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大陸西部に位置する武と金に満ちた巨大国家――「アングリア=ナハト帝国」は首都、帝都アングリアに帰還したカイン一行。
行きずりに出会った人や立ち寄った村や街で討伐した竜の肉や鱗をばらまいて、もはや骨だけになった竜骸を巨大な袋に詰めて、カインは冒険者ギルドを目指す。
「――長旅お疲れさん。どうする? 先に家に帰っておくか?」
まるで小さな家といえるべき大きさのバッグを背負っておきながら、帝都の人びとは驚愕した様子を見せず、むしろ英雄が帰ってきたとばかりの熱い視線をカインに向けている。
その視線をさも当然と受けながら、疲れた様子を見せる娘たちを気遣って帰宅するように促すカイン。
「……そうします。流石に疲れました……今日はちょっとお食事作るのは勘弁していただきたいのですが」
「おう、もちろんだ。夜は『元気食堂』で食べよう。ちゃんと起こすから寝ておきな」
慣れない旅に加え、〝竜〟という化け物と対峙したことで疲労の色が濃いシャルティは家の方向へ足を向ける。
「サージュはどうする? 一緒にギルド行くか?」
「……『帝院』に行って少しだけ竜の素材を検分する」
「そうか。ならギルドで達成報告してから迎えに行くから、少しでも研究してな」
「ん。お願いする」
サージュはサージュで、シャルティとは反対側の方へ向かって行く。
サージュも疲れが溜まっているのだろう。目を擦りながら竜の素材が入った袋を引きずりながら帝院へ向かう。
カインはそんな娘たちを見送ってから、冒険者ギルドに向かいながら彼女たちが通う学校について考える。
帝国は三つの学校を有している。
まず『帝立師範堂』――通称、帝堂。帝国に住まう子供は六歳から帝堂に通う。
そして六年間の義務教育の後、武官を目指すものは『帝立騎士学校』――帝校へ。
研究者を目指すものは『帝立國學院』――帝院へ。それ以外の者たちはそのまま十八歳まで帝堂に残る。
帝堂は主に一般教養を教え諭す場であり、優秀であるならば飛び級も認められる。事実サージュはたった一年半で帝堂での六年分を修め、史上最年少で帝院に進学した天才児だ。
一方シャルティは無難に着実に進級し、今は帝校四回生。順調にいけばあと二年、十八歳で卒業し帝国の騎士団に入隊するだろう。
そしておそらくサージュは卒業後、帝国が誇る大陸随一の図書館――『帝国恵識廻廊』に入廊し研究を深めるような気がする。
放っておいたら食事もとらないほど研究が好きな娘だから――。
しかしだとすると、自分はいつまで冒険者を続けるのだろうかとカインは自問する。
もう四十の壁が見えている年だ。
魔力によって体は若く、精力も旺盛。魔圏に籠り希少種を狩れば一生分の金は稼ぐことができるだろう。
だがそうすると長期間家を空けることになるし、娘の成長を間近で見ることは叶わない。
なによりこの国を信用できない。
可能であるならば魔圏の遥か東、大陸東部のどこかの国で娘たちと平和に暮らしたいと思う。
と、そこまで考えると〝彼女〟の愛したこの国を捨てるのかといういつもの問いに戻る。
そして娘たちが卒業してから考えようと落ち着くのだ。
時折挨拶を投げかけてくる知己と他愛のない会話を交え、カインは思考の海に溺れながら冒険者ギルドに到着する。
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