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第六話

「「ーーーー神なの(の領域です〜)」」


 ミニョンとアドラーの言葉に一同は黙り込んでしまう。


 しかしそれは驚きからくるものではなかった。それを代弁したのはサージュだった。


「パパはすっごく強いえーゆーだよ? 神様なのは当たり前!」


 小さな胸を張って述べられる純真無垢な言葉に皆が薄く笑みを浮かべる。


「そうです! スケベで色々だらしないけれど、お父様が強くてカッコいいのは事実ですし、神様と言われても当然です!」


 シャルティが両手を腰に当てて鼻息荒く宣言する。


「ふっ、たしかに今更だねえ。お姉さんらはカイン殿に幾度も命を救われ、生きる指針を与え続けられてるんだ。言ってしまえば"救いの神"さ」

「そうだな。我らにとってカイン殿は初めて会った時より神であり、今も変わらぬよ」

「見えもしない宗教的な神よりもよっぽど神様ですわね」

「傍若無人なところとかまんまカミサマって感じっす!」


 ブレイドたちも"何を今更"といって様子でミニョンたちの言葉を受け流す。


 カインが常軌を逸する武力を有し、それを親馬鹿に振り切っているのは周知の事実。それが神の領域と言われても、"だろうな"という感想しかない。


 特に驚きなんてなかった。


 ミニョンとアドラーを除いた六人が、その事実をさも当然と受け入れていることに、さらに目を見開くミニョン。


「ひ、人じゃないの……。畏怖も忌避もないの……?」


 その言葉に皆が声を揃えて答える。


「「「「「「ない(です・ね・な・ですわ・っす)!!」」」」」」

「…………っ!?」


 毅然とした思いによって、ミニョンは言葉を失う。ちょうどその時、人影が空から降ってくる。


 ピラミッドから跳んだカインが帰ってきたのだ。


「ーーっと。よし、帰るぞお前ら!」


 そう告げて唐突に服を脱ぎ、上半身裸になる。


「ちょっ!? お父様? こ、こんなとこで脱ぐなんてーー」

「あらあら、ついにわたしを強引に押し倒す気にーー」

「「……ん??」」


 顔を見合わせるシャルティとレティ。顔に手を当てながらも指はしっかり開いている娘と、いそいそとズボンを脱ごうと手をかける冒険者。


 思いがけず、かたやムッツリ、かたや倒錯した性癖が暴露してしまう。


 そんなズレた反応を示した二人を無視して、イシュバーンがカインに真意を問う。


「帰ると言っても転移陣はまだ見つけられていない。どうするおつもりですかい?」

「ん? ここが海の底なのはわかってんだから、やることなんざ一つだろ」

「……でたっすよ、英雄の常識ーー道がなければ作ればいい理論。イシュ兄、もう黙って見てましょうよ……」


 カインがこれから成すことを察したドイルがそっとイシュバーンの肩を叩く。


「……一体なにをするつもりなの?」


 怯えた表情を隠すことなく英雄()と向き合うミニョン。カインは脱いだ服で背中を乾布摩擦しながらさらっと吐く。


「ーー海面まで海をぶち抜く」

「……そんなことができるのはやっぱり神の力なの。どうしてあなたはそれほどの力を有していながら、娘の、教え子のためだけに動くの? より良い世界のためになにか成そうとは思わないの?」


 ミニョンの純粋な問いかけにカインは小首を傾げながら答える。


()()ーーという小さな世界を守ってんだ。十分だろ。それ以外には興味ねえな」

「…………」


 キッパリと己の考えを述べたカインは二の句を継ぐ。


「俺の知ってる聖女はよ、こんな馬鹿を愛することこそ()()()()()って言ってたぜ。お前は違うのか?」


 カインの問いはミニョンの胸の奥に突き刺さった。


 幼き頃より、いつか現れる聖女のために育てられてきた。神託に従って巡礼を行う聖女の騎士となるために。


 しかしその真意はわからない。『穢れなき慈愛の騎士団』とは名乗っているものの、慈愛の意味を計りかねていたからだ。


 大陸に蔓延る教会から追放された『慈愛の聖女』。それを探しているといえば石を投げられることも、満足な食事を出されないこともあった。


 そうしてまで聖女を探し求める理由も、慈愛の意味もわからぬまま今に至る。


 だからこそカインの問いには沈黙してしまう。返せる答えも己の矜持もなにもなかったからだ。


「ま、今すぐに答えを出さなくてもいいか。サージュをしっかりと守って、お前の答えを導き出せばいいさーー騎士なんだろ?」

「……わかった……なの」


 二人の会話はそれで終わった。カインは乾布摩擦をしながら己の計画を皆に伝える。


「いいか? まず俺が海面までぶち抜く。次にここに流れてる海水を、天まで昇る海流にしてぶっ放す。二撃だ。それでここから脱出する」

「言ってる意味がわからないけど、わかったよ。つまりお姉さんらはカイン殿が打ち上げた海流に乗ればいいんだね?」

「おう! 流石はブリジット、理解が早えな。ただ海に穴を開けてもすぐに塞がっちまう。躊躇わず波に飛び込め。あ、息は止めとけよ?」


 言い終えたカインはポケットから一冊の本を取り出し、サージュに投げ渡す。


「あとサージュ、これやるよ」

「……ん? なにこれ」

「爆乳脳筋慈愛聖女の持ち物だ。なにかに役立つかもな」

「ん、あいがと! でも本を投げるのはメっ!」

「お、おう。すまん」


 八歳にマナーを指摘され締まらないまま、カインは不敵な笑みを浮かべて慈愛剣ミール・タンドレッサを下段に構える。


「じゃ、こんなしみったれた場所とはおさらばといきますか」


 カインがすうっと息を吸い込み、瞳を閉じる。これから放つのは己の技ではない。子犬のように後ろをついてきていた可愛い弟分の技。そこに雷を乗せた合体技。


 ーーまさかこんな気持ちになるなんてな。


 瞳を開け、吐息と共に世界を穿つ言の葉を述べる。




「全魔力解放ーーーー天地覇斬『獅子吼(ししく)』轟雷一穿」

お読みいただき、ありがとうございます!


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