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第三話

 今はまだお昼前。


 普段通りならサージュは帝立國學院にて研究をしているはず。カインはボグダンを引きずったまま帝都を爆走する。


 小太りの男を一人引きずりながら走る英雄に、市井の人々は「またいつもの親馬鹿か」と微笑ましい視線をおくり、誰もボグダンを助けない。


 走ること十五分。カインは帝院に到着した。


「ぐへぇッ。……い、生きてる? おいら死んでない?」


 目をパチクリさせて、ボグダンが膝をガクガクさせながら生を実感する。


「いくら頭に血が上ったからといって死なせるようなことするわけねぇだろーー友をよ」


 カッコいいセリフを宣いながら片笑うカイン。一瞬ボグダンは胸を打たれたように唇を震わせるが、すぐに怒りの顔に転じさせる。


「友だと思うならもちっと優しくしてくれないかね!? 鍛冶士にとっちゃあ腕は大事な商売道具なんだが!!??」

「気にすんな」

「するわボケェッ!」


 軽く流すカインにスパァーンと頭を叩く。


 一通りのツッコミを終えたのを確認してからカインは瞳を閉じる。


「むむむむぅ……」

「……もうなにをいわれても動じないぞ、おいら」

「感じる。感じるぞ! サージュは塔の上にいるはずだ!」

「はいはい、親馬鹿親馬鹿」


 投げやりなボグダンの首根っこを掴み、知恵の塔に向かって駆け出していく。


 ボグダンの顔は諦めの表情一色だったとか……。



「ーーお! サージュだ! うんうん、真面目に研究しているようでなにより。今日もかわいいなあ……!」


 カインはいま、塔の窓からサージュの研究風景を隠れつつ眺めていた。


 ーー塔の最上階に位置する窓を外から。


「……カイン」

「あんだよ」


 カインに背負われたボグダンが涙を浮かべながら辞世の言葉を吐く。


「おいらが死んだらよ、家具屋の嬢ちゃんのことは頼んだぜ」

「縁起でもねぇこというんじゃねぇよ。友は死なせねぇさ」

「ーーいや、今日なんどもあなたに殺されかけたんですけど……?」

「大丈夫だ」

「ーーどこが!?」

「だーもうっ、静かにしろって! サージュにバレちまうだろうが!」

「お、おう、悪い。ん? なんでおいらが謝ってんだ?」


 なんて会話をしながら黙々と文献を漁っている娘を監視するカイン。背負われていて暇なのか、ボグダンは雑談をはじめる。


「……そういえば昔にもこんな会話をしたよな」

「ああ、お前ぇがハグれたときだよな」

「あんときはなにを託したんだっけか」

「……忘れたな、んな昔のことなんざ」


 つっけんどんなカインの口調だが、その真意には優しさで溢れている。そのことが嬉しくてつい饒舌になるボグダン。


「いや、思い出した。"ドワーフの未来"だ。今でこそないが、おいらたちドワーフは差別の対象だった。だからもしドワーフに危険が迫ったら助けてほしいって頼んだんだ」

「……………………」


 カインは答えない。


「おいらのことなんて見捨ててくれて構わねえから、同胞のために力を奮ってくれと」


 ボグダンは南部戦役での出来事を回想しながらしみじみ語り続ける。


「"友のために自分の命を捨てること、これ以上の愛はない"。これはおいらの信じる教えだが、お前なんて答えたか覚えてるか?」

「……"そんな馬鹿を救うことこそが本当の()()なんだ"」

「最後には"あほんだらッ"つって殴られてな。やっぱ覚えてんじゃないか」


 ボグダンにとっては忘れたくても忘れられない出来事。


 南部戦役で死にかけていたところを救ってもらった大恩がカインにはある。だからこんなふざけたことにも付き合っているのだ。


 ……決して無理やりだからではない。


 だからこそ、サージュを心配するカインの気持ちもわかるのだ。


 なぜならカインが赤子を拾ってきてところを見て、共に国に帰ったのだから。


 いうなればボグダンにとっても、いやあの部隊にとっても、サージュは我が子のように想っている。


 ーーカインの親馬鹿を馬鹿にはできないな、とボグダンが自嘲した瞬間、


「あっ、サージュが部屋を出るぞ! 先回りだ!」


 カインが窓から手を離し落下する。


 ーー帝都でも有数の高さからの自由落下である。


 ボグダンは声を上げることなく気を失った。

お読みいただき、ありがとうございます!


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