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 カインがいろいろ引き連れて、シャルティたちと期せずして合流を果たす。


 しかしなぜか不穏な空気に満ちている。ゆえにカインは、瞬時に状況を把握するよう努める。


 ――愛するシャルちゃん、腰が抜けたローラ、横たわるリップルの嬢ちゃん、頼みを聞いてくれたネックレス、夥しいほどの魔物の中に一際目立つ大きな魔物、そして――怪しげな雰囲気に身を包んだアロガン……。これほど分かりやすい状況もないな、とカインは一人理解する。


 そしてすぐさま反転。

 襲い来る黒龍と正面から対峙し、カインは上体を右に大きく捻り、軸足を右足から左足へと移行する。次いで左足の筋一本に至るまで捻転を加え、その爆発力を上半身と右足に蓄える。最後に、相手を射殺すような滅紫色の鋭利な瞳を黒龍に向け、それに続くようにさらに上体を捻り、音速に至った右足踵をヴォヴァンの鼻っ柱の叩きつける! ――所謂後ろ回し蹴りだ。


「――ちょっと停戦――ッだぁぁ……ッ!」


 ボゴォォンッッ‼ と、とても人が何かを蹴った音ではない轟音を伴うソレ。


「――ッぬぅわぁんと……!」


 流石の不意打ちに虚を突かれたヴォヴァンも、その突進を止める。


「はぁはぁ……! ちょっとタンマだ、友よ。俺の娘がピンチってる」

「むぅぅ、効いたわい……それに、友だとぉ……? 儂を友と呼んでいいのは――」


 見知らぬ人族に〝友〟と呼ばれ琴線に触れたヴォヴァンは、カインを噛み殺そうとその(あぎと)を広げ――滅紫色の真摯な瞳を見て想い留まる。


「ううむ……。やはり零にそっくりじゃ……。よかろう! 寛大な儂は待ってやろうぞ! 早う用事を済ませるがよい……!」

「……悪ぃな」


 理不尽の権化を鎮めたカインは背負った者たちをそっと降ろし、あまりに当然の出来事に反応すら起こせていない面々と向き合い――口を開く。


「呼ばれてないけど助けに来たぜ――シャルティ。結構ピンチだったろ……?」


 白い歯を輝かせながら、少し見ない間に凛々しくなった娘に声を掛ける。


「――お父様ぁ……!」


 緊張状態にあるはずなのに、思わず瞳を滲ませるシャルティ。しかし愛する娘に掛ける言葉はそれだけ。カインは視線を切り、他の者に話しかけていく。


「ローラも頑張ったみたいだな、ありがとう」

「――リップルの嬢ちゃんも、貴族なのに体張ってくれたんだな、凄いぞ」

「アンバーは……よく分からん……」

「ネックレスも、ちゃんと頼みを聞いてくれたみてぇだな――ありがとう。けどちょっとこの(クラス)の魔物はお前ぇには荷が重かったな……すまん」


 ――最後に瞳を狼狽えているアロガンに向ける。


「――そしてやっぱり、皇族はクズしかいねぇな。えぇ? アロガンよぉ」

「……えいゆうぅぅ……! ガインんんん……………ッ‼」


 奇怪な瞳をしたアロガンは歯を食いしばり、握りしめた掌から血を零す。


「ガインじゃねぇよ……カインだ……」


 と耳障りな感じを表に出しながら耳をほじる。


「最初から怪しいと思ってた。帝校でのシャルティに対する剣技も、魔物が帝都に襲来したタイミングも、シャルティが誘拐されたことも、それに伴うお前ぇの事後処理も――全部、不審な匂いがプンプンしてたぜ」

「――どうしてだッ! なぜ貴様がここにいるッ⁉ なぜ俺サマを疑っていたッ⁉ うまくやっていたはずなのに……ッ⁉ なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだぁぁぁぁぁぁ……ッ⁉」


