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第十話

 シャルティとサージュを連れてスタコラサッサと帝宮を後にしたカイン。騎士団の帯同を丁重にお断りし、三人はプラプラと歩いて帰路についていた。


「しっかしどうしたもんかね」

 

 ポツリとカインが呟く。それに珍しくサージュが反応する。


「パパ! 宝玉ならつよい魔物! つよい魔物なら魔圏! ということで魔圏にいこ……?」

「っく、そんなつぶらな瞳で上目遣いされてもパパは動じないぞっ」

「……パパ、だめ?」


 ウルウルさせた小さな二つの瞳に見つめられ、カインは早くも決意が揺らぐ。


「……う、ぐ……」

「"うぐ"じゃないでしょ、お父様っ。そこは毅然と断ってください! サージュもよ! ついこの間危ない思いしたばかりじゃない!」


 横槍を入れてきたシャルティにジト目を向けながら拗ねた口調のサージュ。


「……あぶない思いなんてしてないもん」

「それはお父様と一緒にいたからよ! 私なんて死にかけたんだからっ!」

「ねぇねは怖がりだから」

「それとこれとは関係ないでしょうがっ」

「……ぜったい漏らしてた」

「ーーしてないからっっ!!」


 歯を剥き出しにして抗議するシャルティ。道の往来で言い合う二人の頭を撫でて収める。


「落ち着けって。魔圏はいかなきゃならねぇんだ。ヴォヴァンとの約束もあるしな。だが焦る必要もねえ。なんとかなるさ!」


 いつも通りの陽気な笑みを二人に送る。


 ヴォヴァンことヴォルフガング=ヴァンダーヴィッテには、なぜカインがこの時代にいるのかの説明をしなければならない。


 しかし彼の〈調停〉を司る龍には寿命がない。だから気が向いた時に行けば良いのだ。


 ーー問題は"宝玉"である。


 世界に二十体ーーカインが倒したから厳密には十九体だがーーしかいない"王級"の魔物ですら宝玉を有していなかった。


 それ以上の"天級"を仕留めないといけないのか、それとも魔物の生きた年数で変わるのか、浅学なカインには分からない。


「ま、最悪魔圏の中枢に行けばなんとかなるかな」


 とはいうものの、片道だけで数ヶ月かかる道のりにくわえ、"天級"を相手取るには武器も足りない。神造の儀礼剣といえども鞘越しでは心許ない。


「……ま、お父様ならなんとかしてしまうのでしょうね」

「ん! パパはさいきょーむてきでカッコいいから! むふー!」


 愛する娘たちの期待を受けて、カインはニヤリと不敵に笑う。


「まあな! 伊達に"英雄"やってねぇさ」


「……ということで英雄さん? ちょっと私、欲しい服があるのですけど……?」

「……ん。あたしも欲しい文献がある。えーゆーさま」


 急に媚び出す二人だが、カインは上機嫌で答える。


「おうおう、なんだって買ってやるさ! なんだか気分が良くなってきたしな! 酒も飲んでないのに! ……ん? 酒?」


 カインの顔が徐々に青色に染まっていく。


「あーーーー!!?? 酒持って帰ってくるの忘れてた!?」


 カイン絶叫。


「そもそもパーティーに参加してないじゃないですか……」

「そ。副だんちょーに怒られてたからパーティーいけてない」

「な、なんで二人はそんなに落ち着いてられるんだよ! パーティーには美味しいご飯やお菓子も出るんだぞっ」


 カインの言葉にキョトンとする二人。小首を傾げながら非情な事実を告げる。


「「だってもう食べたからーー怒られてる間に」」


 そう。二人はカインがお説教を喰らっている間に美味しいお菓子を食べていたのだ。それもネックスの計らいで最高級のものを。


「……うそ……だろ?」


 あまりの落ち込み具合に両膝を地面につけ項垂れる。最強の覇王は容易く膝を折る。


 面倒臭い思いをしてまでカインが戦勝式典に参加するのには訳がある。


 ーー巷では出回らない、皇族秘蔵の酒が振る舞われるからである。


 それが毎年目当てのカイン。血の涙を流しながらカインは慟哭する。


「うおおおん! あんまりだぁぁ! じゃあ俺はなんのためにカッコつけたんだよぉぉ……!?」

「格好をつけるためだったんだ……」

「お酒のちからってすごいね、ねぇね」


 今日も今日とて英雄カインはうっかりさんだった。

お読みいただき、ありがとうございます!


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