第一話
「ーーーー覇斬轟雷・昇龍……!!」
天に向かって突き上げた一撃は、雷撃を帯びて曇天を切り裂かんと飛翔していく。
雷を纏った斬撃は龍の姿を形づくり、雲を、いや天を噛み切らんとする勢いで空へと昇る。
その場にいたみなが息を飲む。そしてーー、
天に蓋をしていた雲の悉くが消え失せた!
それを見届けてから英雄は高らかに宣言する。
「ーー俺がいる! これがその証だ!」
両手を広げ、万を超える群衆に語りかけるように優しく、されど誰も聞き逃さないよう芯のある声で。
「「「「うおおおお! カイン! カイン! カインっ!」」」」
堰を切ったように群衆は英雄の名を叫ぶ。そこには英雄が英雄たることを知っている世代から、何も知らぬ子供たちまで一様に興奮した様子で喉を鳴らす。
「"万の言葉よりも一の行動。それが真なる信用に繋がる"……か。もっと帝王学の授業聞いておくんだったな」
英雄ーーカインがそう独り言ちる。そして背後に聳える帝宮のバルコニーにてこの一幕を見ているであろう愛する娘たちに笑みを送る。
ーーお父さんカッコよかっただろう? と自慢気に。
さりとて、返ってくるは家族からの賞賛の声にあらず。
返ってきたのは……、
「なに帝都の大結界までぶっ壊してるんですか!? この親馬鹿っ!!」
戦友である帝国騎士団副団長のネックス・ヴァルダーンからのお怒りの声だった……。
そう言われてカインはふと上を見る。なにやら空が、厳密には中空にヒビが入っているではないか。
ヒビは徐々に広がっていき、最後はガラスが割れるような音をともなって砕け散って消えていった。
「……あ、わりぃ」
一言カインが漏らす。その声が聞こえていたはずもないのにネックスはさらに叫ぶ。
ーーこの場が戦勝記念式典であることを忘れているのだろう。さらには皇帝陛下以下皇族が列席していることも。
「悪いで済むと思ってるんですかッ!? 大結界の維持には貴重な"宝玉"がいるのに! あー! もうッ! この親馬鹿ッッ」
拡声器を使ったネックスの怒号は民にも伝わり、
「「「親馬鹿! 親馬鹿! 親馬鹿!」」」
英雄を礼賛する声から親馬鹿コールへと変じていく。
それを睥睨しながらカインは思う。先ほどまでの英雄を讃える声には"畏怖の念"が込められていたように感じる。しかし、今カインを中心に帝都で叫ばれている"親馬鹿への野次"にはどこか温かみすらある。
力こそ全てだと信じて生きてきたが、力だけではなし得ないこともあるとこの十年で嫌というほど理解した。
このからかいじみた野次も愛されているゆえと納得し、カインは白い歯を見せながら不敵に応じる。
「結界を壊したのは悪かったけどよ、これが俺よ! 親馬鹿でなにが悪い!」
「ひ、開き直りですか!?」
ネックスの驚いた顔を予想しながらはっはっはと笑っていると、拡声器を通じて愛する娘たちの声が聞こえてきた。
「お、お父様っ! 謝ってください! い、いまは式典中ですよ!?」とシャルティ。
「……パパ、悪いことしたら"ごめんなさい"でしょ?」とサージュ。
娘たちの非難の声にうっ、と詰まるカイン。首元に手をやりながら謝罪する。
「……ごめんなさい。やりすぎました」
カインと娘たちが織りなす会話に民は、都は、国は笑いに包まれる。
誰もが恐れる偉業をなしてもなお、カインを怖れる様子は見受けられない。
これは決めようとしても決められないうっかり親馬鹿覇王とその家族が繰り広げるドタバタ劇である。
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