第四話
ーー戦勝記念式典当日。
カインは自宅にて化粧を施されている娘たちを待っていた。
いつも通りでいいと思うのだが、年頃の少女はそうではないらしい。
前もって高いドレスを買わされ、今日は朝からスコッティに頼んでお化粧してもらっている。
ドレスなんて去年と同じでいいじゃないかと言おうものなら烈火の如く怒られたのは記憶に新しい。
ただ待っているのも暇なので、朝から酒でも飲んでやろうと忍足でキッチンに向かうカイン。
しかし、そういう時に限って娘たちの支度が終わったらしく、部屋から出てくる音がカインの耳朶に飛び込んでくる。
「ーーお父様〜? お待たせして……ってなにしてるんですか?」
「…………あ」
哀れかなカイン。その手にはちゃっかり酒瓶が握られてた。現行犯である。
「〜〜〜〜!?」
シャルティ、顔を赤面させて声にならない声を出す。
「……パパ、今日はお城でたくさんのむんでしょ? いまはメっ」
他方サージュは顔の前で手をバツにする。
「……まだ飲んでねぇけどな……ごめんなさい」
「んみゅ、パパいい子」
カインにポスっと手を置くサージュ。
それを見てシャルティが再起動する。
「お、お父様っ! 朝からお酒を飲んではなりませんとあれほどーー」
「わーったって! ったくシャルちゃんは俺の奥さんかよ」
耳に指を突っ込んでそっぽを向くカインだが、言われた当の本人はさらに顔を赤く染め上げる。
今度は怒りではなく羞恥心によって。
「お、おお、奥さん? それってつまりお嫁さんで……あわわわわっ」
「……パパはつみな男。やれやれ」
「…………はい?」
シャルティは頬に手をやりクネクネさせ、サージュは呆れたように顔を振り、その光景が理解できないカインは呆ける。
カイン一家は今日も通常運転であった。
しかし今日は大事なイベントを控えている。娘たちの部屋からもう一人の足音が聞こえてくる。
「もうっ、カインさまったらぁ。せっかくシャルちゃんもサージュちゃんもおめかししたんだから褒めてあげてくださいよぉ」
スコッティが苦笑いを携えて歩いてくる。
ーーその手には化粧筆を持ったまま。
「……スティねえ、お筆は置いてきたら?」
「あらやだぁ、うっかりしてたわ」
サージュの指摘で気づくスコッティ。彼女はポンコツなのだ。
妙に色気のある仕草で踵を返すスコッティ。その豊満な尻をしっかりと見届け、一度大きく頷くカイン。
「シャルちゃんも素敵だな。いつも以上に綺麗だ。サージュちゃんも大人のお姉さんみたいで華やかだぞ」
しっかりと娘たちを褒めるカイン。"今日は綺麗"なんて言わない。"今日も綺麗"だと述べる。
女性の扱いに慣れているカインは、発言にも繊細な注意を払っているのだ。
「ねえお父様? "シャルちゃんも"と仰いましたね? 一体誰のなにを見てから仰ったのでしょうねえ? ねえ??」
「…………あり?」
悲報。カインの潜在意識が漏れ出てしまう。
そしてそれに気がついてしまうシャルティ。
「どうせっ、スコッティのっ、おっきなっ、お尻をっ、見てたんでしょっ!」
「ごめっ、でもつい目が!」
シャルティ、涙を浮かべながら狂喜乱舞の如くカインの腕を叩く。
「ねぇね、それは動物的ほんのーだからしかたないよ? 大人になろ?」
「ちょっとなにそれ! 私が子供みたいじゃないのっ」
「……あ、これめんどくさいねぇねだ」
せっかく着飾ったのに他の女性と比べられたような気がして怒ってしまったシャルティは次なる標的を妹に据える。
シャルティの暴走はスコッティがその豊満な体で抱きしめ物理的に沈めるまで治らなかった。
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