 頭を掻きむしり、自分の頬すら爪で自傷しだすアロガン。

 不気味な様相に皆が言葉を失っている。


「……浅ぇんだよ。なにもかも――な。シャルティを押し倒したいのはわかる。可愛いからな。だがそのために搦手を使うのは弱者の論理。到底、国を治める一族のする事じゃねぇ。若手騎士を使ったり、第一皇女に疑惑を向けさせたり、お前ぇの成すことには恣意的な意図が見え隠れしてた。一生懸命に知恵を捻りだしたんだろうが、所詮、戦乱も戦争も知らねぇガキってことよ――経験豊富なおっさんを舐めんじゃねぇぞ……ッ‼」

「――――――――ッ――――――――‼ 勝ち誇った目を向けるんじャねェェェェッ! 虎王ッ! そのふざけた奴を殺せェェッ‼ 英雄といえども伝説の〝王〟級には敵うわけがない……ッ! そうさッ! 貴様が来たところで何も変わらねェ……! ハハッ! クハハハハハハハハハハッハッハッハアハハ――」


 アロガンが虎王に命令を下し、虎王がカインを喰い殺そうと怯えながらも四肢を踏ん張る。

 他方、カインは足元に転がっていた帝校の生徒に一律に支給される、お世辞にも質が良いとは言えない直剣を手に取る。


「GA……GAOOOォォォォォォォ――ッ⁉」


 虎王が跳躍すると同時に、カインは腰に佩いていた剣も抜く――二刀流。


「――――『四斬(しざん)()(けん)――夏の型・双刃――――()()蘇屠(そと)』……ッ」

「……………………GA………………?」


 一閃。


 高く跳躍する虎王に肉薄し、両手の剣を上から下へ斜めに交差するように斬りつける。その斬撃は虎王の体毛を裂き、肉を割り、骨まで断ち、魔物の体を四つに分割した。

 ドスゥン……! と大地に沈む虎王トライデントタイガー。

 須臾の交錯。刹那の交閃。伝説の魔物が一撃で屠られた。


「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は????」


 まるで幼子が眠りにつく時の読み物のような英雄譚の一コマ。

 アロガンが間抜けな顔で息を吐くのみ。

 誰も彼もが圧倒されている。そしてその場にポツリと、


「……に、二刀流……そ、双剣の覇王……ッ」


 誰が言ったかカインの二つ名。

 それは奇しくも、愛する主君より賜ったものと同じだった。


「……〝勝ち誇る〟? 一体いつ、俺がお前と同じ土俵に立ったんだ? 少し力を得ただけのガキと比べるんじゃねぇよ。俺は――『覇王』だぞ……ッ!」


 少し顎を上げて文字通りアロガンを見下すカイン。

 その視線に、ただ呻くことしかできない。


「――ックゥゥゥ……⁉」


 虎王は倒れ、世界最強の龍も睨みを利かしていることもあって己の〝生〟に強い執着を持つ魔圏の魔物たちが一斉に引いて行く。

 それを見送ったカインは、シャルティに背中を押す言の葉を投げる。


「――抜け、シャルティ。自分で決着(ケリ)をつけなさい」


 あれほど苦戦を強いられた虎王を一刀のもとに伏したカインを呆けて見ていたシャルティが、カインの言葉で奮い立つ。そしてアロガンと対峙し、再度、柄を握る。そして抜刀。


 その刀身は虹色の光を帯び、それを見た〝聖〟なるものは暖か味を感じ、〝邪〟なる者は危機感を覚える。


「――これが……お母様の……代々継承されてきた……っ」

「……ッ? なんだァ、その虹色に輝く剣は……ッ⁉ 見たことも聞いたことがねェ……!」

「――そいつは『慈愛剣ミール・タンドレッサ』。刀身から柄に至るまで、一つの(げい)(ひょう)から作られた神から受け賜りし儀礼剣。正しき者には癒しを、悪しき者には罰を与える剣だ」

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