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「ああ~……。死んだわぁ……。首から下の感覚がないしぃ。今日もカイン様にやられちゃったぁ♡」


 ――脅威が去り、帝都に戻ったカインはスコッティを抱いていた。


「ん? 首から上はまだ元気なの? よっしゃ! まだ夜明けまでには時間あるし、もう一戦!」

「やぁん! カイン様のケ・ダ・モ・ノ♡」

「でへへへへへ……!」


 ベッドの上で両手を広げて食べられるのを待つスコッティに覆いかぶさるカイン。

 そして睦言も終わり、精も魂も尽きて乱れたベッドで気絶しているスコッティを背に、カインはランプの灯りを目印に机の上でペンを取る――。


 ――あの後の話としては、なんとか納得してくれたヴォヴァンことヴォルフガング=ヴァンダーヴィッテは、優雅に深淵へと帰っていった。カインがこの時代まで生きている事の説明をすることを約束して……。


 シャルティの瞳も、慈愛剣を納刀したら元に戻ってしまい、さらには慈愛剣を抜くことができず、カインの手に戻ることとなった。


 サージュの魔法らしき現象も、あれから発現することは無かった。しかしその光を受けたシャルティ曰く、傷がみるみる治ったとのこと。おそらく回復魔法なんだろうが、魔石を持っていないサージュが、魔法に目覚めたことは未だによく分かっていない。


 虎王の攻撃をもろに受けてしまったリップルの嬢ちゃんは、全身の骨を折る重傷だったが、幸い内臓は無事であったため、貴族のコネをフル活用して治療に専念している。跡も残らないそうだから、シャルティとともに胸を撫でおろしている。


 シャルティの窮地に駆け付けたローラは、シャルティを置いて逃げたことがよっぽど堪えたのか、苦手な剣技の練習に邁進している。そしてなぜかよくシャルティと風呂に入っている。なにか卑猥なことでもしているのだろうか……。


 同じく娘を助けてくれたアンバーは、リップルの嬢ちゃんを助けたことで随分とリップルの両親に気に入られ、頻繁に食事に誘われているらしいが、毎回断っているそうだ。


 イゼルはヴォヴァンとの遭遇が衝撃だったのか、全精力を捧げて、世界中にある〝龍〟に関する文献を調査している。


 シェンナは魔圏でイケナイ世界の扉を開けてしまい、夜な夜な帝都を練り歩いているそうだ。カインおススメの店「縛り縛られ雨霰」に夢中になっていることから、大人の階段をバック走している様子。いずれはカインと語り合う日も近いだろう。


 騎士団副団長ネックスは、皇族としてあるまじき〝民への侵襲〟を行ったアロガンを捕縛したことで、貴族界からの要らぬ噂や批難が凄かったらしいが、毅然と己の正義を貫いている。


 そして今回の首謀者にして黒幕、第四皇子アロガンは魔物の躁術など怪しげな力を振るったことと、慈愛剣の裁きによって昏睡中。その被害者であるシャルティ及びカインには、皇帝自らの謝罪を受けた――書簡で。それを受け取ったカインが、使者の目の前で破り捨てたことは記憶に新しい。


 帝校の生徒も騎士団の隊員も、魔圏での一件で負傷者はあれど死者はいなかった。


 カインは旧友であるヴォヴァンとの期せずの再会を果たし、シャルティの危険も未然に防ぐことができた。サージュとともに旅もして、新たな一面も垣間見えた。


 ――まぁ今回は以前のような「嫌な予感」が無かったので、カインが赴かなくてもシャルティは自らの力で未来を切り開いていただろう。つまりはただのおせっかいだったのだ……。


 娘は成長し、カインも自身に絡みつくエカテリーナの願いに縛られ苦悩しつつも、過去と向き合いほんの僅かではあるが前を向いている。


 レイラやスコッティとは付かず離れず、爛れた肉体関係を結びながらもなんとか上手くやっている……と思う。エカテリーナを失った悲しみを癒すための女癖だが、よく考えたら昔からスケベだった気もする……。


