第七話
皇帝が先陣をきってバルコニーに出る。それに続く形で皇族も順次外に出ていく。
ウワァっと、皇族の姿を見た民衆は歓声をあげて式典に興する。
それを見届けてからカインたちが最後にバルコニーに出ると、
「「「カイン様ぁぁー!」」」
と皇族たちの登場よりも大歓声が帝都に響き渡る。
手を振り応じるカイン。今回の民の声にはどこか"縋る"感じが見てとれる。英雄を讃えるのではなく、英雄に期待している声だ。
ーー不安なんだろうな。
帝都への魔物の襲来にはじまり、魔圏では"王"級の魔物が出現し帝校の生徒たちが九死に一生を得たことを見聞しているのだろう。
未曾有の危険を感じているからこそ、不安を払拭できる英雄に期待を寄せる。
ーーまるで昔の聖女みたいだ。
エカテリーナと仲のよかった慈愛の聖女もそうだった。民から愛され、敬われ、信仰の対象となっていた聖女。
時が経ても人の心は変わらないのだとしみじみ実感する。
己より強大な存在に惹かれ、頼り、依存する。
しかし一度危険がされば今度は恐れ、慄き、迫害する。
"出る杭は打たれる"とはいうが言い得て妙である。
皇帝がなにやら偉そうに挨拶しているのを右から左へと聞き流しながらカインはぼんやりと考える。
すでにカインは"出る杭"には違いない。しかし、
「……あたっ……んみゅ? パパ?」
「痛っ、ひ、人前ですよお父様っ」
愛する娘たちの手を握る。静電気が流れるも気にしない。
「……打たせるわけにはいかねぇよな」
そうだ。この両手には護るべきものがある。有象無象に打たれてはならないし、打つ気すら持たせてはならない。
ーーたとえそれが皇族であっても。
「ーー余が長々と話していても退屈であろう。そろそろ、お待ちかねの"英雄"から、挨拶してもらおうではないか」
皇帝がそう告げると民衆のボルテージは急上昇していく。
皇帝が一歩脇に逸れる。いつもなら皇帝の横で面白おかしい話をするのだが、今回は違う。言葉なんて誰も求めていない。
ーー求めているのは力だ。
カインはシャルティとサージュの手を離し、頭を労わるように優しく撫でながら告げる。
「よく見ときなさい。これがお前たちの父親だ」
「お父様……?」
「……パパ?」
静電気によって二人の髪はふわっと浮き上がり、キョトンとした顔をみせる。
カインはニカっと笑みだけ残しバルコニーの柵に足をかけ、視線を皇族に向ける。
「いい機会だ。お前らもしかと目に焼き付けろ。これが"英雄"の力だ」
覇王たるカインの双眸に気押されたのか、はたまたカインがこれからなそうとすることに予想がついたのか。
いずれにしてもその場にいたみなが等しく身構えた。
ある意味宣戦布告ともとれる発言。カインは不敵な笑みを浮かべ跳躍する!
式典は帝宮の西側広場で行われていた。皇族が太陽を背負っているよう民に顕示するためである。そして広場の真ん中には戦勝を祝う記念碑が高く聳えている。
その記念碑の頂上へ一足飛びで着地するカイン。
バルコニーという遠いところから演説すると思っていた聴衆は思いがけない演出に湧き上がる。
民の期待を一身に背負い、カインは固有魔法〈覇道を往く者〉を発動。視力に乏しいものですら視認できるほどの赤銅色のオーラを身体中から滲ませる。
左腰に佩ている純白の直剣を鞘ごと引き抜き、切先を天に向け右腕を引く。
左手は狙いを定めるように前に突き出し、力を溜める。
狭い足場ながら左足を前に、右足を後ろに置き重心を落とし細く長い息を吐く。
体から湧出したオーラは右腕に収束し、その剣にはパチパチッと電気が帯びる。それは次第に雷撃と呼ぶに相応しいだけの音と光量を備えていく。
パチパチッからバチバチッを経て、バリバリッと放電させながらその電力・威力は高まっていく。
大きく肺を膨らませ息を吸い込むカイン。
これから起きようとしていることを見過ごさぬよう群衆は息をのむ。辺りには凪のような静けさが広がり、それがかえってカインから放たれる雷鳴を際立たせている。
ついにカインは右腕を突き上げながら叫ぶっ!
「ーーーー覇斬轟雷・昇龍……!!」
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