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「――で? こいつを切ればいいのか?」
あのあと、落ち着いたシャルティとカインを連れてサージュは知恵の塔を後にし、そのまま理系の園の研究室に来ていた。
「ん。でも内側は高温だから気を付けて」
「はいよ、――ッと!」
サージュの忠告もそこそこに、カインは研究室の備品である刃渡りが長いナイフを振りかぶり、火炎袋を袈裟切りにする。シェンナやサージュがいろいろ策を講じても切れなかった火炎袋が、それこそ本当の革袋のように切り開かれる。
「おお……! さすがパパ!」
「ふっふっふ! だろぉ?」
サージュの感嘆の声に対して、カインは両手を腰に当てて胸を張る。
「それじゃあ、さっそく計測するけどパパたちはどうする? 少し時間がかかる……」
塔を後にするときに聞いたが、どうやらカインとシャルティが帝院にまで迎えに来たのは、単純に依頼を失敗したカインが寂しくなって娘たちに会いたくなったからだという。
だからもし遅くなるのであれば、今日は外食にしてもいいとのこと。
「手伝えることはあるのか……?」
「…………ない」
「ならここでシャルティと見学してるよ。焦らなくてもいいから、存分に研究しなさい」
「ん!」
ありがたい父の理解で、研究に没頭するサージュ。なにかカインとシャルティが話しているが、目の前の現象に興味が惹かれるため気にしないことにしたサージュだった。
「……サージュにはまだ……話さないのですか? 八歳とは言え賢い娘だから理解してくれると思いますけど……」
金属製の仰々しい机の上に置いた竜の火炎袋に、なにやら棒やレンズを翳して紙に記入している妹を見つめながら、シャルティはカインに先ほどのことについて訊く。
「まだこの国のことを理解しきったとは言えないしなぁ。俺たちのいた時代とは違う所も多すぎる。なにより、俺たちの事情にサージュは全く関係ない。あの娘には好きなことを好きなだけさせてやりたいのさ。それに見て見ろよ、あんなに楽しそうに研究してるサージュを。熱中するものがあるのに、急に俺たちは〝過去〟から来た人間です、って言われても混乱させちまうだけだろ……」
「でも、家族に嘘をつくのは……」
「――噓じゃねぇさ。時が来たなら必ず話す。血の繋がりがなくとも、俺たちは家族なんだから」
「……分かりました。では〝魔法〟のこともまだ……?」
「ああ。この時代の人間は魔法が使えないからな――俺たちの時代と違って。徒に情報を与えても戸惑うだけさ」
「私も魔法が使えませんしね……。たしかに不正確な情報は混乱の元ですもんね」
「そゆこと」
そうやって今後の方針を定めた二人は、サージュの研究風景を眺めていた。
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