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同刻。
帝立騎士学校でも魔物襲来の一報は伝わっており、学生には動揺が走り教官たちは対応に追われていた。
「シャルシャルぅぅ。ひょっとして私たちも戦いに行くのかなぁ?」
シャルティとローラを含む全生徒は、各自帝校の教室で待機していた。
教官は学校としての対応をどうすべきか会議をしている為、不在にしている。
「んー、どうでしょうか。いくら私たちが騎士見習いとはいえまだ学生の身。私やローラは平民ですが学生の大多数は貴族の子弟ですからね。無闇矢鱈と危険に晒すような真似はしないと思います……推測ですが……」
「……だよねぇ。いきなり『戦え!』とか『帝都を守護せよ!』とか言われても、って感じぃ。じゃあこのまま解散して、しばらくは休校かな?」
「私たちの学年はまだ実践訓練をしていませんからね。ただ、最高学年は実践訓練の経験もありますし、騎士団への内定を受けている人もいると聞き及んでいます。ですので、そういう方々は騎士団への支援などはありそうですよね」
「ほえぇぇ……。やっぱりシャルシャルって頭いいよねぇ……! やっぱり今度の総合訓練、シャルシャルが指揮官をするべきだよー!」
「……いえ。平民の私が出しゃばると要らぬ嫉妬を買いますし軋轢も産むでしょう。ここはやはりアロガン様かフォグガーデン様が妥当ですよ」
「えぇ~……? 私、命令をされるならシャルシャルがいいよぉ!」
「ふふ。ありがとうございます、ローラ」
ただ待機するように言われた学生たちは、各々不安を覚えながら友人と会話をしたり黙々と勉強をするものなど様々。ローラもそんな不安を覚えた一人であり、シャルティと今後のことについて予想する。
そのような動揺に包まれた教室でしばらく待機していると、教官が会議から戻ってくる。
「――待たせたな。たった今、帝校としての対応が会議で決定したから通達する。質問は一通り聞いてからするように」
会議が困窮したのだろうか。随分と疲れた様子の教官に、シャルティは違和感を覚える。
「まず、今回の魔物襲来に対する帝校の対応は『騎士団の支援』である。これは学年関係なく、我々教官一同も同様に強制参加だ」
教室がざわめだす。まさか全学年、全教官までもが支援に駆り出されるとは……。
「つぎに支援の内容だが、これは騎士団と合流してから細部を詰めるが、諸君に出撃命令が下ることは無いので安心してほしい。今のところ迎撃態勢を執る騎士団への運搬支援や食料支援が決定している」
戦いの場に赴かないと知って、ざわめきが収まる。
「最後に期間だが、最低でも一週間は想定しておくように! 各自これより一度家に帰り家族に報告。数日分の着替えなどを纏めてから再度、帝校に集合。なお、その間家族との接触は認められない! これは訓練ではなく実践であることを肝に銘じておくように! ……質問を受け付けよう」
教官が示した内容を各自嚙み砕いていると、一人のドリルツインテールが挙手する。
「――教官、よろしいでしょうか?」
「フォグガーデンか。許可する」
「これから家族に報告するように――とのことでしたが、万が一その家族から家に留まるよう進言された場合はどうなるのでしょうか? つまり、この帝校の判断の強制力という点で」
シャルティもそれは考えていた。
平民は問答無用で参加しなければならないだろうが、フォグガーデンなどの高位貴族は帝国の宝ともいえる。ゆえに有事といえども、大事な子息・子女を騎士団の支援に行かせることを認めるだろうか?
家督を継ぐ予定の長男はもちろん、爵位を継げない次男や政略結婚のために利用される子女たちは、基本〝箔〟を付けるために帝校に通っている。
つまり、少しでも危険があり、騎士団の小間使いのために己の子供たちを利用するという帝校の決定に逆らう貴族が、一定数いる可能性があるのだ。
リップル・フォグガーデンの質問は要するに、家族に反対されたら参加しないけど、それに伴うペナルティはあるのか? という事に尽きる。
そんな彼女の質問に対し、教官が重苦しい口調で答える。
「……言ったはずだ。これは〝強制参加〟だと……! そしてこの決定には、皇族の御意思によるものだそうだ……ッ‼」
「――――ッ!」
――皇族の意思の介在。
これには質問をしたフォグガーデンのみならず、教室にいた学生全員が驚愕した。
もちろんシャルティも……。
「……承知いたしましたわ。我々貴族は須らく皇帝陛下の麾下。喜んで参加いたしますわ……ッ!」
滅多にない皇族の介入。
面倒くさいことに参加したくないという雰囲気を出していたフォグガーデン。しかし貴族ということもあり、苦虫を噛んだような顔をしながらも了承の旨を述べる。
「他に質問はないな? では二時間後にこの場所で集合するように! 以上、解散‼」
そう言い残して教官は教室から出ていく。そしてそれに連れ立つように学生たちも席を立つ。
直接参加しないとはいえ実践ということで、やる気に溢れる者もいれば、ただの腰掛程度で通っていた子女たちは不安な顔で群がっている者もいる。
「……シャ……シャルティ、さん。こ、この戦いが終わったら――」
「――行こ? シャルシャル」
「はい」
なにか話しかけられた気もするが、シャルティは然程気にした様子もなくローラとともに教室を出る。
「ああ、また僕の存在が認識されなかったぁぁ……」
というアンバーの嘆きを遠くに聞きながら。
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