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第四話

「……んん」

「うみゃ……?」


 カインの膝の上で寝ていたシャルティとサージュが目を覚ます。


「あ……お父さーー!? 〜〜!!」

「パパだぁ……」


 涎を垂らして寝ていたことに気づき、素早くを距離を取り口元に手を当てるシャルティ。顔を真っ赤にするのも忘れない。


 対してサージュはなぜカインがここにいるのかなんて気にもせず、カインの腹に顔を埋めグリグリしている。


「よっ! 照れた顔も可愛いぞ、シャルちゃん」

「な、な、な……!?」

「パパ、あたしは……?」

「もっちろんサージュちゃんも可愛いに決まってるじゃねぇか!」

「むふー!」


 眦を下げて愛娘との再会を喜ぶカイン。驚きのあまり声が出せないシャルティ。褒められてご満悦のサージュ。


 海底神殿という稀有な状況にありながら、いつも通り和気藹々とした会話を繰り広げる。


 つい先程まで海竜と鎬を削っていたとは思えぬほど温かな雰囲気。カインがいるだけで状況も漂う空気すらも変わる。


「ど、ど、どうしてお父様がここに……?」

「そうだよ、カイン殿! お姉さんらをーー」


 シャルティの疑問に被せるように、ブリジットが声を飛ばしてくる。


 しかしこれは想定内。信頼していなかったのかと糾弾されるのはわかっていた。だからこそ右手を前に突き出し、話を遮る。


「待て待て。決してお前らを信用してなかった訳じゃねえ。俺も来るつもりはなかったんだが……」


 いいながらポケットを弄る。取り出したるは、


「これをな、シャルちゃんに渡しに来ただけだ」

「それ、私のハンカチ……?」

「そ! 年頃の女の子がハンカチを持ってないのはアレだろ? だから忘れ物を届けに来ただけ! 以上!」


 完璧な理論武装だと自信気にドヤ顔をかますカイン。


 結局心配だから来たのは誰の目にも明らかではあったが、命を救われたのもまた事実。


 ーーコチョウの嬢ちゃんが関わってるのは言わなくていいだろう。


 あれほど心配していた友が実は元気で、今もなお皇族の配下として暗躍していることをこの場で告げるのは酷というもの。


 カインは人の心がわかる男なのだ。


 毒気を抜かれたシャルティやブリジットもそれ以上追求はしなかった。

 

「……まあ過程はどうであれ、カイン殿が居てくれるのは心強いね。なにかこの神殿について知ってることはあるかい?」

「ないな!」

「そもそもどうやってここに来たのですか? カインさま」

「よくわからん!」


 ブリジットとレティの質問に気持ちの良い返事をする。中身はまったく空っぽだが。皆が一様に嘆息する。


「それよりもよ! 俺あのピラミッドの上に登りてえんだ。お前らはこの辺りの探索を頼む」


 ワクワクが止められない。カインは腰を浮かす。


「あ、ピラミッドの頂上には棺しかなかったすよ」

「あ……?」

「ちょ、なんで睨むんすか! 俺が命懸けで調査したのに!」


 弟分の名が刻まれ、聖女の形跡がある部屋。間違いなくこの神殿はカインとは無関係ではないはず。そのような遺跡で"棺"があるなんて、嫌な予感しかない。


 険しい顔をしたカインは立ち上がり、膝を軽く曲げる。


「……ちょっと見てくる」

「あ、ちょ……!」


 ドイルの制止の声を無視して常人離れの跳躍で堀を越え、ピラミッドに跳ぶカイン。


「渡るのにみんなが四苦八苦したのに……」

「だからこそ英雄なんだろうさ。そうして落ち込めるのも命を救われたから。ますますカイン殿には頭が上がらないな」

「逆に下げすぎて地面に埋まりそうですわね。それはそれで興奮しますけど……」

「「……ん??」」

「うふふ」


 ドイルとイシュバーンの掛け合いにレティが割って入り、妙な雰囲気になる。


 ブリジットが額に手をやって呆れていると、急に袖を引かれる。その正体はミニョンだった。


「……お姉様はあの人と仲良いの。どうして仲良くできるの?」

「急になんだい? どうしてと言われても命の恩人だからとしか言えないよ」


 違うの、とミニョンは顔を青ざめながら唇を震わせている。


「ああ、カイン殿の力を見て怖くなったのかい。大丈夫だよ。あの人は無闇矢鱈と力を振るう人じゃ……いや親馬鹿モードになると……」


 むむむ、と唸りながらカインについての評価を改めていると、アドラーが痺れを切らしたように補足してくる。


「ちゃんといわないと伝わりませんよ〜」

「ん?」

「先程申し上げ、お見せした通り〜僕たちは神の力を行使することができます〜。いってしまえば存在的な格的なものが人よりも上になるんです〜」

「お、おう。そうかい」


 ブリジットとミニョン・アドラーの会話を聞こうとして、知らず知らずのうちに皆が集まってきていた。


「……だからこそ"理解"できたの。あの人は人じゃない(まともじゃない)の」


 ミニョンの言葉に真っ先に反応したのはシャルティだった。


「ちょっとミニョンさん!? 命を救われておいてその言種はないのでは!」

「……ねぇね、落ち着いて」


 サージュが諌めるも、その目には険が宿っている。


「僕たちの持つこの剣は、神が自ら魔石に力を込め、剣の形にしたもの。その力はーー"位階の付与"。概念系です〜」

「位階の?」

「付与?」


 続くアドラーの話に頭を捻るドイルとレティ。


「人から神の御使(みつかい)、すなわち"天使"へと存在を引き上げるものです〜。だからこそ僕たちはカインさんの()()()が分かるんです〜」

「人じゃないっていいたいんですかっ?」

「言ってしまえばそうなの。砂漠で見たあの力。ミニョンたちと同じ領域だと思ってたの。でも違ったの」


 ミニョンが己の肩を抱いて震える。


「聖女様の騎士となって力を十全に使えることで理解したの。カインという人はーー」

「あの人は、"天使"なんて領域には収まりません〜。むしろーー」


 二人が畏怖の念を込めて重苦しく述べる。



「「ーーーー神なの(の領域です〜)」」

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