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 火の手は燃えていない所はないと謂わんばかりの勢いで、城を、玉座の間を、そしてこの国の歴史をも灰燼に帰そうと燃え盛っている。これほどの炎上であるならば、もはや敵も女王の首級は諦めたであろう、と炎の海に浮かぶ唯一まだ燃えていない玉座に座しながら、女王は優雅に足を組んで状況を読む。


 玉座の間には女王一人。


 ――十年。

 女王に仕え、護り、愛してくれた男はいない。


 女王は手に持った「刀」を愛おしい様子で見つめながら独り言ちる。


「…………私とあなたの物語は終わってしまったけれど、これからはあなたと娘の物語が始まるのよ。そう、まさにこれは『プロローグ』。遥か東方より流れてきた比類なき男の、娘を溺愛する物語の序章……。ふふふ、優しいあなたのことだから、きっと『親馬鹿』などと言われるのでしょうね」


 傍らの「刀」を撫でるエカテリーナ。


「――ふぅ。とはいえ、〈予知〉にはなかったこの状況、どうしたものかしら……?」


 そう、女王はこの玉座の間で死ぬ運命なのだ。的中率百パーセントの〈予知〉。


 何度も何度も何度も、状況を覆すために知略を尽くし、運否天賦すらも盤上に置いた。しかし先ほどまで、ついぞ運命は予知から脱却できなかった。


 ――あの言葉までは。


『――なら、姫さんのその首飾りも、娘にあげてやれ……』


 今までの予知では、彼はそんなことは言わなかった。刀を渡すのを渋り、いつものように口論となって娘が泣いて止める。そして激高した女王が彼らを未来に送って、天井が焼け落ちてきて死ぬ。


 だけどあの時、彼が首飾りについて助言をくれ、交わす言葉少なく、されど口づけは交わし、彼らを未来へと飛ばした。そして炎から逃れるために玉座に着いたとたん、天井が焼け落ちた。


 彼のあの一言で、覆せなかった〈予知〉をあっさりと覆したのだ!


 窮地には変わりないけれども、死の運命から逃れたら逃れたでやはり生きたいと強く思う。

 女王は己の変わらぬ我儘に微笑を浮かべ、玉座から立ち上がり鞘から刀を抜き去る。


 女王のもう一つの固有魔法――〈予知〉では、いずれ魔を極めし叛逆の徒が〈神〉へ至る。そうなってはこの世は終わりだ。だからカインたちを未来に送った。猶予は三百年。己の寿命を考えたらあと五十年といったところか。それまでに世界から魔を消し去る。


 本来はここで死んでいたのだ。三百年後の混沌と化した世界を護るには、至ったカインが必要不可欠。そもそもどうしてこの時代にいるのかが不思議だった。だからせめて娘だけでもつれて未来に送るつもりだった。送れるのはカインともう一人だけだったから。


 それが果たして、生き残ってしまった。


 いや、カインによって生かされたというべきか。いずれにしても、娘を泣かしてしまう母親失格の自分なのだ。せめて遠い未来で、カインとともに笑える世界を生きて欲しい。


 だから繋いだ命を懸けてでも、下地は整えておかなければならないだろう。それがせめてもの贖罪。愛する男と娘に涙を流させたのだ。


 魔力ぐらい、世界の一つや二つほど消し去ってみせようではないか。


「魔法を使って魔力は尽きてる。あたり一面は炎。城の外も国の中も敵だらけ。愛するあの人はいないし娘もいない……か。ふふっ、出会ったときはあの人が何とかしてくれたけど、これからは自分で切り開かないと! よろしくね、あの人の命より大事な『刀』さん」


 女王が決意新たに刀を握り、これからの相棒に言葉を投げかける。すると武器に意思などあるはずもないのに、女王の言葉に(いら)えるように――一瞬、紫電がチラついた。


 ――ここに、「予定調和」の運命から逃れた一人の美麗な女王が誕生した。


「ふふふふ。それじゃあ始めましょうか。これが私の『プロローグ』。未来のあなたたちに少しでも届きますように…………」


 その日、大陸西部に位置する愛と慈悲に満ちた千年王国は滅亡を迎えたが、その夜空には一筋の赤い流れ星が奔った――。



 ――了


お読みいただき、ありがとうございます!


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