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第六話

「あ、あのっ」

「ああん?」


 サージュにことのあらましを訊いていると、カウナスが一歩踏み出し発言してきた。もちろん愛する娘との会話を遮られたカインの顔には苛立ちが浮かんでいる。


「サージュちゃんのお父様ーーということは"英雄カイン"様ですね。お初にお目にかかります」

「……おう、目に入るのもこれが最初で最後だ。あと娘を"ちゃんづけ"で呼ぶなよ、馴れ馴れしいな」


 しっし、と手を払って鬱陶しそうな感情を隠しもしない。


「……噂どおりの親馬鹿ですね。しかしそうはいきません。ワタシはサージュちゃーーさんのご支援もさせていただきたいと考えています!」

「おまっ!? それは最近流行りの"パパ活"ってやつか! 許さん! そんないかがわしいことは許さんぞっ!!」


 ーーパパ活。


 女性が裕福な男性から金銭的援助をしてもらうこと。もちろんそこには対価が発生するはず。表向きには"支援"としているが、その実、やらしい対価を求められる……に違いない!


「パパ活……??」


 サージュが初めて聞いた、みたいな顔をしながら首をコテンと倒す。そんな仕草も可愛いなあと思いながらも険しい表情でカウナスを睨みつける。


「ち、違いますよ! バーント教授からも頼まれているのです! 未来あるサージュさんのために支援をして欲しいと。ですので純粋かつ真っ当な援助です!」

「可愛いサージュに"援助"っつーのが気に食わんっ。不純だ! 帰れ! どうせエッチな見返りを求めるに違いねえ……っ!?」

「そ、そんなことするわけないじゃないですか!」


 カインの言葉に汗を吹き出しながら猛抗議するカウナス。


 他方、いつも通りの親馬鹿モードに飽きたボグダンはサージュと手遊びをしている。


「ジュちゃんのパパも親馬鹿だよなぁ」

「ん、パパは親馬鹿。でもそんなパパがあたしは好きっ」

「へへっ、微笑ましいこって」


 なんてほのぼのとした会話とは対照的に、カインとカウナスの会話はヒートアップしていく。


「ーーですからッ、ワタシのタイプはもっと病弱で深窓の令嬢感丸出しの幸薄い系美女なのです!」

「はぁ!? ウチのサージュちゃんが美女じゃねえってか? それはそれで失礼なやつだな!」

「ワタシのタイプを説明していたのですが!? いつからサージュさんのお話しに??」

「サージュがこの世界に誕生したときからずうっとサージュの話ししかしてませんけどぉ?」

「か、会話に論理性がない……!?」


 いい年した大人が二人、大声で言い争っているとカウナスが声のトーンを落として告げる。


「……ワタシが援助しないと『学術交流』が半端なものとなってしまいます」

「がくじゅつこーりゅー?」


 カウナスの言葉に聞き覚えがないカインは片眉を上げる。


「帝国が誇るバーント教授だけでは威信が足りません。神童であるサージュさんも参加して初めて、学術交流は成功すると思っています!」

「さんか??」


 カインの疑問は膨れ上がっていく。


 ーー一体なんの話しをしてんだ、コイツ。


「確かに他の貴族でも援助はできるでしょうが、幼いサージュさんが共和国まで行くとなるとそれなりの護衛も必要。ワタシであればA級冒険者パーティー『ブレイド』に依頼することもできます!」


 だからどうかッ、と深く頭を下げるカウナス。


 しかし話しが見えないカインにはさっぱりであり、なによりサージュに向けていた視線が気に食わないので毅然と断ろうとする。


「んー、よくわからんから却下で」

「そ、そんな理由で……」


 唖然とするカウナス。


「……わかりました。正直に話します。ワタシは学術交流以外にもサージュさんには()()しています。」


 カウナスの自白に、ほらやっぱりエッチな思惑が、と思っていると訥々と語り出す。


「サージュさんが研究発表した空気抵抗に関する論文及びそれに伴う快速帆船の技術をワタシどもで独占したいと思っています。そのために、サージュさんにご支援させていただこうと考えました……」

「え、なにそれ初耳」

「サージュさんの発表した理論を元に大型横帆を用いることで、高速航行が可能となり海運を司るワタシどもは更なる発展を遂げます」

「お、おん」


 ちょっと難しい話しになってきたのでカインタジタジ。


「ですから! ワタシはサージュさんに賭けているのです!」


 腰から体を折り曲げたまま、顔だけカインに向けるカウナス。そこには"覚悟"が乗っている。


 カインの覇気を受けても口をきけるだけはあると納得する。多くの従業員を抱え、大きな仕事を任され、決断を繰り返してきた顔だ。


 ーーただのロリコンじゃねえ。


 しかし話しの内容がてんで理解できないカインはどうしたものかと顎に手をやる。周囲には野次馬もできている。


「……そのことは、あたしが話すよ。カウナスさん」

「サージュさん」


 ボグダンと遊んでいたサージュがいつの間にかカインの傍に立ち、カウナスに伝える。


「……あたしからいわないといけないことだから」

「わかりました。では今日の所は引き下がります」

「ん。アドバイスありがとね」

「ええ! この程度ならいつでもご用命ください、では」


 カインにも軽く会釈してから踵を返すカウナス。


 頭の中がハテナで満たされたカインの袖を引っ張るサージュ。


「パパ。かえろ……?」

「おう! そだな! 帰るか!」


 そうして帰路につく二人。茜空が二人の背中を照らしている。


「…………え? おいらは無視ですか?」


 ボグダンの言葉は空に消えていった。

お読みいただき、ありがとうございます!


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