第八話
「ーーーー覇斬轟雷・昇龍……!!」
切先から放たれた斬撃は雷撃を帯び、その形は天へと昇る龍に変じ、曇天に向かって飛翔していく。
雷龍が分厚い雲の中に消える……。
一度深く呼吸をするほどの時間が経ち、
ズバァァァンッ!!
と天を覆う全ての雲が消え失せ、蒼穹が広がった!
その光景に満足気に頷いたカインは剣を腰に差し戻し、両手を広げて宣言する。
「ーー俺がいる! これがその証だ!」
民を安心させるためのパフォーマンス。そして皇族への牽制を込めた一撃。
ーー出た杭が打たれるのなら、打つ気が起こらないほど圧倒的に出ればいい。
それがカインの辿り着いた答えであった。
そのために属性奥義を使った。畏怖でも尊敬でもなんでもいい。楯突くことなど烏滸がましいと、歯向かうならば命を落とすと、そう思わせるために圧倒的な"力"を見せつけた。
「……カ、カインっ」
一人が英雄の名を叫ぶ。それはまるで水面に波及する小石の如き歓声。たちまち熱気は再燃し、民衆は声を枯らす勢いで叫びだす。
「「「カイン! カイン! カイン!」」」
広場が、いや帝都全体がカインコール一色になる。その光景に見渡してからバルコニーへと顔を向ける。
愛する娘たちにカッコいい姿を見せたのと皇族への反応を見るために片笑いながら。
しかし拡声器を通して響くは賞賛でも恐怖でもなかった。
「なに帝都の大結界までぶっ壊してるんですか!? この親馬鹿っ!!」
ネックスからの叱咤がカインの、いいや帝都にいる全員の耳朶を叩いた。
カインはふと見上げる。なにやら中空にヒビが入っているではないか。
ヒビは徐々に広がっていき、最後はガラスが割れるような大音声をともなって砕け散って消えていった。
「……あ、わりぃ」
一言カインが漏らす。
「悪いで済むと思ってるんですかッ!? 大結界の維持には貴重な"宝玉"がいるのに! あー! もうッ! この親馬鹿ッッ」
「「「……っ!? 親馬鹿! 親馬鹿! 親馬鹿!!」」」
ネックスの言葉に触発されカインコールは親馬鹿コールに変わる。
戦勝式典である以上カインが主役なのは間違いない。されど、確かにこの瞬間、この場において空気を掌握しているのは誰が見てもカインだけだった。
皇族など見る影もない。
カインは民衆の声を背に不敵に笑う。
「結界を壊したのは悪かったけどよ、これが俺よ! 親馬鹿でなにが悪い!」
「ひ、開き直りですか!?」
ネックスの驚いた顔を思い浮かべていると、拡声器を通じて愛する娘たちの声が聞こえてきた。
「お、お父様っ! 謝ってください! い、いまは式典中ですよ!?」
「……パパ、悪いことしたら"ごめんなさい"でしょ?」
娘たちの非難の声にうっ、と詰まるカイン。戦場をともにした仲間よりも娘たちの言葉のほうが胸に刺さる。カインは首元に手をやりながら謝罪する。
「……ごめんなさい。やりすぎました」
正直、帝都を覆う大結界のことなんて頭の片隅にもなかった。というか見えないように展開している結界も悪いのではないか? と責任を転嫁しだしていると、親馬鹿コールが今度は爆笑に変わっていることに気づく。
ーーなにはともあれ笑い話で済んだのなら良かったのでは?
こうして八回目となる戦勝式典は耳を劈く雷鳴と笑い声が天高くこだまし、幕を閉じたのだった。
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