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やる気、休暇を取る

 全周モニターが展開している空間。中心には光り輝く球体が浮かんでいる。


 光り輝く球体は、星界と呼ばれる惑星を模した球体型ディスプレイ。


 微速度撮影された映像を流すように刻々と変化する地表と大気を映し出している。


 全周モニターには、地表の様々な風景や多様性に飛んだ動植物が目まぐるしく変化していく姿が映し出しされていた。


 空間の主は、浮遊する椅子に鎮座し、光り輝く球体を周りながら興味深そうに眺め、時折全周モニターを難しい表情をしながら何度も確認して、あるタイミングで椅子に付属された操作用の鍵盤に触れた。


「ふぅーーーっ」


 そして、それまでの緊張をほぐすように深い溜息を付いた。


 部屋の主は今、星界システムの運営と不具合対応のアップデートとバッチ処理を行いながら、ようやく人類を現出させ文明を持つまでに成長させたところだった。


 生物の進化の過程を観察しながら、疲弊する精神力と創造力、何度もの試行錯誤の末、とうとう目標であった人類の発生とシヴィライゼーションに到達することができたのだ。


 ここに到るまでどれくらいやり直してきたか。部屋の主はこの星界の創造者であり観測者、星界において神に等しい存在。


 永劫の時間を生きる創造者たちの間で暇潰しの趣味娯楽として人気を集める箱庭型シミュレーションシステム【星界創造】。


 広大な宇宙の始まりを起点に、数限りなく存在する生物が居住可能な惑星を任意または無作為に抽出し、同期させることで環境改変を行える機能が備わっている。


 元々は惑星環境の形成と、それによって起こりえる影響を調べるためのシミュレーションシステムだったのを、創造者の一人が自分好みの箱庭造りができるように改良し遊び始めたのが発端だった。


 それは暇を持て余していた創造者たちの間で広まり、今では大量に増えた愛好家たちが箱庭造りに勤しんでいる。


 最近の流行はやりは地球型の星界。


 ある愛好家が手がけた惑星で、悪戯心で知恵の実モノリスを与えた結果、知的生命体である人類の出現と文明が発生した。


 これは大変画期的な出来事だった。


 地球に発生した知的生命体が愛好家たちの予想や予測を越えて発展と衰退を繰り返し進化続け、星界を越えて活動範囲を広げ構築していくサマはとても興味深いものがあった。


 現在は保護観察対象になっており、住人の営みや進化の過程を観察するために時間の流れは緩やかに設定され、今もなお逐次情報が更新され続けている。


 他の愛好家たちも地球型星界を創り出そうと、製作情報を基に構築していったが、近いモノは出来ても全く同じモノが出来るとことはなかった。だが、愛好家たちはそこに楽しみを見出した。


 製作環境からくる完全な乱数ランダムと運による偶然の産物。自分だけのオリジナルな星界が創れる。それが面白いのだと。こうして、地球型に近い星界が無数に創られていった。


 愛好家たちの間で、地球型星界から発信された作成情報を基に、様々な模倣や改良を加えて技術や文明を発展させ、独自の星界を創り上げは互いに観賞モードを使って自慢し合っていた。


 中には自分たちが創った星界に観賞モードで降り立ち干渉したり、互いの星界データをコンバートさせて交流を持たせたり、或いは争いを誘発してみたりして好き勝手に楽しんでいた。


 この創造者も愛好家としては日が浅いが、地球型星界に憧れを持った一人だった。


 地球型に発生した文明。その中でも有る地域に発生した文化。


 いまは保護対象の為、遠くから眺め情報を得るだけの存在。それを自らの力で創り上げ体験したい。


 観賞モードで使う素体は己の好みをふんだんに反映した状態ですでに用意してある。


 しかし、そう意気込んで始めてみた箱庭型シミュレーションシステム【星界創造】は考えていたよりも繊細なものだった。


 最初の星界環境を整えるだけでも苦労したのに、なんとか発生させた微生物はまったく進化しない。試行錯誤の末、なんとか蘇苔類の誕生まで漕ぎ付くも些細な環境変化で簡単に全滅する。


 その度に星界をリセットしたり、放棄したりして、設定や環境状況を整え直しては試行錯誤を繰り返していった。


 己が収集した情報が間違っていたのか、それともウソの情報に騙されたんじゃないのか、とさえ考えたこともある。


 そんな状況から、今回初めて文明発生の初期段階に達することができたのだ。


 ただ、ようやく創り上げた星界は自分が求めていた文明文化と違うものモノだった。


 厳密に言えば地球型星界の近しいモノとしてはごく有り触れたものだ。


 それは、大気中に漂う事象改変因子ダークマターを想像力と精神力で干渉、または複雑な術式や韻で制御して様々な現象を具現化させる能力。


 いわゆる魔法の存在と、それに適応した生物たちが存在する世界。あの文明文化で言うところのファンタジー世界。


 それでも、ここまで辿り着いたのだからと、目指す方向性を改めてこのまま進めることにした。


 自分が目指しいた地球型星界のあの文明文化は後付でなんとでもなる。


 最悪、地球型星界の製作者にデータか住人のコンバートをお願いすればイケるはず。そこから改めて、星界の住人を見守りながら、適宜修正を与えればいいだろう。


 創造者の世界で六日間。これが星界に文明文化を発生させる条件を満たす最速期間。スキップ機能が欲しいと何度思ったことか。


 星界を稼動させてから不眠不休で取り組んできた趣味娯楽とは言え、疲労が溜まりすぎて気力が最低限まで目減りしていた。……少し仮眠を取るか。


 徹夜で鈍る思考を引き摺った状態で、椅子に設置された操作用の鍵盤を指で弾き、時間の流れを最速から通常速まで落として観賞モードに設定変更する。


 これでこの星界は、よほどの事が無い限り再設定までシステムが自律して環境を維持しながら緩やかに発展していく。仮眠を取っている間に文明がある程度まで発達しているだろう。


 人類の発展の過程に興味が有ったが、仮眠中のそれは記録ログを漁ればそれなりに把握できる。途中で不具合が発生していたら修正処理で対応すればいい。創造者はそう考えた。


 疲労の溜まった身体を椅子の背もたれに預け緩やかな角度に倒すと、どこからともなく取り出した毛布を羽織り寝る体勢を整えると徐々に眠気が襲ってきた。


 稼動する星界シミュレーターと全周モニターはそのままに、やがて創造者の寝息だけを残しその空間に静寂に包まれた。




◇◇◇◇◇◇




 創造者は夢遊病者のようにむくりと起き上がると、操作用の鍵盤を使って観賞モードに追加の設定を入力し、文字を打ち込んだ。


 そして、再び眠りに落ちる。


「やる気は消耗激しく疲労困憊です。しばらく星界に降りて休暇します」

我が妄想

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