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「いやぁ食った食った!」
あれからサージュの検証も短時間で済み、カインは娘たちを連れて元気食堂へ向かった。
そしていつもの如く、シャルティはスコッティに牙を剥き、サージュはルビーと何か話し、カインはガッツと強いハグを交わす。
今日は寝落ちしていないサージュと手を繋ぎながら、カインたちは帰路をのんびりと歩く。
「そういえばお父様? どうして今日は急に私たちに会いたくなったのですか? 依頼を失敗したと聞きましたが……」
「――ん。あたしも気になってた。パパが失敗するほどの依頼って何?」
左を歩くシャルティと、右には手を握っているサージュから質問を受けるカイン。
「んー? まぁ……あれだ。依頼は屋根の修理だったんだよ。だけど依頼者と長話をし過ぎてな、時間までに終われなくて……。だから今日の依頼は失敗、また後日ってな」
「屋根の?」
「……修理……?」
シャルティとサージュが頭を捻る。すなわち、それは冒険者の仕事なのか? というものとなぜ長話を? という疑問によって。
そんな二人をよそに、カインはキュイソンの婆さんとの会話を思い出す。
『そういえばシャルティちゃんはもうすぐ卒業だったかね?』
『まだ二年残ってるよ』
『たった二年じゃないか! 女の成長は早いんだよ! ちゃんと見てやらなきゃダメだよ!』
『わあってるって! 最近化粧にも興味あるみたいだしな。子供から大人になる途中って感じだ』
『かぁー! まったくこれだから男親はぁ! いいかい? 女はね、徐々に大人になるものじゃないんだよ。あるとき急に大人になるんだ。それは恋であったり出会いであったり様々だけどね。だからシャルティちゃんもサージュちゃんも、いずれ急に大人に変貌するときがくる! 親はそれを見逃しちゃぁダメだ! 分かったかい!』
『な、ならシャルティはだれか好きな男でもできたのか! ま、まさか告白でもされたとか……ッ? サージュもなぜかおっさんに人気あるし! ……不安だぁ』
『子は親から巣立つものさね。あんたもそうだろ? 遥か遠い東から来たって風の噂で聞いたよ』
『……まぁ……な』
『だからまだ子供のうちだけでも、溢れんばかりの愛情を注いでやるんだよ。たとえ親馬鹿といわれてウザがられてもね』
『婆さん……! 流石、伊達に歳食ってねぇな!』
『大きなお世話だよ! 若造が……っ!』
……他人に触発されたとはいえ無性に娘が心配になったカインは、いてもたってもいられず婆さんにまた後日屋根を直す約束をしてから、帝校そして帝院に向かったのだ。
恥ずかしくて本人たちには話せないが……。
「なんか唐突にシャルティとサージュに会いたくなったから会いに行った! 反省も悔いもない!」
「潔いのはいいのですが、この年になって親のお迎えは恥ずかしいのでやめてもらってもいいですか……?」
カインのせいでまた恥ずかしい思いをしたじゃないか、みたいな意図を感じさせるジト目をするシャルティ。
「そ、そんなこと言わないでよシャルちゃぁん……ッ!」
「それよりパパ、今度からはおやつを持ってきて。今日は忘れたでしょ?」
「え? 毎回買わなきゃダメなの? 太るよ? というか晩御飯食べられなくなるでしょ!」
「ぶー……」
シャルティに便乗しておやつの献上を申し込むも、あっさりと論破され不貞腐れるサージュ。
まるで本当の家族のように和気藹々と家に帰るカインの姿からは、
――〝覇王〟という印象は欠片もなかった。
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