表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/26

やる気、従者から反撃される

 瑞穂の館で本日二度目の温泉入浴。


 露天風呂は屋根が設置されているけど、台風の影響で外が荒れているので、今回は屋内の大浴場。


 そして、入浴のお供はイステール。いまは落ち着いて岩造りの浴槽の離れた場所で温泉に浸かっているけど、ここでも入る前の脱衣所で事務所の一件同様の難色を示していた。


 イステールの素体が、実体の身体をそのままスキャンされて造られているので、それが恥かしいとのことだった。


 ……確かに。もし、私のこの素体が創造者本体を模した身体だったら、容姿に劣等感を持っていたから同様に羞恥心を抱いて、男湯女湯に別れて入っていただろう。


 しかしいまは、全く別の身体になっているので問題はないと、互いに女性体型の素体同士だから大丈夫だろうと思っていた。けど、それは私だけだった。


 最終的に、私の従者なのだから言うことに従うようにと、強権を発動した。ゴネられて、温泉に入る時間が遅くなるのが嫌だったのもある。これに、イステールも渋々ながら了承した。


 小心者の創造者本体は出せない指示だけど、やる気に特化したいまのイケイケな精神状態だから出来た荒業だ。


 ……正直な話、興味本位もあって、自分の素体と格差を感じさせるイステールの素体を、見比べたかったのも無きにしも非ず。


 それでも、入浴前の儀式の際は、従者面より面倒見のいいお姉さん―――記憶では、創造者本体よりかなり年下な筈―――として、甲斐甲斐しく私の髪の毛を洗って背中を流してくれた。


 どうやら私の肌や髪の手入れの仕方が駄目だったようで、これはとても見ていられないと途中から世話を焼いてくれたってのが真相なんだけど、オマケで小言が付いていた。


 コンディショナーとトリートメントってなんだよ? シャンプーとリンスでいいじゃん。……あ、はい、今度からは自分一人でやれます。スキンケアの方法も覚えましたから、大丈夫です。そんな目で見ないでください。


 …………女性って、大変なんだな。


 ちなみに、ドロシーは脱衣所で待機中。全天候に対応しているから、浴場の中に入っては来られたけど、さすがに入浴中の動画を撮るのは躊躇われた。


 私とイステールは、ゆっくりと湯に浸かり温泉を堪能してから、手拭い片手に脱衣所へ戻った。


「キィーキィーキィー」


 脱衣籠が置かれている棚の上に陣取っていたドロシーが鳴いて出迎えてくれた。


 わっさわっさと羽ばたいてイステールに向かって飛んでいった。大分、ドロシーに懐かれてしまったようだ。本当に感情を持ってそうな高機能なドローンだ。


 それを横目に、脱衣籠に入れてあったバスタオルを取り出して、入浴前に着ていた布製キャミソールとドロワーズは洗濯篭に投入してから、濡れた身体を拭いていく。


 拭き終わったあと、用意された瑞穂の館のロゴが入った浴衣の袖に腕を通そうとしたところで、イステールから洗面台の前に強制召還を喰らった。


 身体にバスタオルを巻き直して、呼ばれた場所まで行く。


 ここでも、イステールのお姉さんっぷりが発揮され、洗面台の前にある椅子に座らせられ、ドライヤーと櫛を使って髪の毛を乾かしてくれた。


 鏡に映る、背中中程まである長い銀髪の少女。その髪の毛を優しく丁寧に乾かしている、肩口までウェーブの掛かった銀髪の従者。


 傍から見れば仲のいい姉妹みたいに見えるんじゃないかな。そんな思いにふけて……ふけ、噴けてしまう。


「ぷっ」


 イステールの頭に乗っているドロシーがあまりにも滑稽すぎた。


「……笑わなくてもいいじゃないですか」

「いや、ごめん。ドロシーが居心地良さそうにしてるから、つい……」

「ドロシーは本当にドローンなんですよね? ここまで懐かれるとは思ってなかったです」

「外見がリアルなだけで、確かにドローンだよ。たぶん、イステールが名付けしたからだろうね。刷り込みみたいなものじゃないかな」

「……刷り込みって、初めて親鳥を見た時のってヤツですよね」

「ドローンだから手は掛からないと思うけどね。せっかく懐かれたんだ、ドロシーの面倒しっかり見てやってよ」

「それは構わないですけど、もう少し留まる場所を考えて欲しいです」

「バランス感覚が凄いよな、ははは」

「笑いごとじゃないです。……はい、お終い」

「ありがとう」


 バスタオルを解いて、改めて浴衣の袖に腕を通そうとして、イステールからはしたない真似はするなと注意を受ける。女性としての嗜み云々と窘められた。


「……おかしい。私が持ってる日本文化の知識では下着は穿かないものとなっている」

「それは些か古い時期の知識です。少し新しい時期になると普通にパンツなりショーツを穿いてます」

「そうなのか……って、イステール、その知識、もしかして君も?」

「いえ、マスターの地球型星界の配信動画のアーカイブを覗いていた時に得た知識です」


 一瞬、日本文化の同好の士を得られそうな期待感が生まれたけど、創造者本体の世話をする際、視聴していた動画を覗いていたらしい。


「……【衣類作製】。はい、これ穿いてから浴衣を着てください」


 そして、イステールは自分のMPコストを使って私の下着ショーツを創り出してくれた。若干、子供っぽい気もするがありがたい。


「でも、残念ながら、星界考察はそのままの内容で期待外れでした。もっと真面目そうなフォルダ名のヤツを漁るべきでした。それも階層深く……」

「…………えっ?」


 イステールの続けて出た言葉に、受け取ったショーツを落としてしまう。いや、そんなことよりも覗いたって……。


「もうマスターに直接聞いてしまいますけど、秘蔵フォルダは何処に隠してるんですか?」

「えっ、ちょ、ちょっと待って!?」


 こいつ、横から覗き見してたんじゃない、勝手に部屋の事象記録層媒体アカシックレコードに触って覗いたんだ!! 私の外部記憶、第二の補助脳とも言える事象記録層媒体をっ!


「マスターの従者として、世話をしている身としては変なものが無いか確認する義務があるんです!!」

「イステールさん落ち着いて、ね、落ち着いてっ!!」

「机の引き出し奥とか、寝台ベットの下とか、本棚の本の裏とか、事象記録層媒体とかぁっ!!」

「お前は私のオカンか!!」

「……いえ、ちょっとしたお約束です」


 イステールは右手で専用眼鏡をクイッと上げて、澄ました顔でそんなことを言った。頭の上に乗っかているドロシーが同意するように、わさっと翼を広げている所為で締まらないけど。君たち仲がいいな。


 ……でも、事象記録層媒体を見たのは本当なんだろうなぁ。創造者本体がいつ消滅するか判らないけど、その際一緒に消滅して欲しいモノの上位にくるヤツなんだけど、恥かしいなぁ。

我が妄想

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