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第九話

これにて第四章は終わりです!

またしばらくお時間をいただいたのち、第五章『海底神殿サルヴァーレ』を投稿していきます。

何卒よろしくお願いします♪

「ーーだめっ♡ もう……じぬ……♡」


 見目麗しい褐色の肌をした女が快楽のあまりベッドに倒れ込み気絶する。


 ーーこの女だけではない。


 五人が軽く寝転がれるほど豪奢なベッドには三人が、その周りには六人が。


 ソファーやテーブル、鏡台など部屋のあらゆるところに、情事の色香を纏わせた女たちが気を失っている。


 良くいえば「酒池肉林」。


 悪くいえば「死屍累々」。


 ーーここはユガが誇る最高級の娼館『マウフ』。その中でも最も豪華なプレジデンシャルスイート。


 カインはシャルティとサージュたちを見送ってから、寂しさのあまり娼館に向かったのだ。


 朝っぱらから。


 それも貸切で。


「ふう……。この肌に吸い付くような褐色の肌、エロいなあ、でへへ」


 すでに太陽は傾いている。


 ノンストップで女を抱き続けていたカインは、相手をしていた女の尻を軽く撫でながら()()に声をなげる。


「ーーーーで? 英雄サマが無様に腰を振っているのを黙って見ているお前は、俺になんか用か?」


 振り向きもせず誰何をする。部屋の入り口には頭を七三分けにした中年の男が佇んでいる。


 察知されることをあらかじめわかっていたように、声をかけられても動じずに唇を滑らせる。


「流石はカイン様です。わたくし、サウスコート共和国財務省主計局に所属しておりますーー」


 ビュンッという風切音がした。


 カインが何かを投げつけたのだ。


 それを首を傾けて躱わす男。


「官僚? それにしちゃあ随分といい動きをすんじゃねぇか」


 果たしてそれは紫色をした布切れーー女性下着、それもTバックだった。


 ゆっくりと振り返るカイン。ベッドから降り、男と対峙する。


 ーー全裸で。


「わたくし、この仕事をする前は軍におりまして。少々腕には自信があるのですよ。改めましてーー」


 男の言葉を顎を挙げて聞き流す。話しの全てが()だとわかっているからだ。記憶する必要すらない会話の内容。


「ーーという訳でして、カイン様には是非とも"海竜"の討伐をお願いしたい次第です」


 ダラダラと述べた男に一言キッパリと告げる。


「ーーーー断る」

「……でしたら財務省といたしましては大会議場の修繕費用の捻出は困難となりますが。理由をお伺いしても?」

姿()()()()()やつのいうことなんざ信じるかよ」

「……はて? なにを仰っているのか……」


 カインの鋭利な視線を、ストレートな物言いにも動じない男。


 せっかく娘たちに同行できなかった鬱憤を晴らすことができたのに、また苛立ちが募っていく。


 一休みしたら残りの女たちを抱かなければならないのだ。高いお金も払っている。


 故に魔法を発動し威圧感で押し潰すことに決める。


「ーーっな、グゥ……ッ」


 ズオオオゥゥッ、とカインから発せられた赤銅色の魔力が男に襲い掛かり地面に伏せさせるーー強制的に。


 そして魔法を発動したことで五感全てが飛躍的に鋭敏となり、さらなる事実を認識する。


「最初っから違和感があったが、そうか。主人のためにわざわざ砂漠を越えてきたのか? 元気そうでよかったぜーー()()()()()()()()()

