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【2部完結!】親馬鹿奮闘記!〜最強親父、娘たちが可愛すぎて常識を蒸発させる〜  作者: 美貴
第五章 そこまで言われたら、パパ頑張っちゃうぞぉ!
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「…………海…………?」


 早速カインはサージュとお供二人を連れて魔圏を目指すべく西に進んでいた。

 ソクランを出発し早五日。あと少しで魔圏外縁に到達しようという地点で、サージュが眼前に広がる景色を見て疑問の声を漏らす。


「いやいやいやいや! サージュ君、それは違いますよぉ。これは帝国最大面積を誇る湖『クイーン湖』ですよ! 帝国内を移動する神出鬼没の湖! 遭遇することは稀で、その実態、棲息物、水質などなどなど! 未発見の宝庫! まさかまさか、このようなところでお目見えできるとは! カイン殿! 是非ともここで研究をさせて欲しいのですが⁉」


 サージュよりも瞳をキラキラと輝かせてイゼルが湖での休憩を所望するが、

「ダメだ」とカインに一蹴される。


「そそそそ、そんなぁ! 御無体ですぞカイン殿! 帝国の学徒、いや、知的探求心によって心臓の鼓動を賄っている我々研究者からすれば――」

「パパ……お願い?」


 翻って、カインの太もも辺りの服を小っちゃな両手で握りしめ、上目遣いで懇願するサージュに対しては、


「うむ! 許可しよう! 今日一日はここで存分に調査するといい! 出発は明日の午前にしよう‼」


 と、つい数瞬前の台詞を撤回し、あっさり快諾するカインであった。


「おおお! さすがサージュ君! カイン殿の操縦はお手の物ですな!」

「むふ~‼」


 なんてやりとりを経て旅路を一時休止して、湖で一泊することになった一行。

 そろそろ日も沈もうかという頃、深閑な湖にサージュの悲鳴が響き渡った。


「――――――――にゃびゃぁぁぁぁ!」

「――ッ! サージュ⁉」


 決して目を離していたわけではない。

 湖岸で優雅に寛ぎながらも、しっかりと浅瀬で研究に励む娘を視界の中心に据えていた。


 イゼルとシェンナなどどうでもいい。可愛い娘の熱心な姿に胸を打たれていただけ。

 それなのに、唐突にサージュは悲鳴を上げる。サージュの下へ速やかに駆け付けるカイン。


「大丈夫か、サージュ? 何があった……⁉」

「どどど、どうしたんですかぁぁ? 突然幼女らしき可愛らしい悲鳴が聞こえてきましたけどぉ……⁉」


 すぐにシェンナも駆け付ける。イゼルは〝我、関せず〟といった感じで没頭している。


「ふ……ふぎゅ――うわぁぁぁん‼ パパぁぁ! 足刺されたぁ! 痛いよぉぉ……っ」


 いつもは寡黙で理知的かつ冷静なサージュ。それが年頃の女の子のように大粒の涙をぽろぽろ零し、顔を歪めながらカインに抱き着いてくる。


「なん……だって?」


 もしやこれがシャルティの言っていた〝嫌な予感〟か?

 そう思いサージュを抱えて速やかに湖岸に避難する。そして足を見てみると、


「――これは、なにかに噛まれたのか……?」


 サージュの右足の甲に、小さな三つの斑点。

 それを横からおろおろしながら見ていたシェンナが、


「ああ! これは『湖蚱(こさく)』ですね。み、湖に棲息するクラゲですぅ。敵と認識すると針で刺してきますけれど、毒とかもないので大丈夫ですよぉ」


 と、それほど心配する事ではないと告げてくるが、可愛い娘の体を傷付けた者への怒りは収まらない。


「……んなよ」

「? カインさん……?」

「ふざっけんじゃねぇぞぉぉぉッッッ‼」

「ヒィッ……」


 カイン――ブチ切れる。


 横に控えていたシェンナはその威圧感に当てられ失神する。


「……俺の娘の……可愛くて賢くて空気が読めて眼鏡とローブが似合う、小っちゃいのに精一杯頑張ってるサージュの――宝石よりも価値がある玉体に傷を付けやがって……! 水棲のクラゲ風情が……ッ」

「……うう……パパぁぁ」

「おお、よしよし! 大丈夫だからな! パパが付いてるからな!」


 涙を流し続けるサージュを撫でて落ち着かせる。

 つい一月ほど前にシャルティに涙を流せてしまったばかりなのに……サージュまで泣かせてしまった。女を鳴かせずに娘を泣かすなんて一体俺は何をやっているんだ、とカインは強い罪悪感に苛まれる。


「サージュを泣かせた悪い奴は、パパがぶっ飛ばしてやるからな!」

「ふにゅぅ……パパぁ」


 サージュを優しく湖岸に寝かせる。

 カインは今回特別にボグダンに作らせた剣を抜く。


 曰く――竜の背骨を芯材とし、竜の血で鍛造した二十年ぶりの傑作。


 それを躊躇いなく鞘から抜き放つ。右手で逆さに持ち、左手を茎尻に添える。右足を引き、覇王の視線は水面を貫く。刹那、腰を落とし溜めをつくり――解放。


 右腰付近に構えていた柄を左側頭部まで一気に振り上げる。そのあまりに早い剣捌きは、空気摩擦によって鈍色の刀身に炎を宿す。それはそのまま斬撃にも宿り、高熱の飛ぶ斬撃が完成する!


「……太陽に焼かれて消えな――――『()()……(えん)(けん)』……ッ‼」


 カインから放たれた灼熱の斬撃は湖面を裂き、湖水を蒸発させ、湖底すら割り、対岸まで一筋の斬閃の橋を架ける。


 ――まさに絶技。カインが持つ属性奥義の一つ。それをあっさりと娘を害したクラゲに使う。


 これがカイン。

 これが親馬鹿。


「ぬわぁんですかなぁぁ……!」


 なんて大波に攫われるイゼルの声など聴こえない。

 ただカインにあるのはサージュの安寧のみ。


「――サージュ! もうクラゲはいないからな! パパが消してやった! だからもう泣くな。まだ痛むのか?」

「……ううん。もう痛くない。けど、さっきは痛かった……」

「よしよし。これから水場で調査する時はちゃんと準備して、注意しながらしないとな。これもまた勉強だ。部屋で本と睨めっこするのも大事だけどな、こうやって外で色んなことを〝体験〟するのも大事なんだ。これでまた一つ賢くなったな!」


 そう言ってサージュの頭を優しく撫でるカイン。


「……ん。今度は防護服を持ってくる……」


 そして調査を諦めていないサージュ。

 気絶したシェンナとイゼルをほったらかしにして、夕日を眺める二人。

 魔圏はもう目前に迫っている。

お読みいただき、ありがとうございます!


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よろしくお願いします!!

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