5
走る。奔る。犇。
カインの固有魔法〈覇道を征く者〉は、その名の如く覇道を征くための奇跡の降臨。
覇者たる王が民草を率いるのなら、その聲に勇気が乗り、聲を聞いたものは無意識のリミッターを解除し無双の兵となる。
覇者たる王が千里の道を行くのなら、その脚は如何なる駿馬をも圧倒する。
覇道を妨げるものがいるのなら、たとえそれが〝星〟であったとしても断罪する。
しかしその代償に、カインの血は途絶えてしまう。一代限りの英傑の顕現。その名声も、その地位も、その権力も、次世代に継承することはできない。語り継がれ、名が残ることはあっても、血の繋がりがある家族を持つことは許されない。
母を失い、初恋の相手すらも失ったカインは、誰よりも「家族」を求めていた。それを犠牲にすることで得られる不世出の力。それでもシャルティとサージュという娘と過ごすうちに、「家族」にも様々な形があることを知った。
愛する娘の成長を見守る事の尊さも知った。だからこそ娘の危機は、全力で排除しなければならない。
――今、カインは帝都アングリアに向け爆走中。
城壁はもうすぐそこ。先ほどから嫌な予感をビシバシ感じ、焦りが募る。
そして城壁正面に到着し、跳躍!
一足飛びで冒険者ギルドの建物よりも高い城壁の上に立つ。
「――ッ! 敵か⁉ 何者……って〝英雄カイン〟……⁉」
城壁上で弩級や投石機の準備に追われていた騎士団員に驚かれる。平時なら握手をし、サインまでするが今は有事。有象無象の一切を無視し帝都を上から睥睨する。
「どこだ……ッ? 家、なわけねぇな! 人目のないところか? ――くそッ。広すぎる!」
カインの魔法によって視力と聴力が格段に向上していても、探し人の正確な所在までは分からない。魔法は有能であって〝万能〟ではない。ゆえにカインは血眼になって娘たちを探す。
「……嫌な予感は一つだけ。シャルティかサージュのどちらか。それとも二人が一緒にいるのか……? ああぁぁ、くそっ! 分からん!」
ギルドにいるはずの娘たち。それなのに危機が襲っている。何があった!
痺れを切らしたカインは大きく息を吸い込む。
彷彿するは竜の息吹。しかし吐き出すのは灰燼に帰す火炎にあらず。
叫ぶは――帝都を震えさすほどの〝威圧〟を込めた呼号。
「すぅぅぅ……っ! シャルティィィィ‼ サージュゥゥゥゥ……ッッ!」
竜の咆哮ならぬ覇王の怒号。
しかしどこか、迷子になった子供を探す親にも似ていた。
あまりに大きな声量、王者のみ有する威圧感に気圧されて、城壁にいた騎士団員たちは軒並み気絶していく。
そして、周囲の雑音が消え去り帝都から様々な声が聞こえてくる。
『見つけたか⁉ なんでもフォグガーデン家の私兵が西区をあたっているらしいぞ!』
『なら俺たちも行かないと! 冒険者たちが魔物と戦っているんだ! カイン様のご家族の安全を、僕たち職員が保証しなければ!』
『……お前、さっきの鬼みたいなギルドマスターにビビっただけだろ……』
『ふひひ。人通りが少ないからいくらでも露出できるぜぇぇ』
『……ねぇね……』
『あーあ。早くカレからプロポーズされないかなぁ……』
『西区北側見つかりません!』
『くそう! せっかく新しい武器の構想が練れたのにぃ! カインの娘をさらうなんて何考えていやがるんだい! おいらだって怒るぞ!』
『お嬢様! 不審な建築物を発見! 地下へ続く道もあります!』
『――探しなさぁイ! 魔物の襲来はカインちゃんたちが何とかしてくれるワァ! 何としてでもシャルティちゃんを探すのよォォ! 他人様の家でも地面の中でも、川の中も口の中も! ありとあらゆる所を捜索! 絶ェッ対にカインちゃんが帰ってくるまでにケリつけるわよォォォ! 死にたくはないでしょォォォ? Everbodyィィィィ……??』
『――よくやりましたわ! わたくしが出ます! 周囲に包囲網と、引き続き探索も行いなさい!』
『私も行きます! カイン様から託されたのですから……!』
無価値な声の中から、有意義な情報や聞き知った声が聞こえる。
「――この声、レイラ……! 西か……ッ‼」
すぐさまカインは駆ける。帝都を一周包囲している城壁の上を駆け、南から西側に向けて走る。すると騎士団とは異なる甲冑を身に纏った多くの兵を視認する。
――そしてその者らがある建物を取り囲んでいるのも。
「あそこか……‼」
城壁より跳躍。眼下の建物目掛け落ちていく。たしかに、強い違和感の気配が感じとれる。
そして件の屋根に着地し――そのまま落下。二階建ての屋根を突き破り、もう一枚床を突き抜け、そしてさらに地下へと続く地面すらもぶち抜く!
「なんですのぉぉ?」
「――シャルティ! 大丈夫っ?」
「今度はなんだ……⁉」
到達した地下の部屋には剣呑な空気に満ちていた。土煙によって正確な情報は入ってこないけれど、ここにシャルティがいるのは間違いない。そしてゆっくりと土煙が晴れ――、
「……お……とう、さま……?」
地面に横たわる縄で拘束された愛しの娘――シャルティがいた。
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