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やる気、日本文化の朝食と対面する

 瑞穂の館、八島の間。


 ザ・日本文化と言った趣きある純和風の部屋で一晩明かした。


 床の間には、七福神と言われる神が描かれた掛け軸と香炉が置かれていた。ちなみにイステールは隣の扶桑の間に部屋を取っている。


 創造者本体は、寝台ベットで寝ることはあったけれど、床に布団を敷いて寝るのはこれが初めての経験となる。ここしばらくは星界創造に掛かりっきりで、椅子に座った生活が続いていたから、久しぶりに寛いだ格好で寝られた。


 少しは精神的疲労が抜けた感じがする。星界システムの時間調整の上手く使えば、好きなだけ休めるからもっと早く活用していればよかったと思う。


 今の設定だと、目算で……星界外が二時間で、星界内が一年から一年半ぐらいになってるから、その間ずーっと寝ててもいい。……いや、寝ないけどさ。


 でも、最初に設定した一週間から随分余裕が出来てしまった確かだ。それでも一応、向こうの創造者本体が二時間以内で目を覚ます可能性を考慮して、心置きなく全力で休暇を取らないと、だな。


 ……さて、寝るときに、台風の影響で雨戸がガタついていたけど、今はもう静かだ。台風は抜けたようだ。部屋の時計の針は、六時を少し回った時間を指していた。


 今日の予定としてまずは、その台風で壊れてしまった聖域結界を張り直さなきゃいけない。その後、フリー素材から呼び出した巡洋船クルーザーの起動と操作の練習がてら、群島一周の処女航海をしてみよう。


