第一話
体調が改善してきましたので少しずつ投稿していきます。
暴砂鰄鰐との遭遇やミニョンとアドラーとの出会いなど、様々なことがあれど無事に熱砂を踏破したカイン一行。
砂丘の頂からは大都市の面影が朧げに見えている。サウスコート共和国首都ユガまではあと少し。
皆の心にゆとりができた頃を見計らって、カインは鼻の下を伸ばしながら宣言する。
「ーーということで俺は先に行くぜ!」
「……なにが"ということ"なのかさっぱりわかりませんが、エッチなお店に行こうとしてることだけはわかりますよ、お父様?」
「パパ、がまんできない?」
娘二人から軽蔑の眼差しと堪え性のない子供を見るような視線を受ける。しかしそれでもカインは意思を曲げない。欲望には逆らえないのだ。
「うむ! もはやこれ以上は無理! パパ死んじゃう! てことでブレイドの諸君、あとは任せたぜ」
娼館に行きたいがために離脱し先行するという最低な理由にも関わらず、"任せた"という言葉一つでブレイドの四人は喜色ばむ。
「ああ、お姉さんたちに任せな! 宿は中央広場西の『カイロッジ』だ。夕食までには帰ってきてほしいね」
「おう! ご飯はみんなで食べようぜ。じゃ!」
いいたいことだけいい残して、カインは砂煙をあげてユガに向かって走っていった。
「……ほんとに行っちゃった。勝手すぎるでしょ」
とシャルティが呆れ返るが、イシュバーンがカインの行動について補足する。
「言ったはずだーーカイン殿は親馬鹿だと。彼の行動には必ず意味がある。それを理解するのが、しようとするのが"家族"だろう?」
「意味ですか? どうせ下半身に支配されてるだけですよ……」
イシュバーンの言葉には崇拝が込められているとシャルティは思っている。彼だけではない。ブリジットもドイルもレティもだ。
カインを見つめる視線には尊敬が宿り、全ての行動に意味があると錯覚している。
そしてシャルティとサージュには嫉妬している気さえ覚える。
急遽同行することになったミニョンとアドラーからも探るような視線を向けられ、早くも胃に穴が開きそうだ。
そうして早く宿で休みたいと思いながら歩き、ユガに到着する一行。
なにやら検問所がざわついている。疑問に感じたレティが入国審査に並んでいた男に話を訊く。
「ちょっとお兄さん? なにかあったのですか?」
「ん? お、おお。なんでも先の戦争の犯罪者が入国するってんで揉めたらしいぞ」
「犯罪者……?」
男の言葉で険しい顔をするブレイドだが、シャルティはおうむ返ししながら首を傾げる。
男はさらに続ける。
「カインだよ。帝国の英雄って持て囃されてる野蛮な男さ。なんでも用事があってこの国に来たらしいが、どのツラ下げて来やがったんだってな」
「……なっ!?」
カインへのあまりの評価に喉を詰まらせる。そして男に抗議をしようと一歩足を前に出そうとするも、ブリジットに肩を掴まれ制止させられた。
「お兄さんや。そんな男は入国できたのかい?」
「そこなんだよ! いくら終戦したといってもよ、あいつは人殺しの戦犯だ! それなのに皇帝の指輪を持ってることで外交特権があるんだとよ。ったくこの国も何考えてるんだか……」
ブリジットの問いに怒りを顕にしながら答える男。無事にカインが入国できたことを喜ぶ一方、思った以上の批判が向いていることを実感する。
「……ねぇね」
サージュも不安に思ったようで、シャルティの袖口を掴む。
「……大丈夫よ」
サージュの手を握るも、予想以上の悪感情に気押される。顔が引き攣ったシャルティにイシュバーンは鼻を高くして告げる。
「いっただろうーーカイン殿は親馬鹿だと。入国の際に揉めることはわかっていた。ゆえに先行したのだ。批判の嵐を見せないために」
「……わかりましたけど、そのドヤ顔なんとかなりませんか?」
「ふむ。我の方がカイン殿をよく知っていると理解し嬉しいのだ。許せ」
「……はあ」
イシュバーンのドヤ顔に疲れたシャルティは、レティたちが入国審査をしている後ろに立つ。
「ーー冒険者パーティー『ブレイド』、護衛依頼での入国だよ。護衛対象は『学術交流』に参加する四名、その他御者やサポートを勤めてくれた者たちだ」
四名……? とシャルティとサージュが同時に疑問に思っていると、ブリジットが詳しく述べていく。
「この二人は帝立学校に所属、このローブを被った二人は民間伝承を研究してる神学者さ」
いったいどこからでてきた神学者。しかしA級冒険者の肩書は伊達ではないようで、すんなりと審査は終了した。
「わかりました。では入国を認めますーーようこそサウスコート共和国へ」
そうしてシャルティたちはユガの街に足を踏み入れた。
しかしなんとも後味の悪い入国であり、顔に影を落としたままシャルティとサージュは門を潜っていく。
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