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第六話

 ピラミッドを登るには荒れ狂う堀を越えなければならない。どうしたものかと四人で頭を捻ること数時間。


 アドラーに至っては眠ってしまっている。


 とにかくご飯でも食べようかとドイルが提案した頃、サージュたちが出た来た入り口とは別の所から見知った顔がひょっこり出てきた。


 疲労感に包まれており、体の至る所も汚れているが、どこか達成感のようなものを前面に出した表情の姉。


 ーーねぇねだ。


「んみゅ? あ、ねぇねだ!」

「サージュ! 良かった! 無事なの?」

「ん! お兄さんとドイルさん、アドラーさんが守ってくれた」

「よかった……本当によかった」


 心底安心したようで、顔には柔和な笑みが宿っている。


 シャルティのみならず、ブリジットもイシュバーンと互いに確認する。


「異常は?」

「無論ない」


 たったそれだけで理解し合う。それが熟練の冒険者であり、幼馴染の強みでもあった。


「状況は?」

「見ての通り手詰まりだ。おそらくあのピラミッドの頂上に何かありそうだが、いかんせんあの荒波を越えられずにいる」


 ブリジットの問いに簡潔に答えるイシュバーン。


 ぐるりと周囲を見渡したサージュがある提案をする。


「……あたしに案がある」

「ほう、いってみなサージュちゃん」

「お兄さんの盾は"衝撃"をだせる。だから誰かを飛ばせばいい」


 どうだ、と鼻息荒く胸を張るサージュ。頭を抱えるのはシャルティだ。


「あんたって頭がいいのにどうしてたまにポンコツになるのよ……」


 しかし顎に手をやりさらなる作戦を提示するのは意外にもレティだった。


「……いや、案外荒唐無稽でもないかもしれませんよ。わたしの風の支援を受けた上でイシュちゃんに飛ばしてもらえばあるいは……」


 そうしてレティの眼差しはドイルに向かう。


「はあ? いやっすよ! 俺がチビで軽いから飛ばせるとか思ってんでしょ、レティ姉!?」


 ドイル、顔面蒼白でこれ以上ないほど拒否する。


 しかし無情かな。決定権はドイルになかった。


「ーー決まりだ。ここでああだこうだいってても仕方ないからね。ドイル、覚悟決めて飛びな。股にぶら下げてるんだろ」

「くっ、弟は姉には勝てないのか……!?」

「いや、単純に指揮権の問題では〜?」


 歯噛みするドイルの肩を叩くのはいつのまにか起きていたアドラーだ。


 そうして話はトントン拍子で進み、ドイルは冷や汗をかきながらイシュバーンと向かい合う。


「……いいっすか? 加減を間違えてうっかり俺の体を爆散させないでくださいよ……?」

「ふむ。まだこの盾に慣れていないから確証はできんな」

「そ、そんなぁ……」

「しゃっきりしな! カイン殿なら喜んで飛ぶよ! 知らないけど……」

「くそっ、それをいわれたらやらないわけにはいかないじゃないっすか!」


 ブリジットに喝を入れられ気合いで腰を落とす。


「いいですかドイルちゃん。わたしの風はあくまでも支援です。空中での姿勢保持や方向は自分でするんですよ?」

「それ、実質俺のソロプレイじゃないっすか」


 ドイルのぼやきを無視して風の支援をかけるレティ。それを確認してからドイルはイシュバーンに向かって疾駆する。


「俺の活躍、絶対カインさんに伝えてくださいっすよ!」

「当たり前だ! 行くぞッーー衝撃楯突(インパクト)……!!」

「ぐげぇッッ!?」


 犬が潰れたみたいな声を上げて高く飛ばされるドイル。


「いいぞ、そのままだ」

「いや、ちょっと右では?」

「うむ、素晴らしい飛翔だ」

「いや、これ届くの?」

「……さらばドイルさん。あたしはわすれない」


 それぞれが勝手に述べる。


「さすがはお姉様なの。人心掌握術まで完璧なの」

「いや、ですから指揮系統の問題ですって〜」


 ミニョンとアドラーに関してはもはや観覧モードに入っている。


 件のドイルといえば……


「いってええぇぇ……!? 折れた! これ絶対骨が折れたやつッ!」


 痛みのあまり叫びながら天高く跳んでいたーー叫びながら。


 結果、無様な形でピラミッドの下層に着地、というか墜落したドイル。


「あ、あの着地は死んだかも……」


 ブリジットが呟く。


「ーーやってやりましたよォォォ!」


 ムクっと立ち上がり両手を突き上げ勝利宣言。無事なのを確認したのなら心配は無用。すぐさま次の指示を出すブリジット。


「さっさと登りな!」

「酷いッ!? ちっとは労いの言葉くらい欲しいっす」

「なら帰ってカイン殿にもらうんだね」

「それもそっすね!」


 さくっと褒められる方向転換をしたドイルは、罠の確認をしながら慎重にピラミッドを登っていく。


 ついに頂上に到達したドイル。そこにはあったのは、


「……これ、棺っすか……?」


 一つの石棺であった。


「なにかあるの?」


 というサージュの問いかけに戸惑いながら答える。


「は、はいっす。棺桶が一つだけ鎮座してます。表面にはユガの遺跡で見た紋様が刻まれてるっす」

「開けることはできないのかい?」

「無茶いうなぁ……攻撃力皆無なんすけどね」


 ブリジットの言葉に嘆息しつつも腰からダガーを抜き放つ。


「ーー『人影』」


 己の足元にダガーを突き刺し、言葉を発すると、ドイルを形だった影が三体出現する。本体を入れて四人が棺を囲み、本体と同じ動きで蓋を開ける。


 そこにはーー、


「うっ、人骨っすね。ここ、神殿じゃなくてお墓なのかも」


 おそらく男性のものと思わしき人骨が納められていた。


 他になにかないかと調査するも、なにも見当たらない。その結果を下にいるブリジットたちに伝えるものの、拍子抜けの感は否めない。


「……そうかい。ご苦労だったね。戻っておいで! 次を考えよう」


 その言葉でみながハッとする。唯一口にすることができたのはドイルだ。


「え、どうやって戻るんすか?」

「「「「「「「……あ」」」」」」」


 ドイル、孤立する。

お読みいただき、ありがとうございます!


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