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第三話

 肌に突き刺さる太陽、喉を焼き切る灼熱の大気、不意に足元から強襲してくる魔物。


 リクオーレ湿地とは異なる過酷さ、異なるレベルであらゆる生命を苦しめる「神の造りし熱砂(ヘル・サンドリンガ)」の地。


 そこを徒歩で歩く大小二名の人影。顔を覆い隠すほどのローブを全身に纏い、ゆっくりと、しかし力強い足取りで砂漠を踏み締めていく。


「……帝国がダメだった以上、サウスコートにかけるしかないの」


 小さい影がポツリと声を漏らす。それはもう一つの影に伝えるというよりも、己に言い聞かせるような口ぶりであった。


 しかし大きな影はそれを聞き逃さない。


「え〜? それマジで言ってます? 僕、()()とか聞けないんで信憑性に欠けるっていうか眉唾っていうか……」

「神は西の地に()()が誕生すると仰ったの」

「西っていっても範囲広すぎでしょ〜。最悪この大陸じゃない可能性もありますよね、それ。それっぽいこといってるだけなんじゃないですか?」

「そう思ってる人すらも神は許されるの」

「いや、それ人に期待してないだけっしょ」


 信心深い小さな影と気怠げな大きな影は歩みながら会話を続ける。


「……第一なんで"西"なんでしょうね〜。西って古の聖女が迫害され断罪された地でしょ?」

「公的な記録ではそうなの」

「なら騎士団(僕ら)の記録では?」

「断片的ではあるけど、少数の信頼できる者たちと東へ向かったとあるの」

「ふ〜ん。数万人対数人の大迫害でしょ。よく生き残れましたね〜」

()()()()()の相棒によって切り抜けたとあるの」

「一人と一つ〜? なんですか、またそれっぽい言い回しで煙に巻いてるんですか?」

「知らないの。ただそうとだけ伝わってるの」


 へえ、とつまらなさそうに返事をした大きな影はそこで口を閉じた。


 お互い無駄口を叩かず足を進めていると、砂丘の彼方より砂塵を振り撒きながら近づいてくる魔物の影。それは次第にざあっとした音をともない大地を揺らす。


「ーー()()()()


 小さな影が傍のローブの名を呼ぶ。


「はいはい、どうせ砂蟲(さちゅう)ですよ。蹴散らせますね〜」


 そういってアドラーは屈伸をして準備運動をする。次第に耳朶を叩く音が大きくなる。


 そうして一呼吸の沈黙の後、


 ドッパァンッ! と砂の瀑布を起こしながら巨大な口を広げたミミズのような魔物が襲いかかってくる!


「ーーよっと!」


 それを視認してから、アドラーは深くしゃがみ込み跳躍。敵に向かって弾丸と見間違えるほどの速度で肉薄し、砂蟲の長い胴体に飛び蹴りをねじ込む。


 アドラーの脚が砂蟲の胴体に深く突き刺さり、そこを基点として波状の衝撃波が砂蟲の体を突き抜ける。


「……JU……JUO…Ooo……ッ!?」


 声、というよりも衝撃によって体から音が漏れた、というべきだろう。魔物の苦悶する音が尾を引きながら、砂蟲はゆっくりと砂漠に横たわっていく。


 一度の交錯で魔物を倒したアドラーに、小さな影は労いの声をかける。


「お疲れ様なの。ケガはないの?」

「ええ。B()()の魔物一体程度なら問題ないですよ〜。これがA級となると流石に厳しいですかね〜」

「そ。もう少しでサウスコートに着くの。頑張ってなの」

「はいよ〜。向こうに着いたら美味しいご飯お願いしますねっと」

「任せてなの」


 そうして魔物の素材や魔石には目もくれず、二人は歩を進める。


 道中、何体かの砂蟲が襲い来るも悉く薙ぎ倒していくアドラー。それをさも当然と受け入れる小さな影。


 あと少しでサウスコート共和国首都、ユガが視界に入ろうかという段になって、一際大きな魔物が砂の中より現れた。


「アドラー、任せたなの」


 と、いつもの如く退治を任せるが肝心の返事が返ってこない。気になり横を向くと、全力で逃走しているアドラーの背中が見える。


「……アドラー?」

「なにやってんすか!? 僕の脚技じゃ砂蟹(さかい)の硬い殻は破れませんよ! ほら逃げてッ。そもそもA級に一人で立ち向かうのはナンセンスっす」

「なんせんすっすなのはアドラーなの……」


 まいった、と小さな影はため息を漏らす。アドラーのように脚が早いわけでも力に優れているわけでもない。


 刺々しい岩石を甲殻とした蟹のような見た目をした魔物が向かってくるのを見つめながら、小さな影は神に祈る。


 ーー命はここで尽きるとも、第二第三の()()()()が必ず聖女を見つけるの。神様待っててなの。


 覚悟を決めて瞳を閉じる。死の未来の訪れを待つ。


 しかしその瞬間、後方より刺すような声が小さな影の鼓膜を揺らす。


「ーー頭を下げなっ! チビッコ!!」

「……っ」


 言葉を受けて反射的にしゃがみ込む。すると頭上を燃え盛る槍が砂蟹に向けて一直線に飛んでいく。


 それは小さな影を覆い隠さんとしていた魔物の正面に当たり、巨体を大きく仰け反らせた。


 次の瞬間には赤い髪が特徴的な長身の女性が小さな影を庇うように前に出る。


 パチパチと瞬きをしていると、筋肉の鎧を纏った男性やエルフの女性、なんだか弱々しい男性も次々と集結してくる。


「お姉さんたちが危ないとこを助けてやるから、そこでじっとしてなチビッコ」


 肩越しに告げてくる赤髪の女性に小さな影は目を見開きながら問う。


「あなたたちは誰なの?」


 犬歯を見せながら勝ち気に答える赤い髪の女性。


「ブレイドーーただのA級冒険者パーティーさ」

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