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【2部完結!】親馬鹿奮闘記!〜最強親父、娘たちが可愛すぎて常識を蒸発させる〜  作者: 美貴
第一章 照れ屋なシャルティも我儘なサージュも可愛いぃぃ!
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「マスター、レイラです。カイン様を――」

「――邪魔するぜ、エルキュール」


 レイラが丁寧にドアをノックし入室の許可を取ろうとしているのを遮って、カインはまるでトイレに入るかのような気楽さで入っていく。


「はぁ、まったくこの人ったら……」


 額に手を当てながら呆れるレイラを横目に部屋に入ると、視界に飛び込んでくるは豪華なデスクの上で尻をこちらに向ける形で四つん這いになって待機しているエルキュールであった。それも上半身裸で。しかしその頓珍漢な姿にツッコミを入れることもせず、カインは革張りの上質なソファーに掛ける。


 座したのを確認してから、エルキュールは股の下から顔を覗かせて誘う。


「カインちゃん、今日こそはワタシに注いで頂戴! あなたの熱イ思いを! さあ、Come on!」


 カインの眼前にはおっさんの股。視界の端ではレイラが頭を抱えている。


「ズボン履いててよかったな。下も裸なら切り落としてたぞ……玉を」

「あらァ! コレ落としたら抱いてくれるのォ⁉ なら切るわ、今すぐ!」


 カインの言葉をポジティブに受け取るエルキュール。


「……ほんと変わったよな、お前も」


 そんな旧友を見てカインも思わず笑みを浮かべ――昔とは大違いだ、と思う。


 初めて出会ったのは八年前の「南部戦役」だった。〝彼女〟と別れ、まだ幼かったシャルティは心を開いてくれず、ある種の破滅願望に従ってカインは従軍していた。その時の一番大きな戦争が、南に位置する共和国との戦争――南部戦役だった。


 共和国との戦いは凄惨の一言に尽きる。国力では圧倒的に帝国が優位であったのに、南部特有の高温多湿という慣れない気候、山脈と森林に囲われた地形、大国故の慢心と小国故の必死さ。当初一月で終わると言われた戦争は、一年半にも及んでいた。


 そして帝国の後退により殿を務める部隊で、ともに戦ったのが当時S級になったばかりの冒険者――「計略」のエルキュールだった。当時の彼は頭脳戦に長け、策略を巡らせて大物の魔物を討伐するなど、高い期待を受けていたベテラン一歩手前のような存在。しかしその期待ゆえ人前では善人を気取り、争いも議論も好まず、己より他を優先していた。


 そんな彼にとっての転機が南部戦役で最も熾烈を極める戦いであり、今や伝説となっている「リクオーレ湿地の奇跡」である。拠点を放棄し撤退する本隊に時間的余裕を、追撃してくる敵には足止めを、という任務であったが、敵も好機と捉え総勢五万の兵を差し向けた。対してこちらはたったの八十人。まさに月とすっぽん。どうあがいても勝機は無かった。事実、カイン以外の隊員は敵にやられるぐらいならと、自死を選ぶほどに追い詰められていた。


 ――しかしカインは別である。


 刀は失ったとはいえ、〝彼女〟から預かった抜くことができない剣さえあれば危機を脱することはできる。だがそれでは部隊が壊滅してしまう。そこでカインは部隊の士気を高めるため鼓舞した。そして紆余曲折を経て八十人全員が任務を全うし、本国に帰還したのだ。


 死の間際まで足を進めたエルキュールは戦後偽りの姿を捨て、今のおもしろ変態野郎となった……と回想しているとエルキュールが口調を改めて告げる。


「……それを言うなら英雄カインもだろ。昔は抜き身の刃みたいな性格だったのに。誰が今のような親馬鹿になると予想できた?」

「親馬鹿……ね」

「けなしてるんじゃないよ。むしろ今の方がいいとも思う。ワタシの恩人が笑っているのを見るのは嬉しいし」

「昔のキレキレのカイン様も素敵でしたけどね」


 エルキュールの言い分にレイラも乗っかる。


「はぁ……なんか湿っぽくなっちゃったわねェ。で? 今回も昇格は断るのよね……?」


 哀愁の雰囲気を散らすためか、エルキュールは元のオネエ口調に戻り、仕事の話題に戻る。


「ああ。B級以上は指名依頼があるからな。Ⅽ級のままでいい。素材の売却金だが――」

「わかってるわよォ。半分は若手冒険者の支援金、残りのさらに半分は孤児院に、でしょ」

「――任せたぞ」

「任されたわァン」


 一しきり会話が済んだのを見計らって、カインは立ち上がる。


「アラ、もう帰っちゃうの? もう少しおしゃべりしましょ?」

「悪いがサージュを帝院まで向かいに行かなきゃならなくてな。レイラ、金はまた今度取りに来るよ」

「承知いたしました」

「ああーン! カインちゃん! せめて別れ際ぐらいハグしましょうよォ」

「しねぇよ、馬鹿」


 といいつつも笑みを浮かべながらカインは部屋を、冒険者ギルドを後にする。

 もう若手冒険者から揶揄されることも、酔った冒険者から舐めるような視線を受けることも無かった。

お読みいただき、ありがとうございます!


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