させて貰えれば……。どうやって切り出す?


 そして、まずは友好的に接しようと思い、最初に自分の名前を伝えて、命を助けてくれた女性に感謝を伝えることにした。


 帝国船籍も伝えたのは、少しでも有利な条件を引き出すためのものでもあった。……のだが、このあとすぐ、その思惑は外れることになってしまった。


 彼女にはやはり主人が居るらしい。だから、使用人の格好なのかと納得もいった。


 これだけの技量を持った魔法治療師を侍らせているのだ。主人と言うのは、名のある人物か高名な人物である可能性が高い。


 そう思い、主人のことを聞き出そうとしたのだが、上手い具合にはぐらかされてしまった。自分の名前どころか、主人の名前すら言わなかった。身を明かせない事情……お忍びで島に来たのだろうか?


 ……いや、俺が帝国船籍だと言ったのだ、おそらく警戒された可能性がある。と言うことは、帝国に仇なす他国家、海賊……或いは王国が滅亡する前に逃げ出した残党か。……これは、不味マズったか?


 しかも、その主人はすぐそこまで来ているらしい。船を見ればどこの国か判断できるだろうと、俺は上半身を起こして、女性の指し示す方を見て言葉を失った。続けて、なにかを話していたのだが、それすら耳に入ってこない。


 その光景を見た俺の心は、かつてない程の驚愕で埋め尽くされていた。


 それは、島かと見誤ってしまいそうになる程の巨大な船。その鈍色から、木造船でないのはすぐに判ったが、材質がなんなのかまったく窺い知れない。


 無骨な形状をしたその船は、幾つか帆柱が立っているが、全く帆が広がっていない。船体横から櫂を出して漕いでいる気配すら見受けられない。


 それでも、今まで見たこともない速さでこちらに近付いてくる。どうやって海を進んでいるのかまったく判らない。この大陸のどこの国家に所属しているのかすら不明だ。


 俺は、隣で船に向かってのん気に手を振っている女性に幻を見せられているのだろうか、とすら疑った。それぐらいの非現実感。


 しかし、目の前を通り過ぎていく巨大な船の影響で、砂浜に大きな波が押し寄せていることから、目の前で起こっているのは現実だと思い知らされる。


 言葉無く見続けていた鈍色の船は、やがて近くにあった桟橋に着岸した。……なんだあの桟橋は? それに白い、塔だと?


 ここにきて、初めて謎の材質でできた桟橋と真っ白い搭の建物の存在に気が付いた。本当にここは無人島なのかと疑ってしまう。


 やがて、巨大な船から二人の女性が降りてきたのだが、あの船を動かすにはあまりに少ない人数だ。代表者だろうか? ……いや、しかし、それにしては若い、若すぎる。幼いと言ってもいい。


 一人は、隣の女性と同じ色、銀色の長い髪をなびかせた……娼婦のような格好をした少女。もう一人は、更に幼くした感じで、金髪を後ろでまとめ、紺色の帽子と服を着た少女。仕立ての立派そうな服装から主人のようだが、やはり幼すぎないか?


 こちらに向かってくる二人の女性を観察していると、隣に居た女性が聞き覚えのない言葉を叫んで駆けていった。ということは、あそこにいるのは女性の主人なのであろう。


 ……知らな言葉。もしかしたら、最近船乗りたちがやたらと海の向こうにあると噂している幻の大陸から来たのだろうか?


 莫大な財宝を抱えた巨人族や小人族、長耳族が住む国があると言って、出資者を募るただのホラ話かと思っていたが、あながち嘘でもなかったのか……。




◇◇◇◇◇◇




 私とすずのは、巡洋船クルーザーをコンクリート製の桟橋に接岸させて、上陸用のタラップを下ろした。


「デザイア船長、私も一緒に上陸して宜しいでしょうか?」

「すずのには停泊中の留守をお願いしようと思ってたんだけど、なにか理由でもあるのか?」

「デザイア船長の護衛です」

「……護衛、か。私としてはそれほど必要としていないんだが……」

「私はデザイア船長の護衛に付いて行くのです!」

「……そんな目で睨むなよ。せっかくの可愛い顔が台無しだ」


 さっきの名前の件もそうだし、今回のやり取りもそうだが随分と優秀な人工知能だな。まるで自我を持っているみたいだ。


 筐体端末じゃなかったら、人と見分けがつかないんじゃないかとすら思える。


「……留守に関しては、他の同型端末が船内作業に従事しているので問題はないです」

「判った。一緒に出ようか。紹介したい者も居るし、頼みたいこともあるから、むしろ手間が省ける」


 そういえば、全然見てないけど船内には同型端末が居たんだっけか。それならアレにも使えそうだ。


「では、デザイア船長、これから甲板に向かいます。私に付いてきてください」

「ああ、すずのに任せた」

「アイサー」


 すずのの先導で、巡洋船の甲板上に出る隔壁を抜けて外に出る。そのまま設置したタラップを降りて桟橋を砂浜に向かった。


 私とすずのが砂浜に下りたタイミングで、イステールが駆け寄ってきた。それを見たすずのが、私を守るように前に出る。


「デザイア船長、ここは私が……」

「マスター、お待ちしておりました。指示通り漂流した者を保護し治療を施しました」


 イステールが、すずのを飛び越して私に話し掛けてきた。そして、保護した者たちが居る場所へと顔を向ける。


 離れた場所でこちらを窺っている者がいた。あれがイステールが保護した漂流者で、治療も済んでいるようだ。


「すずの、ありがとう。彼女は大丈夫だ。イステール、お疲れ様。特に問題は無さそうだな」


 私はすずのの肩に手を置いて感謝を示し大丈夫だと伝えた。それを聞いて、すずのは会話の邪魔にならない場所に移動した。イステールはそれを見て話を続ける。


「……はい。治療を施したあと、すぐ気が付いた者がいたので多少の会話ができました。翻訳も問題なさそうです」

「そうか、とりあえず彼らのところへ向かうとしようか、そこで改めて話をしよう」

「その前にマスター、その子は誰なんです?」


 いかん、二人の紹介がまだだった。……まず、イステールにすずのを紹介しよう。


「ああ、巡洋船の優秀な人工知能の端末で名はすずの。瑞穂の館の女将兼施設の保守係でもある」

「な、なんですか、デザイア船長っ! そんな話は聞いてないですよ!?」

「いま言ったじゃあないか」


 いや、最初からそのつもりだったし、予備も有るから一体くらい瑞穂の館に回してもいいよね。

我が妄想

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