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零前、或いは零後 4

これにて第二部はひとまずの完結です!

ここまでご愛読いただきありがとうございました♪

 雷そのものが斬撃となった一撃が、魔圏中枢の一角を剔抉する。


「……いやいや。もう俺いらないっすよね……」


 眼前の光景に頬をピクピクと鳴動させて、ポツリと吐くセルヴァ。傍ではアンジュが口をあんぐりと開けている。


 カインと変わらぬ現象を引き起こした張本人は、ゆったりとした動きで黒刀を鞘に納めていく。


 チン、と小気味良い音が鳴る。


 ーー死屍累々の真ん中で。


「『白頭(はくとう)小狐(こぎつね)』ーーカインの命より大事な刀。まさかこれほどとはね」

「黒い刀なのに『白頭』ってところが兄貴らしいっすね」

「それに小狐、なんて可愛らしい名前の割にエゲツナイ威力ですっ。皮肉たっぷりです! 燃えてきますね!」


 セルヴァとアンジュの感想を聞いて片笑いながら、鞘を一撫でする。


「……真名は違うのだけれどね」


 カインすら教えてくれなかった真なる名。


 しかし女王はその名を、刀から聞いていた。


 呟きにも似たか細い声は魔力に満ちた空気に溶け、一行はさらなる奥へ向かう。


 すると開けた空間に出る。


 薄暗い魔圏とは似ても似つかない、清浄な気配に包まれた空間。しかし広場の真ん中には禍々しい門が鎮座しているのが見て取れる。


 そしてそこを守護するように、ある()()がある。


「……マジか。兄貴の言葉は本当だったんだ……!」

「な、なんて存在感!?」


 その存在に気押された二人。


 だが女王はさして気にした様子を見せず、すたすたと歩いて近寄る。


 だが突如、その歩みは()()の声によって止められる。



「ーーーー何用じゃ」



 それは龍であった。


 全身に闇を纏った威圧の権化。


 たった一言でセルヴァとアンジュは地に伏せさせられる。


 だが女王だけは立ったまま、龍に問いかける。


「……人を未来に跳ばし、大地を枯らし、大海を引き上げてもなお、世界は魔力に満ちているわ。では一体どうすれば、この世界から魔力は消えるのでしょうね?」

「質問を質問で返すとは……"まなあ"がなっとらんな、小娘」

「あら、驚いたわ。万象悉くあなたの前では有象無象と成り下がるのに、わたくしを"小娘"と、一個体として認識してくれるのね」


 女王の言葉によって、龍は鎌首をもたげる。


 言葉通りに、眼前の存在は無視できないものであったからだーーお互いに。


「危うい気配を感じる。貴様で二人目じゃな」


 龍の言葉で確信を得て、笑みを深める女王。


「ふふ、〈調停〉を司るあなたにそう思われるということは、わたくしも()()()のかしら?」

「ほざけ、小娘が。人が至ることはあり得ぬーー」

「たった一人を除いては、かしら」

「……然り」


 この場にいる皆の頭の中には共通の人物が浮かんでいることだろう。強く、しかしよく鼻の下を伸ばしている黒髪の男の姿が。


 女王がその人物と近い人間であることは知っているのだろう。ゆえに妙な詮索をせず、再度龍は問うてくる。


「……ここまで辿り着いた褒美にもう一度だけ聞いてやろう。何用じゃーーーーこの"門"に」


 龍がゆっくりとその巨体を起き上がらせる。


 地に臥したセルヴァとアンジュは一言も発することができない。存在としての、文字通り格の違いによって身動き一つ取れない。


 そのような威圧の瀑布の中、女王は毅然と述べる。


「時間軸は過去から未来への一方通行。それは真理であり普遍の事実。〈調停〉のあなたが出張る必要すらない世界の法」


 女王は愛する者たちの顔を思い浮かべながら告げる。


「であれば、()()に手を伸ばせばどうかしら?」

「…………」


 〈調停〉が片眉を上げる。それだけで十分だった。


「真理を、事実を、法を捻じ曲げるわ。世界全ての魔力を賭して」

「それを儂が見過ごすとは思っとらんじゃろうな?」

「ええ、だからこそここに来たのよーー"浄界"へ行くためにね」


 その言葉を聞くのは初めてだったのだろう。セルヴァとアンジュは戸惑いの表情を見せる。


 しかしそれを意に介さず、女王の決意の演説は続く。


「浄界から分け放たれしこの異界。魔が蔓延るこの世界をあなたが監視しているとはいえ、所詮は理想郷の失敗作。だからこそ、わたくしは浄界へ向かいこの世界と切り離すわ」

「……確かに、世界が完全に別たれたのならば儂はなにもいうまい。だが貴様たちの実力では浄界を生き抜くことは叶わぬぞ」


 龍の顔を見上げ、女王は腰に佩いた刀の柄に手を置く。


「至れば良いのでしょう? 浄界から生還した、かの英雄のように」

「……その過程で多くのものを失うことになろうともか」

「すでに最愛の人たちと別離したわーー今更ね」

「そうか。であれば世界を渡るに足る力があるか、儂に見せてみよ!」


 そうして龍は魔力を迸り、女王たちへ試練を課す。ゆえに伏しているものたちに発破をかけ、奮い立たせる。


「ほら、いつまで寝てるのよ。あなたたちだって()()と別れたでしょう? 未来で幸せに生きてもらうために、今できることはなに?」


 女王の言葉で震える体に鞭を打ち、ゆっくりと立ち上がる二人。その目には決意と覚悟が宿っている。


「……大事な時に遅刻した俺は父親失格っすからね。せめて世界だけでも整えとかねえと」


 セルヴァが剣を構える。


「我が子と共に時間を過ごすことができなかったのです。その罪を背負い、未来に希望を残すためにも、ここで立ち止まるわけにはいきません! 母親ですので!」


 アンジュが聖女の力を滲ませる。


 奮起した二人を背後に抱え、女王は刀を抜き去り、長い髪をファサッと掻き分ける。


「そういうわけだから、さっさと通させてもらうわね。やるべきこともやらなければならないことも多いから」


 女王の言葉に応えるように、龍もまたその牙を見せながら問う。


「その意気やよし! 名を聞いておこうか、小娘よ」


 そういえば名乗っていなかったわね、とポツリと呟く。足を開き、腰を落とし、切先を龍に向ける。


 愛する男に教わった構えだ。


 深く息を吸い込み、女王はこれ以上ない笑顔を投げる。



「エカテリーナよーーーーーーはじめまして」



 こうして激突する〈調停〉と『奔放姫』。


 さらには『守護騎士』と『慈愛の聖女』まで巻き込んで、世界の行く末に影響を及ぼすほどの戦いが誰にも知られることなく起きた。


 その結末は、当事者にしか分からない……。

お読みいただき、ありがとうございます!


この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や下の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると幸甚の至りです。


よろしくお願いします!!

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