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第八話

「……まったく、退屈しねえ人生だーーなっ!」


 眼下に広がる紺碧の海。そこを破って現れるは海竜の王。落下しながらもカインは斬撃を飛ばす。


 しかしーー、


「……うそっ。お、お父様の攻撃が効かないなんて……!」

「パパつかれた? それともあの竜が強いのかな?」


 シャルティとサージュが溢したとおり、カインの斬撃は硬い鱗に当たり霧散した。


 ーー伊達に"王"と呼ばれてるだけはあるな。


 足場なく、魔力もない。剣技だけではどうにもならない状況。どうしたものかと頭を捻っていると、頼もしい教え子たちが叫ぶ。


「ーーお姉さんらが時間を稼ぐ! だからなんとかしな!」


 ブリジットの声に、おう! と答えようとするも、それは次の言葉によって黙殺された。


「あんたならできるさーー()()()()()!」

「……!」


 それはカインではなく、シャルティに向けられた言葉だった。目を見開き、息を呑んでいる。


 その姿、その言葉から、シャルティとブリジットの間にはなにかあったのだと勘付く。そしてそれは良い方向なのだとも。


 少し見ない間にどんどんと成長していく娘に、嬉しさと寂しさが胸に去来する。


 少しジーンと感じていると、ブリジットに負けじとミニョンたちも声を投げてくる。


「ミニョンたちも助太刀するの! お姉様だけに負担させないし、ミニョンたちは聖女様の騎士なの!」

「ーーということですので、できればまた()()()を振るいたいのですが〜」


 しかし他方で、シャルティと異なりサージュは苦い顔で頭を振る。


「そうしたいけど、あたしよくわからない……」


 悔しい感情を滲ませながら下唇を噛むサージュ。だが状況は悠長な判断を許さない。


「レティ! 風で誘導を頼むよ!」

「はい! みなさんを海竜王の頭部まで運びます! しかしそれでもうわたしの魔力は尽きます……! あとは頼みましたわよ!」

「応さ!」

「はいっす!」


 ブレイドは戦闘態勢に移行する。怪我は治ったとはいえ武器は損壊、魔力は素寒貧。到底稼げる時間なんてない。


 それでも立ち上がり、奮起し、攻勢に出ようとしている。だからこそカインは父親として、迷子になっている娘に灯りを照らす。


「いいか、サージュ。難しいことなんて考えなくていいんだ。聖女すらもどうでもいい。ただ、今、お前はどうしたい? このまま落ちて海竜に喰われたいのか? お前が慕うブリジットたちがやられてもいいのか?」

「…………」


 ちっちゃな眉を歪めさせながら己の感情と向き合う。


「行きますわよ〜〜! 『風導』!」


 カインたちよりも下で落下していたブレイドは、レティの武技によって海竜に向かって流星の如く突貫していく。


「うおおおお! 『流星一楯(メテオ・ショック)』ゥゥゥ!」

「『扉影(とかげ)ーー下弦星(かげんぼし)』!」


 イシュバーンは隕石と化した盾の攻撃を、ドイルは影でできた扉よりブラックホールを呼び出した。


 兄姉が敵に向かっていく声を聞き、サージュは目をカッと見開く。


「あたしーーみんなを助けたい! でも力がないから助けて欲しい!」

「よく言った!」


 まるで答えを導き出せた生徒を褒めるように、カインは満面の笑みでサージュの頭を撫でながら告げる。


「助けを求めるのは悪いことじゃねえ! それをお前の騎士様にも伝えてあげねえとな!」

「ん!」


 見上げるサージュ。もう心は決まった。胸が熱くなる。


「みんなを助けて! あとはねぇねがなんとかするから!」

「え、ちょ、私っ!?」


 シャルティの動揺の声は騎士たちの返答にかき消される。


「「拝命いたします」」


 刹那、騎士の二人は再度、天使の如き様相となる。翼を生やし、燃え盛る槍を構えたブリジットの元へ飛んでいく。


「あう……眠くなった」

「もうちっとだけ我慢だ。お姉ちゃんがなんとかするのを見届けてやりな」

「……ん」

「え、だから私がなんとかするんですか……?」


 瞼を擦るサージュを脇に抱え、シャルティと向き直るカイン。真剣な面持ちにシャルティは唾をゴクリと飲み込む。


熟練冒険者(ブリジット)に、(サージュ)に期待され、バトンを渡されてなお、覚悟がなってねえな。海竜と対峙したあの勇ましさはどこにいった?」

「あ、あれはどうしようもなかったからで……ん? ちょっと待って。どうして私が海竜に立ち向かったのを知っているのですか? 私が倒されてからサージュの聖女云々があって、それからですよね? お父様が来たの」

「そういう細けえことはどうでもいいんだ!」

「えぇ〜〜……」


 カッコつけようとして墓穴を掘ったカインと、空目を向けるシャルティ。しかし眼下では海竜王との戦いが繰り広げられていた。


「くそッ! 我の渾身の一撃だぞッ」

「ブラックホールっすよ? なんで食べちゃうんすか!」


 鱗に阻まれ武器を失ったイシュバーン。常闇の世界より召喚せしめた超重力の塊を一飲みしたことで魔力が尽きたドイル。


 二人は揃って悔しがりながら落下していた。しかしその目にはまだ闘志が宿っていた。なぜなら、視線の先には二人の天使を携えたブレイドのリーダーがいたからだ。


「……神の技を振るうことはできないの。代わりにお姉様、この力を託すの」

「右に同じです〜」


 その言葉と共に星がブリジットを包む。それは一時的とはいえ"人"から"人ならざるもの"へと変ずるもの。


 ーーいま、ブリジットは擬似的な天使となった。


 青く燃えていた槍が白炎を纏い、憧れの形となる。眦を少しだけ下げる。それは憧れた一撃を放つことができる喜びからか。


「これでもう"偽典"とはいわせないよ。煉獄炎槍ーー」


 それは過去の、砂漠での、脳裏に刻まれた一撃。天使の領域に引き上げられたことで放てる技。しかしだからこそ理解もしてしまう。


 ーーこれでもまだカイン殿には及ばないのかい。まったく遠いねぇ。


 ブリジットはレティの武技とアドラーの力を持ってその場から消える。


 次の瞬間には海竜王の眼前に立っていた。放つは己が知る最強。


「煉獄炎槍ーーーー『一天衝』!!!!」

「ZYURARAAAAAAAA!?!?」


 白炎の槍撃は海竜王の右目を焼いた。


「かっかっか! やってやったよ!」


 これでもう十分だといわんばかりの笑顔で海面に落ちていくブリジット。


 だがその双眸は、遥か上空のシャルティをしっかりと捉えていた。

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