 しかしそれは仕方がないのだ。体を重ねるということは、生命の営みとしてはごく自然なこと。男女の生命の円環によって種の存続を図る。それが人間。

 その自然的趨勢を犠牲にすることで力を得ることができるのだ。護るために敵を屠る。


 もう、誰かを失うのはゴメンだ。だから己の生きた証を残すことができなくなってでも、力を求めた。そのきっかけが魔圏での自家発電とは口が裂けても言えないが……。


 いずれにしても、献身的な彼女たちのためにも冒険者の仕事をこなし、元気食堂をよく利用しなければと決意を新たにする。


 いつ、誰を、失うか分からないのが人生だ。

 だから少しでも、自分に尽くしてくれる彼女たちを大事にするつもり――なのだが、そうするとシャルティの機嫌が悪くなる。そしてサージュに頼み、シャルティを宥めるための策を提供してもらう……といういつもの調子になってしまうのが、最近の悩みだ……。


 ――とカインは気が向いた時に記す、日記のようなものを書き締める。


 最初は、シャルティの好きな食べ物とか苦手なことを書いておく備忘録のようなものであった。それがサージュを育てることになってから、ミルクのあげ方や始めた立った時の感動などを記すものへと変わり、いつしかカインの心を吐露する日記調になっていた。


 日記を閉じ、ペンを置く。

 そして軽く身嗜みを整えスコッティの家を後にする。

 徹夜でありながら愛するシャルティとサージュのために朝食の準備をし、ともに食事をとり、家事に勤しむカイン。

 洗濯物を庭で干しながら、太陽を遮る流れる雲を見上げ独り言ちる。


「…………もう、あれから十年か。なぁカーチャ。シャルティは十六歳、立派な女性に成長したぞ。もう一人娘を育てることにもなってな、サージュっていうんだが、これまた賢い娘なんだ。――俺がこんなにも娘の為に右往左往している姿を見たら、お前は笑うだろうな……。けれどせめてあと二年。俺と出会った時のカーチャの年齢まではしっかりと育てきるからさ。見ていてくれよ」


 すると家の玄関口の方から声が聞こえる。


「お父様~! ちょっとサージュと買い物に行ってきますね……! お昼までには帰りますので!」

「ん! パパはお留守番! むふー!」


 それを聞いたカインは残りの洗濯物を籠に詰め込み、家に入る。


「俺も行くぞ……ッ! 可愛い娘が二人で買い物なんて、どんな危険が降りかかるか予想もできん……!」


 叫びながら玄関口まで走る。


「まったくもうっ! すぐに帰ってくるのに……。ほんっとお父様って親馬鹿ですね……!」


 シャルティが長い金髪を撫でつけながら、ジト目を向けてくる。しかしその仕草は嬉しい時のもので。


「……パパが親馬鹿なのか、親馬鹿がパパなのか……。すごく哲学的……興味深い」


 サージュが眼鏡のツルに手を当てているが、それは顔をむにむにして欲しい時の合図で。


「でへへへへ……! だって二人が可愛いんだもん……!」


 言いながら二人を抱きしめるカイン。


「もうっ! お父様の親馬鹿……っ‼」


 年頃ゆえ反発心を表出したような顔をつくるシャルティだがしかし、本音は嬉しくて、


「……親馬鹿のパパ、サージュ好き……!」


 愛する父に抱きしめられるのが純粋に嬉しいサージュは、科学では証明できない心のポカポカが心地よくて、


「親馬鹿上等じゃぁぁ! はっはっは! よっし! それじゃぁ買い物行くか……ッ‼」


 愛する者をこの手に抱ける幸せを身に染みて感じるカインは、二人の手を繋ぐ。

 もっとたくさん家族で思い出をつくって、あの日記に書き記したいとカインは強く願う。


 暖かな太陽がシャルティとサージュ、そしてカインを祝福するかのように降り注いでいる。

 ――雲はもう、流れ去っていた。

お読みいただき、ありがとうございます!


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