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第四話

「それはいまからここでみせるよ。パパ! ねぇね! 手伝って!」


 急に呼ばれたことで驚くカインとシャルティ。何も聞かされていなかったので寝耳に水である。


「……パパってことは……」

「大量殺人犯じゃないか」

「この会場に来てたのか……ッ」


 こそこそと非難される中を悠々と歩いて壇上に向かうカインと、その背中に隠れるように小さくなっているシャルティ。


 ーー壇上に立つ二人。


 ドッキリが成功したことが嬉しいのか、ニマニマしながら二人を出迎えるサージュ。


「ふふふ、おどろいたでしょ」

「まあ、な。で? なにをしたらいいんだ?」

「パパはステイ。まずはねぇね」

「ーーえ? 私っ!?」


 目を白黒させるシャルティをよそに、サージュは実演を始める。


「ここに風の魔石をこめた弓があります。はい、ねぇね、射って」

「え、え? こ、こう?」


 レティから借りた弓を引き、矢を射る。それは風を纏って、ただの矢よりも鋭く遠く飛ぶ。


「はい、おじいちゃんも射って」


 次に、先ほど反論した翁に弓矢を渡す。それも同じく風を纏って飛翔していくことが確認される。


「うむ、武技を行使できるな」

「ん、これで準備おっけー」


 翁より弓矢を受け取るサージュ。それを抱えながら語っていく。


「強い冒険者と弱い冒険者の違いに武技があります。同じものをつかっても、つかいてによって差が出ます。これは通常、じゅくれんによるもの〜とされますが、実のところ魔力の差です。それを見せます」


 はいパパ、と弓をカインに手渡す。


「みんながしっかりしている内にいっとくね。人には魔力がある。これがその証明。あとはみんなが精査してね」


 聴衆より視線を切ったサージュはカインにお願いをする。


「……パパ。あたしみんなからひどいこといわれて傷ついた。ぶろーくんはーとした。だからみんなを驚かして見返してっ」


 その言葉で全てを悟ったカイン。ニヤリと悪巧みを考えついた笑みを浮かべながらサージュの頭を撫でる。


「わあった! よく頑張ったな。流石は俺の娘だ」

「っ! むふー!」


 頬を緩める娘の顔を見て、カインは固有魔法を発動する。


 ーー轟ッ。


 瞬間、第八講堂は、いやユガの大会議場は凍りつく。


 一切合切を支配する王の覇気が覆い尽くしたからだ。


 例に漏れずカインの体からは視認できるほど濃密な魔力がゆらゆらと溢れ出る。


 レティの弓矢を構え、矢を講堂の天井に向ける。


 それだけで予想される未来に顔を青くするシャルティと、鼻高々のサージュ。


 魔力を弓矢に込める。流石のカインもブリジットの説教に懲りたので、武器を壊さぬよう込める魔力は少な目だ。


 しかしそれでも講堂内には風が渦巻き、次第にそれは鎌鼬を帯びたものに変貌していく。


「俺の娘を舐めんじゃねぇぞ」


 カインの赤銅色の魔力によって、陣風は血の色染みた不気味さを見るものに与える。


 ついに引き絞った右手を放し、技名を叫ぶ!


「ーーーーーー『禍ッ風(まがつかぜ)』ッッ!」


 天に向かって放たれた矢は、命を刈り取る死神の鎌。


 ズウォォォォ! という轟音をともなって、第八講堂の屋根全てを灰燼に帰し、ユガの上空に血の風を撒き散らす。


 ……他方講堂内には書類や備品や服、参加者の髪が散乱している。


 顎を落とし、唖然とした研究者たちとは対照的に、満足気なサージュとカイン、弁償諸々を考えて青褪めたシャルティ。


 屋根がなくなり開放的となった第八講堂で、サージュは締めの言葉とともにペコリと頭を下げる。


「ーー以上で発表をおわります。ごせーちょーありがとうございました」


 達成感に満ちた顔のサージュはカインの手を握って壇上から降りていく。それを見て慌てたようについていくシャルティ。


 しかし所定の席には戻らない。それを不思議に思い問いかけるカイン。


「なあサージュ。他の人の発表はいいのか?」

「ん! どうせパパにビックリして発表どころじゃない。無駄な時間を過ごすくらいなら家族で街をおさんぽしたい」

「うおおおおおおお! なんていい子なんだ! 愛してるぜサージュぅぅぅ!」

「ん、あたしも」


 感極まってサージュを肩車するカイン。


 しかし盛り上がる二人をよそに、シャルティは険しい顔で注意してくる。


「ちょっとお父様!? 壊しちゃった屋根はどうするのですか!?」

「……ん〜、なんとかなるだろ!」

「なりませんよ!?」

「……これは実証実験によるものだから、学術交流がしゅーぜん費用をだしてくれる……はず」

「だそうだ!」

「そんなわけないでしょうが……」


 頭を抱えるシャルティを安心させるように手を握るカイン。


「ーーっな!? て、手を握ったからって許しませんからね!」

「許さなくていいからそうプリプリ怒んなって。笑ってる方が可愛いぞ?」

「そそ、そんなこといわれたってぇ……えへへ」

「……ねぇねはチョロい女」


 そうして天井が消失した第八講堂から、動乱に包まれた大会議場から、悠然と出ていくカイン一家。


 今年の学術交流は、サージュの研究発表よりもカインの騒動の方が話題を呼んだ。


 サージュへの批判は思ったよりも向けられなかったのだ。


 こうしてあっさりとイベントは終了し、サージュは動き出す。

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