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第四話

「ーー神殿なのにダンジョンみたいな仕掛けがあるんだね」


 サージュの眼前には、精緻な彫刻が施された扉が鎮座している。


 押しても引いてもびくともしないそれ。


 扉に刻まれし細工には、明らかになにかを嵌め込めと言わんばかりの小さな空白が四つほどある。


「……おそらくここに何かを嵌め込めば扉が開くんでしょうけど……そんなものこれまで見ました?」

「魔物しか見てないな。一応しらみつぶしに探索はしてきた。それでないということは……どういうことだ?」


 腕を組んで頭を捻るも、ない頭からはなにも出てこない。


 それを見て意見を述べるのはサージュだ。眼鏡を光らせそれっぽく語る。


「魔物を倒したら確率で"何か"が落ちるのか、それともこれまで探索したどこかに"何か"が隠されているのか、あたしたちが落ちたところよりも前に"何か"があったのか……」


 サージュの推測を受けて、ドイルが顎に手をやりこれからの動きについて提案する。


「てことはっすよ? 一旦落ちてきたところまで戻ってみるってのはどっすか? 確率で落ちるにしろ、隠されているにしろ、ここにいても始まらないっすし」

「ん。このでむいな時間を過ごすくらいなら、少しでもこーどーすべき」


 サージュも同意する。


「え〜? 今から戻るのはヤですよ〜?」


 アドラーは面倒くさがり頬を膨らませる。


 しかしイシュバーンのみ何も発さず、瞑目している?


「イシュ兄……?」


 ドイルの問いかけにも応じず、ただ腕を組んで沈黙している。寝てしまったのかと錯覚するほど静かなイシュバーン。


 そしてついにカッと目を見開き喉を鳴らす。


「うむ。色々考えたがわからぬ。だが一つだけわかったことがあるぞ」

「……なんか嫌な予感しかしないっすけど、一応聞いておきますね。何がわかったんすか?」


 ドイルの質問には答えず、背負っていた盾を構えることでその答えを示唆する。


「あ……もういいっす」

「……ん? あたしまったく意味わからない……」

「僕は知らないです〜」


 その行動だけで全てを悟ったドイルとアドラーとは対照的に、話についていけず目を白黒させるサージュ。


 そんな三人を置き去りにして、己の考えを告げる。


「我は頭が足りぬからな。だから考えたーーカイン殿であればどうするかと。その答えがこれだッ!」


 構えていた盾をそのまま扉に押し付けるイシュバーン!


衝撃楯突(インパクト)……ッ!!」


 盾は扉と接触しなかった。()()()()扉を破壊すべく盾に納められた魔石が発動する。


 ドゴォッ!! と扉は派手に土埃を上げて崩壊していく。


 その光景を満足そうに見届けてから盾を背中に背負い直す。


「あれこれ策を弄しようとも、かの"英雄"であればこうしただろうさーー正面突破をな」

「"正面突破をな(キリッ)"じゃないっすよ、まったくもう……」


 脳筋な解決法を選択したイシュバーンとそれに対し呆れた顔のドイル。


 そのやりとりはまるでカインとシャルティのそれと同じだった。


 いかなる経緯であれ、道が開けたことには変わりない。ドイルが慎重に罠の確認をしている間、サージュはイシュバーンの盾について訊く。


「……お兄さん、その盾なんだけど」

「ん? これか? これはカイン殿が買ってくれたものだ。暴砂鰄鰐(クロノダイル)によって壊された盾の代わりを、怪我の見舞いとして賜ったのさ」


 誇らしげに語るイシュバーン。顔の傷ゆえに恐ろしい印象が先行するが、心根は優しいのだろう。


 まるで父親に欲しいものを買ってもらって自慢する子供のようだ。


「さっきのは衝撃波? 物理的な接触がなかったよね」

「うむ、よく見ているな。この盾には世にも珍しい"衝撃"の魔石が込められているそうだ。技術次第ではあるものの、衝撃そのものを圧縮すれば強烈な一撃すらも可能。攻撃手段に欠けていた我にとっては正しく求めていたものさ」


 二人の会話を聞いていたドイルが話に割って入ってくる。どうやら罠の確認は終わったようだ。


「ブリジット姉といいイシュ兄といい、ズルイっすよ。俺だってカインさんから新しい武器とか欲しいっす」

「ふっ、なにをいう。お前の武器が一番凄いではないか。"概念系"の魔石を込められたダガーをカイン殿から譲り受けたのだから」

「それはまあそっすけど……」

「概念系??」


 イシュバーンとドイルの会話に理解が追いつかない点があり頭を傾げるサージュ。


「概念系とは文字通り、概念に干渉する魔石のことを指すらしい。ドイルの場合は影という手段を用いて相手を〈拘束〉するものだ」

「俺たちが巻き込まれた"転移"もそっすよ。あれも概念系かと思います。ただでさえ希少な魔石の中でもさらに希少らしいっす。レティ姉の受け売りっすけど」

「ほう?」


 サージュの好奇心が魔石に傾きだした。


「……そんなに珍しいんですか?」


 これまで静かに話しを聞いていたアドラーがドイルに質問する。


「らしいっすよ。なんでもどんな概念系であっても、一つで小国を買えるかとか買えないとか」

「どっちなんですかそれ〜」

「とにかく凄いし珍しいんっす!」

「へえ……知らなかったな」


 得心がいったようでいってない顔のアドラー。話題が飛ぶ会話を聞きながらサージュは一人決心する。


 ーー今度は概念系の研究もおもしろそう。


 最近理系の研究ばかりでイゼルは寂しそうだが、それでも次の研究対象を決めていくサージュ。好奇心は止められないのだ。


 なんて会話をしながら歩いているうちに、これまでで一番広い場所に出た四人。


 そこは広大な空間の中央にピラミッドのようなものが聳えていた。ピラミッドの周りには流入した海水が渦を巻きながら波立っている。


「これはいかにもあの頂上になにかあるな」

「ですね。でもそういう時に限って罠もあるのがお約束なわけで……」

「魔物なら僕が蹴り飛ばしますので〜」

「神殿の中にピラミッド! わくわく!」


 四者四様の対応を見せ、ピラミッドの頂上を臨む。

お読みいただき、ありがとうございます!


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