第三話
ーー学術交流。
それは自国が誇る研究を発表をし合うことで学術界の更なる発展に寄与する一面と、国力増強に繋がる研究を周知することで他国を牽制しようとする面をはらんだ国際会議。
今回は帝国と共和国の恒久的な平和を祈念して、という名目で二国間開催となっている。
場所はユガ。十三の講堂を有した大会議場だ。その施設の前でカイン一家プラスミニョンとアドラーは、イゼルと待ち合わせをはたした。
ちなみになぜかシャルティはレティの弓矢を担ぎ、ミニョンとアドラーは変わらずローブを目深に被っている。
「これはこれはこれはこれは! 無事に合流ができて僥倖ですな! いやいやいやいや、カイン殿に対して"僥倖"という物言いは礼を失しますな。ん? こうして述べたことで更なる礼をーー」
「相変わらずの調子で安心したぜ。砂漠越えの疲労は取れたのか?」
いつもの如く要領を得ないイゼルと挨拶を交わすカイン。
「そう! そうなのですよ! 実はワタクシのパトロンであるカウナス氏の高速艇で海から来たのですよ!」
「……海からだと? 一カ月はかかるぞ?」
「それがですね! サージュ君の仮説理論を用いた実証実験を兼ねたものでして、二週間という短期間で航行できたのですヨ! これは物流の世界における革命ですッ!」
興奮するイゼルを横目に件のサージュに視線を向けると「ぶいっ」とピースしているではないか。
挨拶もそこそこに、サージュとイゼルは今後について打ち合わせをする。
「ではでは〜、ワタクシは第三講堂ですので!」
「ん、あたしは第八講堂」
「発表時間が被っているので見ることはかないませんが、しっかりと世界を揺らすのですぞ!」
「ん! 任せて!」
そしてイゼルは珍しく真面目な顔をしてカインと向き合う。
「カイン殿。サージュ君の発表は講堂に、いや学術界に激震をもたらすものであります。反発も凄いものとなることでしょう。どうか守ってあげてください」
「俺を誰だと思ってんだ。世界に名だたる親馬鹿様だぜ?」
「……そうでしたな。誰よりも家族を愛するカイン殿にわざわざいうことではありませんでしたな。いうまでもなくーー」
「れっつごー!」
イゼルがクドクドと話すのを遮ってサージュは意気揚々と講堂に向かっていく。それに続いてカイン、シャルティ、ミニョン、アドラーも講堂に向かう。
舞台は変わり第八講堂。
半円状の講堂にはすでにビッシリと関係者が集まっていた。
「じゃ、あたしは向こうだから」
「おう。初っ端に発表だろ? しっかり見守ってるから頑張れよ!」
「ん!」
カインの激励に眦を下げ、
「サ、サージュ。緊張しないようにね! リラ、リラックスよ!」
「ねぇねの方がリラックスしないとだよ?」
シャルティにはツッコミを入れ、
「……ミニョンはまだ聖女と認めたわけではないの」
「ふぁいとっす〜」
「聖女とかきょーみない。でもお姉さんはあたしのお姉さん。取らないで」
ミニョンとアドラーとも言葉を交わし配置につく。
そうして時刻になり、第八講堂での学術発表が始まるーー。
トップバッターはサージュ。トコトコと壇上に上がり、ペコリとお辞儀する。
拡声器を使いまずは自己紹介。
「……あたしサージュ。よろしくお願いします」
たったその言葉で会場にはどよめきが走る。
「おいっ、サージュってあの大犯罪人の娘だろ?」
「あの戦犯の娘だが……天才ではある」
「親と学問は関係ないが……ないがなあ……」
その名はあまりにも有名だった。良くも悪くも。
「……サージュ」
とシャルティは心配そうな顔で見守り、
「…………」
カインは口を噤むも貧乏揺りが止まらない。
しかしこの程度は予想していたサージュ。簡潔に、しかし鋭く言葉を発する。
「まず結論からのべますーーーー人には魔力が宿ってます」
どよめきに覆われていた会場が凪のように静まる。そしてすぐさまワッと嘲笑に満ちる。
「そんな訳ないでしょうが!」
「魔力が宿っているのならどうして我々は魔法が使えないのですかね〜?」
「イチからお勉強し直したらいかがですか」
「ちょーっとお嬢さんにはこの会議は早かったかなあ」
「天才と持て囃されていても所詮この程度か……」
嘲り、蔑み、疎み。
あらゆる負の感情が指向性をもってサージュに投げつけられる。しかしそれをものともせず、発表を続ける。
「ーー武技は、魔石を武器にこめることで魔法がつかえる」
拡声器をコツコツと叩く。
「この拡声器は武技の応用。音の魔石をこめてる。じゃあそもそもどうして武技は、拡声器はつかえるの?」
サージュの問いは、研究者を焚き付けるものだった。
水を得た魚のように、もしくはここぞとばかりに叩くために、みなが声を上げていく。
「いまあなたが仰った"魔石"があるからですよ!」
「緊張で論理的思考ができないのかなあ? ははッ」
それを受けてサージュは狙い通りに展開していくのを自覚する。
「そう、魔石があるから。じゃあどうして魔石は魔力を失わないの? 魔法を発動した魔石は一体どこから魔力をおぎなっているの?」
「…………」
会場が再度静寂に包まれる。
「どうしてーー魔石や魔法、魔力といったことにあたしたちは疑問を覚えないの?」
先ほどとは異なり、誰も彼も声を発することができない。
唯一喉を震わせたのはミニョンとアドラーだ。
「……ミニョンは認めたくないの」
「でもこれは間違いないんじゃないですか〜? 明らかに『浄化』の力だと思いますけどね〜」
「たまたまなの」
「ですかね〜」
会場の沈黙を破ったのはサージュ。もはや批判の声すらなく独壇場となっている。
「魔石をつかう技術はあたりまえ。太陽が東からのぼるみたいに、水の中では息ができないみたいにあたりまえ。でもその"あたりまえ"を疑うことから学問ははじまる。でもどうしてあたしたちは疑問に思わなかったんだろうね」
ふしぎ、と呟いてからなおも続ける。
「……ま、その点はおいおい調べるよ。本題はね、人には魔力が宿ってるってこと。あたしはこう仮説をたてましたーー生物には魔力が宿っており、魔石はただの変換機もしくは魔法発動のための呼び水だと」
サージュの仮説に一人の翁が反論する。
「サージュさんや。仮にそうだとして、人に魔力が宿っているという証明はどうするのじゃ?」
待ってましたと笑みを浮かべる。
「それはいまからここでみせるよ。パパ! ねぇね! 手伝って!」
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