零前、或いは零後 2
「ーーーー『獅子孔』ッ!」
獅子を模った斬撃と魔力の塊が敵を食い破っていく。
それを満足そうに見つめる若い男。口角を上げた口元には歯抜けが目立つ。
「……派手な技の割には威力が弱いわね」
戦闘を後ろで見ていた美女が、豊満な胸を支えるように腕を組みながら文句をつける。
それを不服そうに男が反論する。
「そりゃあねえっすよ、女王サマ。あんたの基準は兄貴だろ? 誰だって敵わねぇさ」
「そうですよ! カイン様がおかしいだけで、セルヴァだって十分に世界最高峰の実力者なのです!」
「へへっ、ありがとよアンジュ」
照れくさそうに鼻を擦るセルヴァ。そんな彼に寄り添い甲斐甲斐しい様子のアンジュ。
二人を見て女王は空を仰ぎ見、ポツリと一言。
「あ〜、カインとシャルティに会いたくなったわ……」
その呟きは空に溶け、一行は旅路を続ける。
「ーーそういえばセルヴァ。あなた神殿の棺になにかしてたわよね?」
次々に襲いかかる敵を屠りながら雑談に興じる。ふと気になることがあり、女王がセルヴァに問いかけた。
「あ、それわたしも気になってました! 神殿を沈める前ですよね?」
アンジュも話題に乗ってきた。それを悪戯心を滲ませたセルヴァが含み笑いをしながら答える。
「いやなに、ちょっとな。兄貴に向けてメッセージを送ったんす」
「カイン様にですか? 『今度は手前えの前歯を折ってやる』とかですか?」
「そんな瞳をキラキラさせるようなことじゃねえよ……」
「そうですか……」
脳筋のアンジュの期待とは異なる内容で、見るからにしょんぼりする聖女様。そんな彼女を笑いながら見ていた女王が詳しく訊く。
「あら、そんな羨ましいことをしていたのね。なんて書いたのかしら?」
「それは女王サマにも言えないっす! これは男の約束なんで!」
「ふーん、妬けるわね」
そうして話していると、セルヴァが疑問を口にする。
「というかそもそもなんすけど、どーして神殿を海に沈めたんすか? 頑張ってピラミッド建ててもらったのに……」
「そもそもすぎますよセルヴァ」
「そうね。話を聞いていなかったことがバレバレね」
二人から鋭い目を向けられ、ウッ、と後ずさるセルヴァ。
「良いですか? あのままわたしたちが居座れば、更なる闘争の震源となりかねません。ゆえに大地を枯らし、神殿を海に沈めたのです!」
「そして私たちは東へ消えたと噂を流布した」
「でもそれは噂じゃないっすよね? 事実俺らは東に向かってるんだし」
「ええ。でも普通は東と聞くと"大陸の東"を思い浮かべるはず。しかし私たちが向かっているのはーー」
「あ、魔圏だ!」
セルヴァの口から出た言葉は正しかった。正解を導き出した生徒を讃える教師のような表情で一度頷く女王。
「そう、それも中枢。東であることには間違いないけれどね」
ふふ、と笑みを深める。するとこれまでとは一線を画す巨躯の魔物が一行の行く先に現れる。
「さ、また新しい敵が来たわよ。カインなら一太刀で屠れる程度の魔物ね。あなたはどうかしら? 聖女の……なんだったかしら?」
女王の露骨な煽りに犬歯を見せるほど獰猛な笑みで答えるセルヴァ。
「へへっ、俺は"双剣の覇王カイン"の弟分で、"慈愛の聖女アンジュ"の守護騎士ーーセルヴァっす!!」
そうして魔圏の魔物たちに向かって切り込んでいく。
その姿を視界に収めながら女王は傍で心配そうに見つめていたアンジュにある提案をする。
「ねえ、あなたの守護騎士を纏める存在についてなのだけれどーー」
こうして歴史から消された者たちは人知れず、魔圏の奥深くへと足を踏み入れていく。
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