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「――む……? また随分と懐かしい呼び名じゃ。零の奴はしっかりと子孫に伝えたようじゃのう……。うむ! 善き善き……っ‼」


 器用に腕を組み、コクコクと頷く黒龍。


「だからぁ! 俺が零だって! 相変わらず耳が遠い龍だな、オイッ⁉」


 三百年ぶりの邂逅。

 片や異界創生以前より生きている黒龍。

 片や人の身でありながら時空を超えし者。


 その腕に抱かれているサージュも、地に伏していたイゼルもシェンナも息を飲む。

 言葉を介し、天地をひっくり返し、世界の守護龍にして終末の破壊龍。

 その伝承はもはや絵物語となり、存在が否定されていた――が、


「おおん…………? 零の奴は人族ぞ? 数百年も生きられるはずがなかろうが! この儂を誑かす気かッ! 零の子孫よ……ッ⁉」

「いろいろあったんだよ! その話はまた今度だッ! つーかなんで〝深淵〟から出てきたんだよ……⁉」

「――なに。懐かしい魔力を感じたから寝起きの運動がてらにぷらっと来ただけじゃッ!」

「それだけで魔圏を抉ったのかよ……」


 あまりのスケールの大きさに、嘆息する事しかできないカイン。


「ちょうどよいわぁ! 零の子孫よ! 今どきの人族の力を儂に示すがよい! ぬぅん‼」

「だから俺が本人だって……ッ――!」


 カインの言い分などまるで訊かないヴォルフガング=ヴァンダーヴィッテことヴォヴァンは、豪快に振りかぶって右足の三本爪を振るう。ただそれだけなのに、三条の金色に輝く必殺の斬撃がカインたちを襲う!


「ばッ――! いきなり攻撃する奴があるか⁉ こちとら娘とお荷物二匹抱えてんだよ!」


 速やかにサージュを庇うように前に出て、ボグダン謹製の竜骨剣を引き抜く。魔法を発動。縦の爪撃に対し、横凪の飛ぶ斬撃で応じる。


「うッ……らァァァァ……ッ‼」


 カインの斬撃はヴォヴァンの爪撃と衝突。

 斬撃は刹那の均衡すらなく、爪撃を掻き消し相手に向かって行く。


「はっはァァ‼ ――やりおる……!」


 そのまま斬撃は黒龍の胸部に激突し、霧散した。


「――ッち! 相変わらずふざけた硬さだな……!」

「当たり前よぉ‼ 儂はこの世界の〈調停〉を司る龍! 何人たりとも! 如何なる魔物であっても! 儂の龍鱗には傷はつけられぬ! それが常識。それが世の真理!」

「……の割には、随分と俺が付けたその傷、似合ってるじゃねぇか。んん?」


 右手に持った竜骨剣を肩に担いで、ヴォヴァンの顔にある目立つ傷を煽るカイン。


「……そうじゃ。あり得ぬことを成し遂げた零こそ、儂の無二の親友にして『らいばる』! お主のような軽薄な男が子孫では、あやつもあの世で報われまい! 少し『仕置き』をしてやろう……!」


 言いながらその巨体をカインたち目掛けて突進してくヴォヴァン。


「……そう言ってくれるのは嬉しいけどな――その本人を前にして仕置きって、なんじゃそりゃぁぁ……ッ!」


 もはや聞く耳持たない黒龍に馬鹿正直に会話するのは面倒くさいと思い、柄を握る手に力を籠めるがしかし、後ろには愛する娘がいる。ここで大地を割るほどの戦いをするわけにはいかない――と瞬時に考えが至り納剣。


 シェンナを探した時のようにサージュを肩車し、感動のあまり涎を垂らしているイゼルを右肩に担ぎ、驚きすぎて気絶しかかっているシェンナを左脇に抱える。


「――悪ぃが旧交を温めるのはまた今度にしてくれ……!」


 そして脱兎のごとく黒龍から逃亡するカイン。


「……ッ! 儂を前にして逃げるとは、先祖があの世で泣いておるぞ……!」

「だからその先祖が俺なんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉ⁉」


 こうして三人を背負った人族代表カインと、人の話を全く効かないうっかり龍ヴォヴァンの、魔圏を破壊し尽くす勢いの過激な鬼ごっこが始まったのだった。





 駆ける駆ける駆ける!

 固有魔法〈覇道を征く者〉を発動したカインは駿馬よりも早く駆けるが、それよりも早く走るのが、なぜか二足歩行をしているヴォヴァン。


「……むぅ……! 流石に飛ばなければ追いつけなんだ……!」


 木々の間を縫うように駆け抜けるカインに対して、視界に入る凡てをその強靭な腕で薙ぎ払いつつ爆進するヴォヴァン。


「いつまで追いかけるんだよ……! しかも二足歩行で……⁉」

「人族ごときに翼を使ったら龍の名折れ! 足で十分じゃァ! 決してまだ飛び方を思い出していないわけではないぞぉ!」


 そのような珍妙な行動をとる黒龍に対し、


「竜がしゃべってる……あれが――龍……? うわぁ! はじめた見たぁ……!」

「ヒィッ! ……………………っは! ヒィ……ッ」

「龍ですと……? 竜ではなく? あの各国の古文書に記されている、守護するのか破壊するのか何がしたいのかよく分からない龍……?」


 サージュが年頃相応の笑顔と声で歓喜し、シェンナが気絶しては目を覚まし、そしてまた気絶を繰り返し、イゼルが己の知識と眼前の現象を照らし合わせる。


 一時間ほど駆けた頃、遠くの空に魔物が集結しているのを視界に納めたカインはある作戦を思いつく。つまり、


 ――黒龍をあの魔物の群れにぶつけたら逃げ切れるのではないか、と。


 しかしその思惑はあっさりと看破される。


「――なんて考えておるのじゃろう、知恵ある人間よ! ――――『黒覇(こっぱ)彌塵(みじん)』(」)……ッ‼」


 ヴォヴァンが天地を灰燼に帰す息吹を、遠方の空にばらまいた。

 その結果――暗雲の如く形を成していた魔物の群れが消失する。


「――くそッ! 頭がいいのか悪いのか分からねぇ奴だな! ホント……ッ!」

「ふははははは! 楽しいのぉ! さぁ! 死合おうではないか! 人の子よぉぉぉ!」


 作戦が頓挫したカインは、楽しくてはしゃいでいるサージュ、叫び声を上げるシェンナ、そのうち好奇心によって死んでしまうのでは、というほど好奇心を滾らせるイゼルとともに一際大きな大樹を蹴り飛ばしながら叫ぶ。


「――だあぁぁぁぁぁぁぁぁ‼ だからまた今度って言ってんだろうがぁ……ッ!」


 そして開けた空間に出る。

 勢いよく蹴り倒したゆえ中空に浮いたカインたちの下には、


「――お父様……? お父様……っ‼ サージュ‼」


 人間と魔物のオンパレード。なにやら知った顔も多くある。その中には、


「んんんんー……? おお‼ シャルティじゃねぇか……! 久しぶりだなぁ……ッ‼」


 久しぶりに見る愛する家族――シャルティの顔もあり思わず破顔するカイン。


 英雄が遅れて参上した!

お読みいただき、ありがとうございます!


この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や下の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると幸甚の至りです。


よろしくお願いします!!

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