 浴衣から、自分で洗濯した布製キャミソールとドロワーズに着替えた。寝るときに外していた専用眼鏡を装着して身嗜みは完了。


 下着ショーツの上に下着ドロワーズは変だと思ったので、昨日洗濯した時にイステールに尋ねてみたら、重ねて穿くこともあるそうだ。


 それ以前に、誰も居ないからって下着姿でうろつくのはみっともないから何とかしろと言われたが、却下だ。動きやすいラフな格好がいい。


 部屋に据え付けられた収納棚にも着替え用として、鍵言コマンド【衣類作製】で同じ物を複数用意した。


 スリッパを履いて館内の廊下を歩く。売店コーナーの隣にある食堂に向かうと、メイド服姿のイステールが朝食を摂っていた。ドロシーも、隣の席の背もたれに留まっていた。


「おはようございます、マスター」

「……ああ、おはようイステール」

「結局マスターはその格好なんですね。……せめて身嗜みぐらいしっかりしてください、アホ毛が生えてますよ」

「えっ、どこどこ?」


 食事中のエステールに髪の毛が跳ねていると指摘されて、私は慌てて髪の毛を整えてから、対面の席に座った。


「朝食作ったんだ」

「これは毎日の習慣です。厨房に食材があったんで勝手に調理しちゃいましたが、マスターも如何です?」

「私は調理する予定がなかったから使っても構わないんだが、正直、いまもの凄くその献立に興味がそそられているんだけど……」


 イステールの前には、白米に味噌汁。鮭の塩焼き、納豆、味付け海苔、漬物が並んでいる。自分が知っている、日本文化の朝食が見事に再現されていた。


 自分で調理したって言ってるから、専用眼鏡を使って検索したか、私の外部記憶である事象記録層媒体アカシックレコードから得た知識だろう。


 しれっと、跳ねてる髪をアホ毛と言ってたし、このまま、地球型星界の日本文化に染まって沼落ちしないかな。


「……私の分は、有るのかな?」

「有りますよ。マスターならそう言うと思ってました」


 エステールは手にしていた食器を置いて、席から立ち上がる。


「えっ、これから作るんじゃ手間が掛かるんじゃない?」

「一人分も二人分も大して変わらないのでもう作ってあります。準備すればすぐ持ってこられますよ」

「え、本当に! うわぁ、エステール様っ、ありがとうございます、ありがとうございますぅ」

「ふふふ。では、少し待っててください」


 私はテーブルに両手を付け突っ伏して感謝の言葉を続けた。銀色の髪がワサーっとテーブルに広がったけど気しない。


 昨晩は二人して家事雑用に付いて熱く語り合った。その結果、最低限、自分の身の回りは自分でしようって話になった。


 なので、イステールが自分が食べるだけの分しか作っていない可能性もあったんだが……、そんなことはなかった。


 引き篭もり創造者本体を反面教師にした賜物だろうな。本当に優しいに育ってくれてわたしゃは嬉しいよ。


 そして、それほど間を開けず、エステールが厨房から戻ってきて、私の目の前にトレーを置いた。


 上に乗っているのは、湯気が上がったご飯と味噌汁。鮭の塩焼きと味付け海苔、納豆、漬物。


「おお、これが、これが……」


 日本文化の朝食っ! まさか、ここに来て食べることができるとは思わなかった。


「い、頂きますっ!」

「どうぞ召し上がれ」


 いても立っても居られず、儀式に則り手の平を合わせ言葉を出して、器を持ち上げては食材の一つ一つを味わっていく。ちなみに、お箸は使えないのでスプーンだ。あとで練習しなければ。(使命感)


 気が付けば、すべての器は空となっていた。あっと言う間に食べ終わってしまい名残惜しい。それでも最後に「ご馳走様でしたっ!」と声を出して食事を終えた。大変美味しゅうございました。


 なるほど、素体にとって食事が嗜好品となる訳だ。こんな美味しい食事だったらいくらでも摂りたくなる。



「ところでマスター。厨房の食材っていま有る分だけですか?」

「……そうだ。本当は一週間程度を予定だったからね。有る分だけだ。それだって食べる予定はなかったんだ」


 お茶で食後の一服をしているとイステールが食材の在庫に付いて聞いてきた。答えた通り、一週間分ぐらいしかない。それも一人分だけだ。


「えーっ、もっと新鮮な食材が欲しいです。マスター、新たに補充お願いします」

「食いしん坊だなぁ、自分のMPコストを使って創造すればいいじゃないか」

「私のMPは回復しないんですよ? それに食事を作ったらマスターも便乗して食べますよね?」

「……食べるかも、しれないな」

「でしょう。なので、私が食事を作るのでマスターは食材を創り出してください。これは役割分担の提案でもあります」


 ふむ、悪くない提案だ。むしろ、お願いしたい。


 瑞穂の館施設は呼び出しただけだから、消耗品は使っていくと当然最後は無くなる。そもそも、消耗品の補充はMPを使って創造や作製すればいいと考えていたので、反対する理由がない。


「期待していいんだな?」

「もちろんです」

「その提案乗った。欲しい食材のリストを出してくれたら用意しよう」

「ありがとうございます、マスター。あとでまとめておきます」


 私とイステールは、互いに笑みを浮かべながら、ガッチリと握手を交わした。


「ところでマスターはこのあとどうします?」

「昨日出来なかったことをやるつもりだ。昨日造った港に行って巡洋船の起動と練習を兼ねて試運転、だな。エステールは?」

「私は……、正直なにをすればいいのか思い付かないんですよ。せめて趣味の道具でもあればよかったんですが……。マスターに付いて行っちゃ駄目ですか?」

「あまり面白くないかもだけど、別に構わないよ」


 確かに、目的とかやりたいことがあれば良かったんだろうけど、なにも持たずに精神こころだけでここに来たようなもんだからなぁ。


「ちなみに趣味の道具って?」

「マスターの部屋にある事象記録層媒体の中身を覗くこと……」

「うわぁーーーっ、わぁーーーーっ! ええっ、まだそれ引きずってるの!?」

「今日の朝食もそれを参考にしましたし、結構ためになる映像アーカイブがあって楽しいんですよ」


 はっきりと見ているって言質げんち頂きました、ありがとうございます!!(ヤケクソ)


 朝食は専用眼鏡で検索したんじゃなく、映像を見て覚えていたのかぁ。


 そういえば、浴衣の下着の知識も訂正されたし、自分も与り知らない映像の数々をガッツリと覗いたんだろうなぁ。


 ……そうか、覗きが趣味なのかぁ。私は遠い目をしながら、ぬるくなったお茶をすすった。

我が妄想

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