第三話
「「戦勝式典でどうして乾布摩擦……??」」
二人して小首を傾げ、同じ言葉を口から吐き出す。
「いつも戦勝式典で俺が挨拶するのは知ってるだろ?」
「え、ええ。お父様は南部戦役の英雄ですからね」
ーー戦勝記念式典。
八年前に終結した南のサウスコート共和国との戦争における勝利を祝福し、また散っていった兵士たちの鎮魂を期す式典。
南部戦役、それも最大にして最悪とされる湿地帯での激戦。帝国と共和国の勝敗を分けることとなった分水嶺が「リクオーレ湿地の戦い」であり、その英雄であるカインは毎年式典にて挨拶を行っていた。
ーー皇族が列席する場での挨拶なのだから、"英雄すらも配下に置いている"というパフォーマンスに使われているだけだが。
「今年はちょっくら意匠を凝らそうと思ってな!」
なんだか悪巧みを考えていそう顔をするカインにシャルティはジト目を送る。
「……なにか変なことをするつもりじゃないですよね?」
「ソ、ソンナコトナイヨ?」
「お・父・様?」
「だいじょーぶだって! アロガンの件といい皇族には煮え湯を飲まされてるからな。ちょっと"力"を見せつけてやるだけさ」
言いながらカインは二人の頭を撫でる。
「まったくもう! それと先ほどの乾布摩擦はどう関係があるのですか?」
これ以上なにをいってもカインの気持ちは変わらなさそうなので、奇抜な行動の真を問うシャルティ。
「ーー俺には三つの属性奥義がある」
「は、はあ」
「お、おうぎ……!? わくわく」
カインのキリッとした顔から少年の設定のような言葉が飛び出す。
シャルティはまたか、と呆れ、
サージュは一度見たから興奮する。
「サージュには一度見せたな。あれは『覇我炎剣』つって火属性。今度の式典では雷属性の奥義を披露しようと思ってな」
「それで乾布摩擦ですか?」
「……パパ、それじゃ静電気を発生させるのが関の山だよ?」
「お、サージュちゃんは賢いなー! でもな? パパならすんごーい攻撃になるんだぞ!」
「どうして?」
「だってパパだから!」
「おお! パパすごい! むふーっ」
「なにこの茶番……」
カインとサージュが盛り上がり、シャルティは額を抑えながら確認する。
「ならさっきの"触れるな"というのは、溜めた電気が放電するからですか?」
「しょゆこと」
シャルティがカインと話しているとサージュが顔をカインの腰元にグリグリと押し付けてくる。
「……それならちゃんといってほしかった。傷ついた……」
「ごめんなサージュ」
「わ、私だって傷ついたんですからね!」
「悪かったって〜! ごめんな〜お詫びにシャルちゃんの大好きなほっぺスリスリしてあげるからな!」
カインはシャルティの顔に頬ずりする。
「痛い痛い! 好きじゃないし、もはやスリスリじゃなくてジョリジョリですから! ギャーっ」
「パパ、次はお顔むにむにしてね……?」
叫ぶ姉を横目にサージュはちゃっかりおねだりする。
「でへへ! シャルティもサージュを見習ったらどうだ。な〜サージュ。ほれほれ〜」
「……むふふ」
大好きなカインに頬をむにむにされて御満悦のサージュ。それを見てシャルティが抗議の声をあげる。
「差別です! これは姉妹差別です! 平等な愛情表現を希望します!」
「お? なんだか難しい言葉使ったな。頭もよくなってるみたいでお父さん嬉しいぞっ」
頭をこれでもかと撫でるカイン。
「もうっ、髪がぐちゃぐちゃになるじゃないですかっ」
「ならやめる……?」
「……もう少しだけなら、許してあげます」
「かーわいーなー!」
こうして親馬鹿が爆発するカインであった。
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