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第七話

 早朝、寂しげなカインに見送られたサージュ一行はユガ中心のオアシスへと向かっていた。


 朝早く出発したのはブリジットの案だ。並々ならぬ装備をした四人の冒険者がまだ幼い四人を護衛しながら遺跡へと向かう。


 ーーつまり変に目立ってしまうのだ。


 ただでさえカインの娘というだけで問題がありそうなのに、そこにきて完全防備をした上での遺跡調査だ。


 痛くもない腹を探られるのはごめんだと、人目につかない時間帯を狙って出発した。


 作戦は見事成功し、配達員などの一部を除いて衆目に晒されることはなく、騒ぎにならずオアシスへと来ることができた。


 眼前に広がるは湖と錯覚しそうなほど広大な水と植物が生い茂るオアシス。


  周囲の砂、石、土の街並みとは異なる自然が横たわっている。


「……遺跡ってどこ……?」


 景色に感動しつつ、サージュが首を傾げながら問う。


「オアシスの真ん中に小さな島が見えるでしょう? あそこに入り口があるそうよ」

「ほうほう」


 いかにもな場所でサージュの眼鏡がキランと光る。側から見てもわかるほどにワクワクしている。


 ポツンと一つだけ目立つ浮島にある遺跡。それもサウスコート共和国建国以前からあるとされる遺跡だ。


 ここに武力と知力を試されるなにかがある。


 仮に女占い師の言葉が偽りであっても、こうした異国での遺跡調査は初めてなのでいい経験になるだろう。


 そう思っているといつのまにか小舟に乗って浮島に到着していた。


「……なんか公衆トイレみたい」

「遺跡は地下にあるっすからねえ。誰も来ないような遺跡の入り口なんざ、こんなもんっす」


 サージュの目の前にあるのは、木材でできた小さな小屋のようなもの。それは公園にポツンと鎮座している公衆トイレと瓜二つであった。


 肩を落とすサージュに声をかけるのはドイル。事前に下調べをしたのも彼だ。


「地図によると地下三階層で終わりのこじんまりとした遺跡っす。目新しいものも特に発掘されなかったそうで、建国時かその前後に盗掘にあったっていう結論が国から出されてます」

「ん、だからこそなにか見つけたらおもしろいよね」

「見つけられたらっすけど〜」


 そうして遺跡に入っていくサージュたち。


 先頭はドイルとイシュバーン、真ん中にサージュ、シャルティ、ミニョンとアドラーを据え、後尾にブリジットとレティが目を光らせている。


「わあぁぁぁ……!」


 サージュが感嘆の声を漏らす。


 人が入って来たことを感知したのか、ところどころ朽ちた石造りの通路に灯りが燈っていく。


 青白く遺跡を照らす幻想的な光景に胸が踊る。


「サウスコート共和国の建国っていやあ、三百年ぐらい前だろう? それでもまだ機能してるのかい。昔の技術は凄いねえ」

「これも魔石の技術でしょうか?」


 ブリジットとレティも驚いたように辺りを見渡している。


「……いい? サージュ。興奮するのもいいけどね、勝手に走り回ったり触ったりしたらダメだからねっ」

「服屋さんに走っていくねぇねにいわれたくたい」

「うっ、それはそうなんだけどぉ……」


 姉っぽく注意するも見事な返しをされ涙目のシャルティ。


「ふふ、じょーだん。ありがと、ねぇね。気をつけるね」

「……! うん!」


 こうして始まる遺跡探査。


 特に彫刻された壁や像などもなく、ただ無機質な空き部屋と通路があるだけ。


 黙々と進んで行くだけなので、大した時間を要さず最深部まで到達した。


 そこは一際広い部屋だった。


 部屋の奥には長方形の石が鎮座されているのみで、他には棚のようなものや割れた鏡が散乱しているだけ。


 これまでの部屋にはなかったその特異な石を見つめながら、サージュが口から言葉を吐く。


「……テーブル、じゃない。まるで祭壇。ここは宗教施設だった?」

「この辺りは昔から太陽神信仰が盛んだ。もし祭壇だとしたら、わざわざ地下に作っているのは異教か、もしくは……」


 呟きに応じたのはイシュバーン。サージュの後ろから石を見下ろしている。


「……太陽から隠れるようにしてる。月を信仰する宗教なんてないし……悪魔信仰とかかな」

「あり得るだろう。この広大な砂漠においてオアシスはここだけ。ある種特異点ともいえるここで、悍ましいことをしていたとしてもなんら疑問ではない。まあ、"悪魔信仰"なんて聞いたこともないがな」

「ふぅむ……ふしぎ。あんがい避難場所だったりしてね」

「ふっ、だとしたら面白いな。オアシスに浮かぶ……いや、沈むシェルターか」


 サージュとイシュバーンだけではない。各々が、部屋の至る所を見て、触って、探査する。


 しかし見つけたのは石以外に一つだけ。


「ーーやっぱりこれじゃない? 絶対文字だと思うわ!」


 シャルティが見つけたのは、横たわる石の裏に刻まれたもの。


「ポンコツなねぇねが見つけたってことは、もう調べられてるんでしょ?」

「ううぅ……サージュが冷たいよぉ」

「はいっす! それはおそらく"紋様"ではないかとされてます。古代の文献をさらってもどの文字とも一致しなかったそうですので」

「え〜紋様ですか? 私には文字に見えるんだけどなあ……」


 ドイルが下調べした書類を見ながら答えるも、釈然としない様子のシャルティ。


 うんうんと唸るシャリティをよそに、レティがサージュに報告をする。


「やっぱり地図通りよ、サージュちゃん。風を使って調べてみたけど、隠し扉も隠し部屋もない。目に見えるものが全てだわ」

「……そう」


 意気消沈したように目を伏せる。これ以上ここに居ても収穫がなさそうなので撤収を告げようとした時、二つの声が響く。


「ーーあっ、そうだわ! これやっぱりーー」

「ーーそこにいるのは誰だいっ!」


 シャルティの声はブリジットの棘のある声に掻き消された。


 弾かれたように部屋の入り口に顔を向ける一行。


 そこにはローブを纏った人がいた。


 それはつい先日出会った女占い師と同じ姿でーー。


「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️」


 ローブの人物がなにやら唱えると、部屋全体が輝き出す。


「あの時のっ!? 何をする気だいっ!」


 動揺するサージュとシャルティとは違い、ブレイドの面々はすぐさま戦闘態勢に移行。


 イシュバーンがシャルティとサージュの前に立ち、レティは後ろに下がる。ドイルは影を潜め、ブリジットがローブに突撃する。


 ミニョンとアドラーは何もせず見ているだけだ。


 しかしその高速の反応でも、対応できないものがあった。


 ブリジットの槍が届こうという瞬間、輝きを増し続ける部屋が一層輝くと、部屋の外にいたローブ以外全員がその場から()()()のだ。


 ーーついに悪意が牙を向いた。

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