第二話
「ふんふ〜ん。かいていのぉ〜しんでんはぁ〜いがいとあたたかい〜のぉ〜」
陽気に歌いながら最深部を目指すサージュたち。
イシュバーンがサージュの完全なる護衛についているため、索敵要員であるドイルを除けば必然的にアドラーが魔物の対処をすることになる。
しかしアドラーもアドラーで、文句一ついわずその足技で次々と魔物を屠っていく。
「意外だな。君もミニョンと同じくブリジットを慕っていると思っていたのだが」
道すがらイシュバーンがアドラーに話しかける。正直にいってイシュバーンはミニョンとアドラーを疑っていた。
ーー砂漠での出会いからS級との遭遇、さらには海底神殿への転移。偶然の一言では片付けられぬ。
疑惑の目を向けられているのをわかってかわからずか、アドラーは特に気にした様子も見せず答える。
「ブリジットさんは好きですよ〜。でも正直、僕はサージュさんが聖女だと思ってるので、ここらで恩を売っておこうかと」
「めちゃくちゃ打算的っすね!?」
ドイルが体をのけ反って驚いているのをよそに、イシュバーンはさらに質問をしていく。いや、それはもはや尋問といえた。
「聖女に恩を売って君になにがある? 神に届けて欲しい言葉があるのか、それとも死後の安寧を求めるのか」
「いやいやそんな高尚な目的なんてないですよ〜。僕たちは生まれた時から騎士団にいるので、聖女に仕えることこそ至高! みたいな価値観なんですよね」
それに、とアドラー。足を止め、振り返る。
「預かってる箱を開けたいので」
「……箱?」
アドラーの言葉の真意が読み取れないイシュバーン。
「ま、それは聖女様にお会いしてからってことで〜」
再び先行するアドラー。なにやらはぐらかされて終わってしまった。
改めて頭が悪いなと思うがしかし、カインのように抜けていても圧倒的な武力で突破していく人生に憧れているので、もう忘れることにするイシュバーン。
話はサージュの話題に移る。
「そういえばサージュさん。どうしてブリジット姉だけお姉さんって呼んでるんすか」
「確かにそれは我も気になっていた」
「ん? だって戦役でパパに拾われて、パパのことが好きなんだよ? ならもう家族。だからお姉さんはあたしのお姉さん!」
小さな胸を張って、"どうだ"とドヤ顔を決めるサージュ。一体どこにドヤ顔する要素があったのかこの場の人間にはわからないが、イシュバーンが応じる。
「それをいえば我らブレイドは皆カイン殿に拾われて、カイン殿を敬愛しているぞ」
「ぷぷッ、そんな厳つい顔で"敬愛しているぞ"って。なんかお尻がゾワゾワするっす」
「……引っ叩くぞドイル」
ドイルが揶揄うように己の体を抱きしめいやんいやんと身を捩り、それに青筋を立てるイシュバーン。
その光景を見てサージュは嬉しそうに眼鏡の奥のつぶらな瞳を輝かせる。
「ならみんな家族! お兄さんが増えた! えへへ」
サージュの純真な心に絆された二人は、ふっと笑ってからしゃがみ込んで目線を合わせる。
「ーーなら兄として、しっかり姉と父に再会させてやらないとな」
「ん! 家族は信じあって、支えあうもの!」
「ちょっと一回だけ"お兄さん"って呼んでもらっていいっすか? "お兄ちゃん"でも大丈夫っす!」
なにやらドイルが鼻息荒くサージュに注文をつける。
「幼子に見せてよい顔ではないぞ……」
なんてイシュバーンの呟きは無視された。
「ドイルお兄ちゃん……?」
「ーーぶわぼッ!?」
ドイル、鼻から流血。
「なんか違う……。今まで通りドイルさんでいいや」
珍しく汚物を見るような目をするサージュ。
「わー! ナシナシ! 今のナシっす! 鼻血も出さないし鼻の下も伸ばさないのでお兄ちゃんと呼んでくださいっす!」
「ふっ。貴様に"兄"はまだ早いということだ。もうしばらくは我らの弟として精進することだな」
「ううぅぅ……酷いっすよイシュ兄。やっと弟妹ができたと思ったのに……」
落ち込んだドイルの肩をポンと叩くイシュバーン。そのやりとりがカインとシャルティのようで、見ていて楽しくなるサージュ。
くすくすと口に手を当て含み笑いをする。
「ふふっ、この調子なら最深部もすぐだね」
「気を抜いてはならぬぞ。何が起きるかわからないのが遺跡の類だ」
「いまなら悪鬼の類すら倒せそうっすよ、ちくしょー」
和気藹々と進んでいくサージュたち。
そのやりとりを肩越しに見ていたアドラーは独り言ちる。
「……ま、ミニョンさんがあっちに残ったので、こっちに強い魔物は出ないでしょうね〜。サージュさんを"聖女とは認めない"なんていってる割にはきっちり守ってるじゃないですか。ツンデレだなあ」
襲いかかる魚人を蹴り飛ばしながら考える。
脅威を己に向けたということは、やはりサージュが聖女。予想外の展開になったが、むしろこういったピンチにこそ力は覚醒するもの。
あのふざけた力を有するカインもいない。
窮地に陥れば必ずサージュは聖女として目覚めるはず。仮に目覚めなければこれ以上の危機が必要だ。
思ってもない好機だからこそ、ここで決めてしまいたいとも思うが……。
いずれにしてもこちらは問題ない。
ーーまあ? ブリジットさんにミニョンさんが守れるかはわからないですけど〜。
様々な思惑が交錯しながらも、サージュたちは順調に最深部に近づいていく。
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