第七話
「……ふむ、仮に縄を投げて引っ張るとしても、この荒波に巻き込まれてはドイルの体力が持たないな」
「だからこういう時に備えて鍛えておきなって口酸っぱくいってたのに……」
孤立したドイルの回収方法について議論するイシュバーンとブリジット。
他にもレティやシャルティ、サージュたちが話し合って案を模索している。
そこに参加せず、二人で内密の話しをするミニョンとアドラー。
「……で〜? そっちはどうでした〜?」
「海竜に襲われたの」
「やっぱりそうなりますか〜。ブリジットさんは聖女に覚醒……はしてない感じですね。となるとやはりーー」
「……認めたくはないけど、あのサージュという娘が第一候補なの」
眼鏡をハンカチで拭き拭きしている幼子を見つめる二人。仮に聖女だとしても、とても仕えたいとは思えないほど幼すぎる。
「……個人的感情は抜きにしてくださいね〜。聖女を見つけ出し、認められないとあらゆることがパーになりますので〜」
「わかってるの。ミニョンたちは騎士団なの。先人たちが受け継いできたものを必ず開放するの。それは至上命題なの」
わかっているのならいいです、とアドラーは聖女に関する話しを終え、話題は海底神殿に移る。
「今の所手詰まりですが、反応はないんですか〜?」
「あるの。ビンビンに感じるの。……でもちょっと桁違いだからみんな死んでしまうかもなの」
「ちなみにですけど〜あのピラミッドの下、とかいわないですよね〜?」
「……そうなの。どうしてわかったの?」
首を傾げてアドラーに訊くミニョン。強大な魔物の反応はピラミッドの下から感じている。
ーーたぶん海竜の成体なの。
先ほどの幼体とは比べ物にならないほど強いことがわかる。
「海水が勢いよく流れ込んでいるのにこの空間が満たされることはない。つまりどこかに海水は流れ出ていると思うんです〜。となると一番渦が発生しているピラミッドの辺りが怪しかったので……」
アドラーが己の推測を語る。そしてそれは残念ながら的中していた。
「海水の流れまではわからないけれど、間違いなく海竜はあのピラミッドの下にいるの。そこから脱出できる保証はないけれど……」
「聖女覚醒の可能性はある、と」
「なの」
「なら行くしかないじゃないですか〜。それで誰かが犠牲になろうともーー」
可愛らしい顔からは想像できないほど冷徹な発言をするアドラー。騎士団としては正しい選択なのだろうが、それでブリジットが傷を負い、命を落とすことは望まない。
故に己なりの決断をするミニョン。
すっくと立ち上がり、スタスタと確固たる足取りでブリジットたちの元へ向かう。それだけでこれからのことを察するアドラー。呆れたようなため息を吐いてから追従する。
「ーーお姉様、話があるの」
「ん? ミニョン?」
怪訝な表情のブリジット。ミニョンは震える手を誤魔化すために、強く拳を握り締め告げる。
「ピラミッドの下に海竜がいるの。そこから脱出できるかはわからないけれど、道はあるの」
「……どうして海竜がいるってわかるんだい?」
ブリジットの眼差しには疑惑の色がのる。
ーー怖いの。でも伝えるの。
ミニョンは覚悟を決め、己の力について開示する。
「ミニョンは……ううん、騎士団の人間は"神"から力を与えられているのーー様々な代償と引き換えに」
「……神?」
「だいしょう……?」
ブリジットは眉間に皺を寄せ、サージュは首を倒す。
「ミニョンは騎士として上から二番目の階梯なの。代償はーー"強力な魔物を引き寄せる"ことと"幸福な思い出の消費"なの」
「ちなみに僕は味覚を失ってます〜」
「「「…………っ!?」」」
思いもよらぬ話に付いていけない者もいる中、ミニョンの話は続いていく。
「"魔物を引き寄せる"ことで魔物の存在を感覚で捉えることができるの。だから海竜がいることがわかるし、神の造りし熱砂では暴砂鰄鰐の亜種に襲われたの」
ミニョンの話を受けてブリジットは疑問を口にする。
「仮にその話が本当だとしてだよ、その代償にミニョンに与えられた"力"ってなんだい?」
「……わからないの。聖女に認められて初めて力を解放できるの。力が宿っているのは理解できても、何かまではわからないの」
「……だから"預かっている箱"か」
イシュバーンが一人納得する。探索中でのアドラーの言葉の真意が、やっと理解できたからだ。
「……僕は階梯が低いので現状でも力は振るえるんです〜。限定的ではありますが〜」
「その驚異的な足技だな。見た所身体強化といったところか」
「ですです〜」
アドラーの年齢や体格からは考えられないほど強力な足技の理屈が判明した。
「……それは魔法、なのかい?」
「違うの。神から与えられし聖技なの。神の力の一端を代行者として行使できる、とされてるの。完全なる発言は誰も為し得てないからわからないけれど……」
ミニョンの説明を聞いたブリジットは腕を組み瞑目する。
「たしかにここで行き詰まっている以上、他の道を探るのは定石ではあるが……」
「海竜となると危険すぎますわ」
イシュバーンとレティが話し合う。
「海竜を倒したからといって転移陣があるかもわからないのでしたら、危険を犯す必要もないのでは……?」
「でもてづまりだよ、ねぇね」
シャルティは安全を優先し、サージュは打開策を模索する。
ドイルはピラミッドの階段で横になっている。
そして熟考を重ねたブリジットが開眼し、方針を定める。
「海竜は危険だが、それ以外の決定的な方策があるわけでもない。だからこうするよーーイシュ、あの海水が流れ込んできている穴を塞ぎな」
いいながらピラミッド上部の天井に開いた穴を指差す。
「それはまた……唆られる命令だな」
ニヤリと自信気に盾を背負い直すイシュバーン。
「一時的でもいい。海水の流れが落ち着いたのなら堀に降りてピラミッドの下に潜る。そこで海竜及び転移陣の確認。転移陣があればシャルティとサージュちゃんを優先して跳ばす。それ以外は死に物狂いで時間稼ぎと転移での脱出を図る」
一息に作戦を述べていく。
「質問は?」
「ふっ、我ららしくていいではないか」
「停滞していてもなにも進まないですしね」
「いいサージュ? 頑張るのよ」
「ねぇねこそ張り切りすぎてこけないでね?」
「……お姉様」
「僕は従うだけですので〜」
それぞれが覚悟を決め、その双眸には真剣さを帯びる。
「よく聞こえないけど了解っす」
ドイルも投げやりながら承諾する。
「よおし! じゃあ一丁海竜さんのお顔でも拝んでやろうじゃないか!」
「「「おおぉっ!」」」
こうして一行は己が意思で海竜のねぐらに足を踏み入れる。
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