第一話
第五章スタートです!
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ユガの中央オアシスから転移によって海底遺跡に跳ばされた、シャルティとサージュを中心とした八人。
イシュバーンを最前列に配置した当初の探索と変わらず、この遺跡でも同様の隊列で最深部を目指していた。
剥き出しの岩肌が目立つ通路を抜けると、整備された部屋に出る。経年劣化によって所々破損や腐敗が見られるものの、概ね人の生活が垣間見える調度品など散乱している。
「……まさか海底"遺跡"ではなく海底"神殿"だったか。これは期待がもてるな」
床に落ちていた銅製の杯を手に取り独りごちるイシュバーン。その言葉で一行の表情は柔らかくなる。
「どして神殿なら期待できるの?」
疑問をすぐ口にするのはサージュだ。
「遺跡よりも神殿の方が堅固だ。また神殿であった以上、人の出入りも盛んであったはず。ゆえに使える転移陣が残っている可能性が高い」
「ほうほう」
「遺跡ってのはほとんど魔物と人間によって荒らされてたりしますからね。それに神殿が海中にあるということは、なにか理由があって沈めた可能性もありますし」
「ほう?」
「古代の技術は凄かったらしいっすからね。こうしてぼんやりと薄暗いのもどうやってるんだって話っす」
「なるほど、"沈んだ"んじゃなくて"沈めた"という視座もあるんだ」
会話に入ってきたレティやドイルの言葉でますます楽しくなってきたサージュ。
そうして整備された神殿を進んでいくと、チラホラと魔物と遭遇する。魚人だ。子供ほどの背丈のそれ。
しかしブレイドの面々はそれらを苦もなく屠っていき、適宜休息を取りながら最新部を目指す。
「海底神殿なだけはありますね。海水が入り込んでいたり通路が崩壊していたりして一筋縄ではいきません……っ」
「レティ姉は風を使った索敵もしてくれてるっすからね。なるべく道草は食いたくないでふぁいとっす」
「しかしこれほど大規模な神殿もなかなかないぞ。思いもよらない宝が眠っているかもな。見過ごすなよドイル」
「え〜? 斥候の上に探査も入れるんっすか? ちょっと働かせすぎっす〜」
緊張感を持ちつつも軽口を言い合うほどには余裕があるブレイド。ゆえに彼ら彼女らに挟まれたシャルティとサージュもまた、当初の険しい顔が落ち着いていた。
ーーだからこそブレイドは不測の事態に対応することができ、それ以外は反応速度が鈍重になっていた。
「あ……れ……?」
ガララッ、と濡れた通路の床が崩落する。それもサージュが歩いていた時に。
「サージュっ!?」
目の前で穴に落ちていく妹を見て焦った声を上げるシャルティ。しかし行動に移すのが早いのはブレイドだった。
「我とドイルが行く! 最深部を目指せ!」
「そっちは任せたっす、ブリジット姉、レティ姉!」
すぐさまイシュバーンが飛び降りサージュを抱きしめ落ちていく。その後に続く形でドイルも降りていく。
それを見てミニョンがアドラーに耳打ちする。
「アドラー、行ってなの。ミニョンはブリジットお姉様についていくの」
「へいへい、お守りしてきますよっと」
アドラーも軽いノリで穴に飛び込んでいく。
「サ、サージュ……っ」
咄嗟のことで動けなかった自分に腹が立つ。呆然としているとブリジットにバチンと背中を叩かれる。
「姉ならしっかりすることだね。お姉さんらの中で一番守りに長けたイシュバーンと索敵に優れたドイルがついてんだ。むしろ自分のことを心配しな」
「ブリジット、さん」
「わたしもいますよ〜」
レティも軽く手を振って存在を示してくる。
「ミニョンもいるの。大丈夫なの、たぶん」
珍しくミニョンもシャルティを気遣うようなセリフを吐く。
「そ、そうですよね……。私もしっかりしないと」
言葉ではそういえても体はそうはいかない。暗い穴に落ちて行った妹。手を伸ばすことすらも出来なかった己の不注意。
ーー姉失格だ……。
顔面蒼白になってブリジットたちについていくシャルティ。
しかしそんな姿を目の当たりにして、気落ちしているのがわかっていてもなお、ブリジットはシャルティに魔物と戦わせる。
「ーーほらッ、後ろからも来てるよッ」
「は、はいっ!」
「次は左から!」
「んくっ!?」
危なくなると、ブリジットやレティが介入し魔物を討伐する。
まるで実践訓練のような探索。護衛される側のはずが、一番多く魔物と切り結んでいる。
疲労もあり、だんだんとブリジットへ憤懣が溜まっていく。ついに休息のタイミングでシャルティはブリジットに詰め寄った。
「あのっ、どうした私ばかりが魔物と戦っているのですか!? ブリジットさんたちは護衛するためにいるんですよね!」
遠回しにいってはいるが、詰まるところ私だけがしんどい思いをしているじゃないか、という訴え。
眦を吊り上げ抗議するシャルティに、ブリジットは「やっとかい」とため息混じりに吐く。
「ふふふ、シャルティちゃん気づいてる? さっきまであんなにお顔が真っ青だったのに、今は真っ赤っかよ。リンゴみたいね」
レティが含み笑いをしながら指摘してくるが、いまのシャルティには意図が掴めない。怪訝な表情をしていると、ミニョンが補足してくる。
「気が滅入ったときは体を動かすのが一番なの。いまは不安や心配よりも怒りと疲労が勝ってるはずなの。ブリジットお姉様の慈悲溢れるお心遣いに咽び泣けなの」
「……あ」
そういわれて初めて自分の感情に気がつく。サージュを守れなかった悔やみよりも、早く合流したいと思っている。
ーー前向きになってる?
「それにシャルティちゃんは戦闘経験が少なすぎるからね。カイン殿が親馬鹿すぎて型通りの基礎しか教えてない。せっかくの機会だ。ここで一皮向けてカイン殿とサージュちゃんを驚かせてやりなっ」
「ブリジットさん。そこまで考えていたなんて」
「ここでカインさまなら、"皮ぐらい剥けてるわ"っていいそうよね、ふふ」
この状況でまさかのレティの口から下ネタが飛び出した。
「え? あ、その……私はよくわからなくて……」
顔をさらに赤く染めるシャルティ。それを見てニマニマするブリジットとレティ。ミニョンにいたっては聞こえていないフリをしている。
ーーもはやそこに憂いはなかった。
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