第十一話
ーー息をのみ、戦慄した。
おそらくあの場にいた全員がそうだろう。
皇帝も第一皇子も第二皇子も興味なさげであった第二皇女すらも。
近くで控えていたネックス副団長も例外ではない。
あの時、あの瞬間、英雄カインが放った一撃で天が割れた。
脚色なく、文字通り天が割れたのだ。
空を覆い隠す黒い雲も、帝都を取り囲む大結界も。
「……あれが至った者の力なのね」
式典でのことを思いだし、第一皇女アディは掌中のグラスを回す。中には真っ赤なワインが注がれている。
「皇帝陛下が、いえ一族が代々目指してきた道の極地。それがあの一撃」
三百年間積み重ね、今代の皇帝に至っては"外道"に堕ちてなお求め続けた姿が確かにあった。
先祖の、一族の、皇帝の、そしてアディの悲願である【至天の座】への到達。
それは人が神へと登り詰める背徳的であり荒唐無稽な目標。
しかし今日、それは証明された。
ーー人は神の領域へと至れるのだと。
「問題はどうやってカインを使うのかしらね。なにやらツォルンお兄様は排除したいみたいだけど」
すでに手本とするものはいるのだ。あとはどう自分たちとの差異を探し、改善し、補填するのか。
「カインと交わって子を成せば早いと思うのだけどねぇ♡」
アディはカインと相対し感じた底知れぬ力と衣服を盛り上げる肉体を思いだして舌舐めずりする。
女や娘という目に見えた弱点もあるが、そこを突いたアロガンは見るも無惨に一蹴された。
であれば、娘たちと引き離さずに同時に追い詰めれば良いのではないか。
そこでなにかが起きるならよし。起きずともきっかけになればよし。なんなら恩を売って先への布石を投じておくのもいいだろう。
ーー他の皇族も目の色変えて動き出すはずだから。
「今日のあれを見て動かない愚鈍は皇族にはいない。わたくしが手を出さずとも、必ず誰かが動く。それが陛下であれば一番面白そうなのだけれどねぇ」
グラスの酒を飲み干すアディ。その顔には何かを思いついたような笑みがうっすらと浮かんでいる。
グラスを傍のデスクに置き、パンパンと手を軽く叩く。するとメイドが音もなく入室してくる。
「ーーちょっと言伝を頼みたいのだけれどぉ♪」
物語のような一撃によって、かえって皇族たちを刺激してしまったカイン。
知らず知らずのうちにうっかりを連発していることは知る由もない。
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