第四話
その後もカインは無理矢理ボクダンをつれてサージュの監視を行うものの、これといった成果は得られなかった。
そうして焼けた雲が空に滲み出した頃。
サージュは帰路とは違う道を歩み出した。
「ん? おいカイン。お前の家はあっちじゃないだろ」
「……ああ。真逆ってほどでもないがな。寄り道かもしれん。お菓子の買い食いだったら可愛いなあ」
「だめだこりゃ……」
サージュを一日中見ていたからか、カインは眦をだらしなく下げてデレデレしている。
他方ボグダンはどこかで買ってきたホットドッグを頬張っている。見張りにはホットドッグが欠かせないらしい。彼は形から入るのだ。
そうこうしていると、帝都前広場の噴水にてサージュは見知らぬ男性と会話しだすではないか。
「おいおい、マジでジュちゃんに男ができたのか?」
「あ"あ"……?」
「どっから声出してんだよ。にしてもちょっと年上すぎないか? 三十前後だろ?」
二人の視線の先には、身なりがよく恰幅のある男性と会話に興じるサージュの姿。
サージュはいつもの如く表情に乏しいが、男の方は鼻の下を伸ばしに伸ばしている。
いますぐにでも飛び出して詰問したい気持ちを抑え、カインは血の涙を流しながらハンカチを噛む。
まだあの男が何者かわからないからだ。学者として優秀なサージュに出版依頼をする編集者や、講演を頼む人、純粋なファンなどああ見えて顔は広いのだ。
立派に活躍している娘の人脈を私情で壊すわけにはいかない。カインはちょっぴり成長しているのだ。
「だからといって距離感おかしくねぇか。せめて十メートルは離れろよ。可愛い天使が穢れるだろうが……ッ」
「もはやそれは会話が成り立たないと思うぜ、おいら」
「言葉なんて介さなくてもサージュなら雰囲気で悟ってくれる。ウチの子なめんなよ」
「それはもはや"天才"じゃないだろ……」
「ああ! サージュは"超天才"だからな!」
「こんなに至近距離なのに会話が成り立たねえよぉ」
ボグダンの嘆きをよそに、建物の陰から監視を続けるカイン。しまいには壁を齧りだした。
そんな風に監視されていることなんて露知らないサージュは男の先導で再び歩を進める。
「ああぁぁ、サージュちゃん。あれほど知らない人にはついていっちゃダメって教えたのに……」
「知っている人だからついていってるのでは?」
「男なんてみんな知らない人だ! 俺以外で!」
「束縛系彼氏かよ」
「サージュに彼氏はまだ早い!」
「マジでこいつの頭が心配になってきた……」
あまりの親馬鹿具合に頭が痛くなってきたボグダンをつれて尾行するカイン。
ものの数分ほどでサージュは男と一緒に雑貨屋に入っていった。
「……もうダメだ。これは確実にモノで釣ろうって魂胆だな。有罪ーー死刑だ」
「待て待てカインっ! せめて相手にも弁論の機会をだな!」
虚ろな目を携え、幽鬼の如き足取りで雑貨屋に向かうカイン。その手にはすでに腰より抜き放った慈愛剣を握っている。
だらりと切先を下げ、地面を削りながら足を運ぶ姿はまるで英雄というより死神のそれだ。
「……お前ぇ、サージュが毒牙にかかってもいいのかよ」
「待てって! まだ毒牙と決まったわけじゃない! まずは話しを聞こうっ。な?」
腰にしがみつかれて決死の提案をされたことでカインの溜飲もわずかに止まる。
「……聞くだけだ」
「それで十分だ。おいらだってジュちゃんが心配だからな!」
カインは慈愛剣を腰に差し戻し雑貨屋の店頭で腕を組み、仁王立ちで待ち構える。
なにも知らぬ人が見れば、これから決闘が始まりそうな気配すら漂わせている。
時間にすれば十分といったところか。
サージュが件の人物と店から出てくる。
「んみゅ? パパ……?」
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