第十話
これにて第六章は終わりです!
終章『なんだかんだで大団円』もよろしくお願いします!
みなさまよいお年をお迎えくださいね♪
眼前に広がる光景に、開いた口が塞がらない。
突如、海面が盛り上がり雷の獅子が飛び出したかと思うと、次の瞬間には大きな水柱が立った。
驚きそのままに今度は人の叫び声が空から聞こえ、人が打ち上がったのだと理解した。
だが頭が動いていたのはそこまで。
水柱が消えてからは、海面が爆発し、超巨大な海竜が鎌首をもたげたではないか。
それから人影らしき六つの影が海竜に何かをした。かと思えば、虹の柱が天を突き刺した。
その虹柱は世界を両断し、絶海諸共海竜を一太刀のもと切り伏せた。
落ちてくる影を単眼鏡で見ていたコチョウは、全てを悟る。
ーーこの異常な現象の原因はあの英雄だと。
ーーもはや人ならざる偉業を成す男にこれ以上手を出して良いのかと。
だがたちまちにコチョウは頭を振る。己が敬愛し、忠誠を誓う主君ーーアディがそれを望んでいるのだ。ただ命じられたことをするのみ。
そう己に言い聞かせていると、傍で同様に一部始終を見ていた男に声をかけられる。路地裏で密会していた男だ。
「ーー随分とホッとされた顔をされていますね。英雄の一行にお知り合いでも……?」
その言葉がヤケに胸に突き刺さった。
ーー安堵……シャルティさんが無事だったから?
コチョウにとってシャルティは友でもなんでもない。
ただ仮初の主であったアロガンが執着していただけ。
ただ真なる主がカインを手中に収めるための布石なだけ。
しかしやはり、偽りとはいえ共に語り合った日々は肩肘張らずに過ごせたものでもあった。
だから誘拐事件の時にはシャルティに手を出さないよう闇ギルドにキツく言いつけていた。それは生来の優しさなのかもしれない。
だから偽りなくコチョウは男に答える。
「ええ、少し……おままごとをした知り合いがね」
そう。あれは児戯に等しい泡沫の時間。思い出は思い出のままに。いまはアディの忠臣として生き、動くだけ。
そこに私情は必要ない。
「……? そうですか。しかしまさか海竜王まで出てくるとは。海底神殿から生きて脱出し、海の王者すらも倒すとわかっていたのですか? ーー妖艶の君様は」
単眼鏡を畳みながら男が問う。それに倣うように単眼鏡を直しながら答えるコチョウ。
「どうかしら。元々はカインに海竜を退治させるつもりだったから、おそらく英雄の介入は想定していたと思いますが……まさかその英雄が海底神殿に行くーーいや行けるとは想像もしていなかったかと。ましてや海竜王。ただの偶然だと思いますわよ」
コチョウの言葉を受けて、顎を摩る男。なにか探る様子で更なる問いかけをしてくる。
「偶然……ですか。そういえば、なんでも第四皇子は魔物を操る術をお持ちだったとか。実は海竜王を嗾けたのも第一皇女なのでは……?」
「それは、私の主も外法に手を染めているのでは……という嘲りですか?」
「やだなあ。そんなに怖い顔で睨まないでください。そんなこと言ってませんよ」
「そういう含みを持たせていたではありませんか」
いやいや、と糾弾をのらりくらりと狸のように躱わす男。次の言葉が本命だった。
「ーー皇帝陛下がもしそのような力を得ていたのなら、皇族の方にもそういった力が受け継がれていても不思議ではないなあと思いましてね」
「……そのようなことは聞いたこともないですわ」
コチョウの発言には僅かな間があった。それが蟻の一穴となる。
「ほう、アディ様の側近ですら知っているのですか。となればやはり噂は本物ーー皇帝が魔物と交わったという噂は」
「…………」
「沈黙は金、多弁は銀と申しますが、これほど沈黙が裏目にでることも珍しいですね」
己の情報に確信を得たことで満足気な男。コチョウはこの男の腹芸には勝てないと悟る。まるで主を前にしているかのような老獪さを覚える。
「これ以上は不敬罪になりますわよ」
「おっと失礼いたしました。しかしそれはそうと、ワタクシの活躍はしっかりとアディ様にお伝えくださいね。ご褒美が欲しいので」
「もちろん全て漏れなく報告はしますわ。貴方もアディ様の玉体に溺れたのですね」
「いえいえ、素敵なお身体だとは思いますが好みではないのですよ。褥を共にするのは一度で結構です。ワタクシのいう褒美はまた別でして」
その褒美について詳しく聞こうとするも、踵を返しカインたちへ舵を切るよう命じる男。
そう、コチョウたちは帆船の甲板に立って事の推移を見届けていたのだ。
指示を終えた男が、さて、と顔つきを変える。老獪なものから商人のものへと。
「これから推しに会わなければならないので失礼いたします。コチョウ様も顔を合わせる訳にはいかないでしょう?」
「……カインを推しているとでも? それは皇族に対する謀反と捉えますが」
「やだなあ。だからそんなことは一言も言ってないではありませんか。ワタクシの推しはねーー」
潮風によって乱れた髪を手で整え襟を正す男。
「ーーーーサージュちゃんですよ」
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