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第七話

「全魔力解放ーーーー」


 カインがそう口にしただけで、天井が抜け落ち海が落ちてきたと錯覚するほど濃密な魔力と威圧感が世界を蹂躙する。


 しかしいつもと異なるのは魔力だ。


 赤銅色の魔力はそのままに、ゆらゆらとしていたオーラは徐々にカインを中心に据え、天を睨む獅子の顔を形成していく。


 渦を巻いていた堀の海水は小刻みに振動し白波を立てている。神殿そのものが悲鳴をあげている。


 敵であれば見ただけで卒倒するほどの威圧感の中、シャルティやサージュたち一行は絶大な信頼をカインに向ける。


 カインが"帰る"といったのなら、神殿に跳ばされ窮地に陥っていたものたちからすると"帰ることができる"ということ。


 もはや命の危険はなくなり、顔の翳は払拭された。


 カインは下段に構えたまま、左足を大きく前に出す。ジャっと床が鳴る。不敵な笑みを携え鋭い視線を天井に、いや遥か彼方の空に向ける。


「ーーーー天地覇斬」


 それは属性奥義を全力で放つ際の枕詞。己は天も地も等しく斬り伏せるという覇王の宣言。


 踏み込むのではなく、床を踏み抜くようにして踏ん張り、その力を腕に伝播させる。


 剣には雷が宿り、魔力の獅子も雷の鎧を纏う。


 寿ぐは兄弟分の代名詞ともなった技の名。


 そこに雷撃を乗せる。



「……『獅子吼(ししく)』ーーーー轟雷一穿!!」



 言葉とともに剣を天に向かって一息に振り上げる!


 斬撃は雷を迸らせた獅子となり、天井を突き破り深海を食い千切りながら空へ駆けんと飛翔していく。


 しかしカインはそれを見届けることなく、剣先を地面に突き刺し魔力を神殿内に充満させる。


 すると白波を立てて震えていた堀の海水、その全てが意思を持ったように水柱をいくつもあげる。それがカインの周りにとぐろを巻いて中空に浮遊する。


 最も近いところで浮いている海水に剣を刺して、ニヤリと歯を見せ叫ぶ。



「ーーーー覇流水刃・手心(たなごころ)……っ!!」



 先ほどと同様に剣を振り上げる。違うのは技の名、だけではない。


 轟雷一穿は斬撃を飛ばすために。


 しかし覇流水刃の場合、まるで鞭を打つが如く剣先をしなやかに振り抜いた。


 剣先に追従するようにして、莫大な海水は獅子が食い破った海の間隙を突き、上昇海流となる。


「いまだ! 飛び込め!」

「「「「…………っ!」」」」


 カインの合図でブレイドが飛び込んでいく。カインは剣を腰に差し戻し、シャルティとサージュを両腕で抱え込む。


「ちょっくら海底から天まで、ウォータースライダーと洒落込みますか。しっかり目を閉じて、息を吸い込んどくんだぞ?」

「は、はい!」

「わくわく!」


 しっかりと娘を抱き込んで海流に飛び込むカイン。と同時にミニョンとアドラーも続く。


 激流に飲み込まれた一行は大空へ一直線に流されていく。


 黒く暗い深海から徐々に青色が淡くなっていく。閉じた瞼に光が差し込んでくるのを感じる。


 激しい海流の中、錐揉みすること三十秒ほど経ってもまだ海面に出ない。カインはともかく体が小さいサージュやミニョンたちでは息が持たないかもしれない。


 そう思ったと同時に、顔を叩きつけていた水の感触が消える。不思議に思い目を開けると、顔の周りだけ空気に包まれているではないか。


 しかしこの魔力は馴染みがある。


 なんとかして上に顔を向けると、レティが風の武技で空気を確保してくれたのがわかる。満面の笑みで弓を抱えているのが見えたからだ。


 ーーちゃんと周りが見える、いい冒険者になったな。


 脇に抱えた娘を見ると、目をパチクリして驚いている。それがどうしようもなく可愛くて顔が綻んでしまう。


 空気の心配もなくなりしばらく流れに任せて揺蕩っていると、ついに一際明るい光に包まれた。


 ドッパアァァァンッ! と轟音とともに大空へと飛び出した一行。


「ぷっはあぁぁぁ!」


 カインが満足そうに息を吸う。


「「「「出られたああああ!!」」」」


 空には燦々と太陽が照っている。久方ぶりの陽光を全身に浴びながら、一行は海底神殿より脱出することができたことに歓喜の声をあげる。


「ーーていうか高っ!? お、お父様! これ高すぎですよっ」

「あはは〜! あたしまたお空とんだ〜」


 しかし喜びも束の間。刹那の浮遊感の後、重力によって海面に落下をはじめシャルティ涙目。サージュは年頃にはしゃぐ。


「だっはっは! 勢い余って天まで昇っちまった!」

「笑い事ではありませんけど!?」

「びゅーんしてる! びゅーん!」


 そう。カインの上昇海流は海面を軽く通り越し、洋上に立つ一本の水柱となっていた。その先端は雲に手が届くほど。


 数百メートルでは済まない高さまで飛んでしまっていたのだ。


「ま、なんとかなるだーーんん?」


 落ちながらカインが適当に口にしようとした時、眼下に広がる海が盛り上がる。


 それは莫大な海水を持ち上げながら膨らみ、ついに爆発する! その正体はーー、


「「「「あの角はーーーー海竜王!!??」」」」


 額に左右五本の捻れた角を持ち、頭部だけで深海のピラミッドほどの大きさを誇る青い鱗の海竜。


 大きいな、とは思ったが、ブレイドの喫驚の声で得心がいった。あれがこの海を統べる海竜の親玉だと。


 海底神殿より脱出を果たしたカイン一行に、さらなる脅威が怒涛の如く押し寄せてきた!

お読みいただき、ありがとうございます!


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