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帝都アングリアの中心に天高く聳える帝宮――「帝夜城」の一室。
皇族としての品と格をこれでもかと主張するような調度品に囲まれながら、第四皇子アロガンは己の位人臣を極めた者たちを前に策謀を伝えていた。
「――というわけだ。そうすればシャルティは俺サマの肉奴隷に、そして英雄なんてふざけた名で呼ばれるカインの心も折れるって寸法よォ」
「なんと先まで見通す御力か……ッ! まさに殿下こそ、次期皇帝になられる御方……!」
「……言葉もありません」
いつもの如く、サイモンがアロガンを過度に持ち上げ、コチョウは無難に応じておく。
「だいたいカインの奴が冒険者等級を上げていれば、こんな面倒くさいことをしなくても良かったんだがなァ」
B級冒険者以上は依頼人による指名を受けることができる。
逆にその等級未満では、依頼主がたとえ皇族であっても依頼はできない。ゆえに遠回しな計画が必要であった。
ここ数年アロガンの頭にあるのはシャルティを如何に凌辱するかということと、皇族を差し置いて〝英雄〟と尊敬の眼差しを一手に引き受けるカインの破滅のみ。
武で圧倒し純潔を散らしても良いのだが、そうするとカインが出張ってくるのは間違いない。カインが上級冒険者であれば、過酷かつ遠方まで赴かなければならない依頼を押し付け、その間にシャルティを手中に収めることができた。
しかしカインには指名依頼をできないし、仮に地方へ行く事があっても必ずと言っていいほど娘を同伴させる。
さらにシャルティはその美貌と英雄の娘ということもあり、帝都での知名度は高い。そういう事情もあって人目がある登下校中に拉致誘拐という手段は取りづらい。
皇位継承順位が第四位とはいえ、その地位にある以上最低限の行政行事への義務があるアロガン。それは退役騎士への表敬訪問や、他国の大使のもてなしなどである。
ゆえにアロガンはシャルティをモノにするために、二年という歳月をかけた。
帝国では手に入らない薬物の入手。闇ギルドにすら登録していない不法者を集め、拉致したシャルティの身柄を拘束しておく拠点の確保及び偽装行為。
……魔物を操る術すらも。
入念な計画には一分の隙も無い。
ついに、シャルティの柔肌を蹂躙する時が来たのだ。
「ふっふっふ! いかんなァ。早くも下半身が昂っちまう。サイモン、今宵は下賤な平民を使う。すぐに用意しろ」
「――はッ!」
アロガンは、もはや大願は成就したといわんばかりの顔で夜の相手を所望する。
「コチョウ。この計画はすべてお前の動きにかかっている。分かっているよなァ?」
「……もちろんでございます。そのために二年間も彼女とパイプを保ち続けていたのですから」
そう。
この計画の最大にして最初、最難関の点を任されているのがコチョウである。アロガンがシャルティに干渉し、サイモンが恫喝、そしてコチョウが心理的補佐をしてきた。
事実シャルティはコチョウと会話をする機会が多く、敵対視はされていない。ゆえにコチョウから誘引することで、アロガンの計画は実を結ぶ。
「ああァァ、シャルティィィ……。早くお前の金色に輝く髪を引きちぎり、服を破り捨て、肉の味を教えてくれェ……。そしてその姿を目にしたカインは、一体どのような慟哭を見せるのだろうなァ……ッ!」
アロガンは口の端から涎を垂らし、半ば白目を剥きながら妄想に耽る。
そしてその姿を、どこか臣下には似つかない怜悧な瞳で貫いているコチョウ。
この世界で数少ないカインの宝に、危機が迫っていた……。
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