「……くっ、ど、ぉして……?」


 床に沈み込むのではないかというほど押さえつけられながらも疑問を口にする。


 それをベッドの端に腰掛け見下ろすカイン。


「気配を感じた時に魔力の揺らぎもあった。んでいざ視界に入れてみるとブレて見えた。光の魔石かなにかを使った変装だとそこで確信。あとはその匂いだよ」

「にお……い?」


 己の鼻を親指でピンと弾く。


「その"蘭"の匂い。帝国でも一部の貴族しか使えない希少な香水だ。こんな砂塵にまみれた共和国の人間から匂うわけねぇ」


 さらに、とカインは足を優雅に組んで己の推理を鼻高々に述べていく。


 ーー繰り返すが全裸で。


「シャルちゃんが攫われた時に俺はこの匂いを嗅いだことがある。陵辱されたコチョウの嬢ちゃんからな。俺が娘たちから離れたこのタイミングで接触してくる帝国の人間で、蘭の匂いをさせてるのなんざ、アロガンの直臣だった嬢ちゃんしかいねえ」


 だからだよ、と締める。


「変装も……解けて……ない、のにっ!?」

「お? てことはやっぱりそうか。いやあ、なんか今日の俺は冴えてるなあ」


 口調こそ爽やかなものだが、カインから指向性を持って放たれる威圧感が減るどころか増している。


「シャルティとサージュが遺跡に向かったこのタイミングで俺に海竜の討伐依頼か……」


 十中八九、家族の切り離しにかかっている。


 サージュの遺跡探索まで仕組まれていたとは考えずらいが、あちらにも何かしらの脅威が迫っていると考えるべきだろう。


 護衛には信頼できるブレイドがいる。


 唯一の不安要素はミニョンとアドラー。


 偶然砂漠で出会ったが、それすらも敵の策略かもしれない。滅多に遭遇することがない暴砂鰄鰐(クロノダイル)に襲われていたのも引っかかる。


 ブリジット率いるブレイドのメンバーがいるから問題ないとは思うが、気になって仕方ない。


 しかしここで遺跡に向かえば、なんだか色々な方面から怒られそうでもある。


 どうしたものかとうんうん唸っていると、ふと先ほど投げつけたセクシーなランジェリーが目に入る。


「そ〜だ! 昨日シャルちゃんに投げられたハンカチを渡しに行こう! そうすれば問題ねぇだろ! 忘れ物を届けるだけだし」


 名案を思いついたとばかりにすっくと立ち上がるカイン。このまま宿に戻って朝洗って干してきたハンカチを回収しに行こうとすると、コチョウが挑発をしてくる。


「い、遺跡に行っても……無駄、ですよ。すでに、転移で『海底神殿サルヴァーレ』に跳ばし、ました……っ。共和国が、もて、余す……"海竜のねぐら"……です。み、三つしかない転移、陣からしか行けない絶海の、神殿です」

「……なにそれ知らない。そんなところあるんだ。へ〜」


 特に気にした様子もなくいそいそと服を着るカイン。


「それはそうとーー娘たちになにかあったら今度は俺がアロガンを殺すからな」

「…………っっ!」


 一際鋭い殺気を叩きつける。


 身なりを整えて部屋から出ようとドアノブを握り、肩越しに言葉を発するカイン。


「……ずっと嬢ちゃんのことを心配してたぞーーシャルティは」

「ーーーーっっ」


 もはや声も出せないほど押しつぶされているコチョウ。変装に使っていた魔石が壊れたのか、外見は本来の姿に戻っている。


「じゃ、俺は海竜の討伐なんてせず遺跡に向かうから。アロガンのクズによろしくな〜」


 それだけ言い残して部屋から出ていくカイン。


 バタンとドアが閉められて初めて威圧感は消失する。全身に滝のような汗をかきながらも片笑うコチョウ。


「……ふ、ふふ。いくら英雄でも転移陣発動のキーを知らなければただの人。深海に横臥する神殿にいく術はない。チェックメイトなのですよーーアディ様の術中によって」


 ゆっくりと立ち上がる。淫臭に満ちた部屋で、辺りを見渡す。そしてポツリと溢す。


「……ほんっとお人よしですね、あの娘は……」


 コチョウの呟きは娼館に溶けていった。

お読みいただき、ありがとうございます!


この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や下の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると幸甚の至りです。


よろしくお願いします!!

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