第二話
ーー時は少し遡る。
ある日、シャルティが家に帰ってくると上半身裸になったカインがいた。
……乾布摩擦をしながら。
「ちょ、ちょっとお父様!? なんでまだ明るいうちから裸になってるんですか? ま、まさか誰かを連れ込んだんじゃ……!」
シャルティが顔に両手をやりーーしかしちゃっかりと指は開いているーーカインを問い詰める。
顔を真っ赤に染めながら。
「ちょいちょい、落ち着けってシャルちゃん。この家に誰かを連れてくることはないって! これはただの乾布摩擦だから! 健康的だろ!」
「は…………??」
そう言われて改めて見ると、確かにカインは両手にタオルを持って背中を摩擦している。
ーー相変わらず素敵な体だな、なんて思っていない。シャルティは清純なのだ。
「た、たしかに見たところ乾布摩擦? のようですが、どうして急にそんなことを? 新しい日課ですか? どうせ三日で飽きますよ?」
「うえーん、シャルちゃんが辛辣ぅぅ」
また変なことをし始めたなと思いシャルティがカインを無視して部屋に行こうとすると、リビングの片隅で落ち込んだ様子の妹を見つける。
具体的には膝を抱え込んで俯いている。
「あらサージュ、どうしたの? なんか研究で行き詰まってるの?」
シャルティの問いかけにフルフルと首を振り、ボソッと呟いた。
「……パパに嫌われた……ぐすん」
「はあっ! ちょっとなにそれ! どういうことですかお父様!」
カインがサージュになにかしたのではないかと思い至り、返す踵で再び詰め寄る。
「あっ! 待ってシャルちゃん! それ誤解なんだよ! あと今の俺に触れないでッ!」
慌てたように両手を突き出しシャルティと距離を取るカイン。それがなんだかカンに触るシャルティ。眦を吊り上げ声を尖らせる。
「触れるなってなんですか! "俺に触れると火傷するぜ"とかですかっ。ダッサ! というかいつも私がお父様に触ってるみたいに言わないでください! お、お父様からベタベタと触ってくるのですからねっっ!」
「わ、わかった! わかったから! ごめんごめんッ! とにかくちょっと近寄らないで!」
「……なんですか、私たちのことが嫌いになったのですか? そうですよね、だって血の繋がりのない浅い関係なんですもの。情も薄れるでしょう」
シャルティが傷ついたような面持ちで目線を下げる。そのことに酷く胸を打たれたカインは叫び、
「ーー違うッ! んなわけねぇだろッ」
愛を確かめるために抱きしめるも、
「痛っ」
バチッと触れ合った肌から静電気が走る。
「……あ」
「へ……?」
呆ける二人。
「あー、やっちまったー。ま、しゃあねえな! ほれ、サージュもおいで。さっきはごめんな」
シャルティを抱きしめ、塞ぎ込んでいるもう一人の娘にも声をかける。
「……ほんと? きらいになってない……?」
「んなわけねぇだろ? ずっと大好きさ」
「うみゅ、パパっ」
サージュがとてとてと走って抱きついてくる。
「……あたっ」
またもやパチっと音が鳴る。先ほどよりかは軽い音だ。
「……またイチからだな、こりゃ」
上を向いて小さく呟くカイン。しかし抱きしめあっていた娘たちは聞き逃さなかった。
「「また??」」
その言葉で顔を下に向けるカイン。困ったような顔をしながらことの始まりを説明しだす。
「今度、戦勝式典があるだろ? それに向けた準備をしてたんだよ」
カインの言葉でシャルティとサージュの疑問は一致する。
「「戦勝式典でどうして乾布摩擦……?」」
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